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東方亜幻空 ~Fantasia of another sky  作者: とも
三章 「浄化異変」ACT1
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32 反撃:壱

 「行くわよ、私達は奴等に止めをさせない……………」

 「摩多羅に止めは任せるわ」

 

 霊夢の言葉を聞いて、摩多羅が小さく頷いた。

 

 「…………………」


 木が揺れる音に混ざり、目の前の女の息が聞こえる。

 微かではあったが、息の音が聞こえるのだ。


 「……………………!!」


 霊夢が動こうとした瞬間、女も動いた。

 

 「やっぱり…………… 身体能力がバカみたいに高い」


 霊夢が何とか斧の一撃を回避する。

 霊夢も薄々気付いてはいた。この女を人間の感覚で見ていてはいけない。

 今の斧は、最早目に追える速さではなかった。

 霊夢の鍛えられた視力でも、見ることは叶わなかった。


 「霊夢、下がってろ!」


 魔理沙が霊夢を押し退けるようにして前にでる。

 手にミニ八ヶ炉を構え、そこから弾幕を放つ。


 「マスタースパーク!」


 魔理沙の放ったマスタースパークにより、女は全身を包まれた。

 本来、これを受けて立ち上がれる生物はそうそういない。

 それこそ、妖怪や神の中でもかなりの力を持たなければ。

 しかし、女は軽々と耐えて見せた。

 土煙の中から現れた体は、傷一つ負っていなかったのだ。


 「隙アリッ!!」


 土煙に紛れて接近した妖夢が女に刀を振る。

 しかし、有り得ない反応速度でその刀は防がれる。

 女の持つ斧の柄が壁となったのだ。

 妖夢は困惑していた。

 何故、防がれたのか。

 目に見える時間は、ゼロに近いのに…………

 これを現代の科学者が見れば、一つの答えに辿り着くだろう。

 そう、脳まで情報が辿り着くまでの遅延、0.1秒。

 妖夢はいくら半分霊だと言えど、半分は人間である。

 脳まで情報が辿り着くまでの遅延は存在する。

 しかし、相手は人間ではない。

 そもそも、生物かすら怪しい。

 そんな奴等に遅延はない筈だ。だから簡単に止められてしまう。

 霊夢は、空間を把握していると予想した。そして、摩多羅も同じような予想を。

 その予想は当たっていた。

 空間を直接把握する事で遅延のない動きが実現するのだと。

 そして、体の動きにも遅延は存在しないだろう。


 「行くぞ!」


 摩多羅の叫びと同時に弾幕が放たれる。

 異界の神を殺すための、神殺しの槍。

 形は竹槍でも、その能力は神殺し。

 当たれば人溜まりもない。

 

 「うぉぉぉおおおお」

 

 初めて女が声を出した。

 しかし、その声はおぞましく、意識ある者のようには感じなかった。

 女の体を槍が貫く。

 本来なら致命傷だった。

 しかし、これも理不尽ではあるが死にはしていないのだ。

 こいつらには致命的な弱点はない。

 急所ですら、存在しないのだ。

 霊夢の予想では、奴等は人間の姿を模倣しただけであって、急所も関係ない。

 そう予想していた。

 実際、急所の概念はない。

 頭に突き刺さっていようと、心臓が貫かれていようと、関係ないようにこちらに迫ってくる。


 「せい」


 摩多羅が軽く声を出して槍を放つ。

 再び大量に突き刺さる。しかし、女の動きは鈍くすらならない。

 不死身……………

 霊夢の心の中には一種の畏怖の感情が芽生えていた。まるで蓬莱人。不老不死の禁忌を犯した者。

 槍が既に30本は刺さっている。

 しかし、全く動きは止まらない。

 手に持った斧を振りかざし、こちらに向かってくる様は狂気としか言いようがない。

 合間を縫い、魔理沙達も攻撃している。

 しかし、勿論攻撃は通らない。

 この中で唯一まともに神相手にダメージを与えられるのは摩多羅だけ。その攻撃が効かないのなら、勿論他の攻撃が効く筈がない。

 

 「奴、まさか」


 摩多羅が呟いた。

 その時、霊夢も摩多羅の考えていたことに気付いた。

 これは、人形だ。

 精巧に作られた、戦闘人形。

 だからこそ、動きは鈍くならない。痛みを感じないのだから。

 神でないのだから、神殺しも効く筈がない。

 効くのは、少ない攻撃だけ。

 ここにアリスが居れば、と魔理沙は思った。

 彼女は人形使い、人形相手の戦闘は得意な筈だ。

 しかし、アリスはここには居ない。

 純狐の攻撃すら効かないのだ。

 どのような製法で作られているのか知りたいが、どうせおぞましい方法だろう。

 特に、魂を奪うような。 

 前に摩多羅が使っていた儀式は、元々は異界の神の力。

 それを摩多羅が改造し、使用したのだ。

 難解な術式を解読し、再構築する。その難易度は、通常の比ではない。通常は、難解ではないのだ。いたって単純である筈だ。

 もっとも、今はそんな術式も無い。

 それこそ、今自分達に出来る事はこのまま攻撃を当て続けるだけだ。

 しかし、それが続けばいつかは倒せる。

 人形はエネルギーを使い果たせば崩れ落ちるようになっているのだから。

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