29 下準備
「……………まだ、要塞への突入はやめた方がいい」
摩多羅が冷静にそう言うが、霊夢はそれに対して大きな声で言う。
「何故なの!? 早く破壊しないと……………」
若干怒りの表情も見える。
どうやら、相当焦っているようだ。
「霊夢。お前がまだ異界の神々に対抗出来ないのは、お前自身知っているだろう」
「うっ…………」
引き下がる霊夢。
それを見て、摩多羅は続けた。
「まずは、宝玉を回収するのだ。それを砕きシステム能力を手にいれろ」
「言っただろう? お前ではまだシステムに認められていないと」
それを聞き、霊夢と純狐が答えた。
「私達はまだデータの集合でしかなく、一つの"動的物体"としては認められていないのよね」
霊夢の言葉に純狐が続く。
「そして、宝玉を砕き力を手に入れる事で初めて"動的物体"として認められる」
それを聞いた摩多羅が少し嬉しそうに言った。
「そうだ!」
「だから、行ってはならないのだ」
少し押さえたように摩多羅が続ける。
霊夢達もある程度システムについては知っていたようだが、ここから聞く話は初耳だったようだ。
「基本的に、システム権限を持たない者はシステムの中では弱者。外神であろうと、旧支配者であろうと、システムには抗えん」
霊夢達には分からない単語が含まれていた。
これは外の世界の言葉なのであるのだから仕方がない。
システムの用語ではなく、外の世界の神話の用語。知識に長ける摩多羅だからこそ知る知識の一つである。
幻想郷は基本的に外の世界とは繋がっていない。
時折外の世界から人々がやって来たり、物質が落ちてきたりもするが、基本的には外の世界の物がこちらに来る事はあり得ない。
外の世界の人間を保護し、戦力にしようとする計画も、裏では異常事態が発生していた。
無論、摩多羅や紫、賢者達はそれを知っていた。勿論正常にしようとしたが、そこに異界の神々達の情報が入ってきたのだ。
だからこそ賢者達は無視して戦力を蓄える道を選んだのだ。
しかし、その苦労もむなしく、霊夢達と合流できた民は、へカーティアと摩多羅だけ。しかも、現在辰は行方不明である。
「しかし、システム権限を持てば話は別。私のように、コマンドを扱う事も出来る」
摩多羅は、コマンドがシステムに作用する能力だと突き止めていた。
システムはデータで構成されているため、コマンドを使って書き換えているのだと。
だから、いきなり物質を生み出せたりするのだ。
そこまで突き止めていた摩多羅でも、今のシステム権限は3である。
システムの形式に乗っ取って言えば、「system class 3」である。
どちらかと言えば、権限ではなく優先度に近い。コマンドを打ち合った時に、より権限が高い方が発動するのを摩多羅は知っていた。
「まずは、システムの権限を手に入れる事が最優先だ」
「それ以外の事は考えるな」
摩多羅の言葉に霊夢と純狐は頷いた。
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「今だ!」
摩多羅の声に反応して純狐が動く。
異界の神___そのときは青年の神だった___の腹に純狐の拳が入る。
無論、それに続いて霊夢も一撃入れる。
結局止めは摩多羅なのだが、それでも霊夢達にはある程度力があった。
神を怯ませる____それだけでも凄いこと____をいとも簡単にやってのけた。
元々霊夢と純狐には強大な力が備わっており、今もそれは衰えていない。
霊夢は巫女としての能力を、純狐は本質から来る純粋なる力を武器にしていた。
そして、摩多羅は本来の能力とシステムの力を。
敵になっている者達の力を使うのは少し躊躇われたが、今はそれを気にしては居ない。
勿論、霊夢は欠片も気にしないだろう。
何故なら、霊夢はシステムがこの世界だけでなく無数の世界に共通する事であることを知っている。
システムに支配されているなら、いっそシステムの力を使ってやろうと、そういうことだ。
「行け、賢者よ」
純狐が下がり、そこに摩多羅が入る。
そして、摩多羅が一撃加え、神を消滅させる。
後に残る宝玉を手に持つ。
「…………集めたい程の物ではあるがな」
摩多羅が呟く。
確かに、宝玉は美しく、光沢の有るそれは宝石にも近い。
これが大事な物質でなければ、みんなコレクションしていただろう。
「さあ、砕け」
霊夢に宝玉を手渡し、砕かせる。
手に吸い込まれる光。
「慣れないわね、これは」
「けれど、力は感じるわよ」
霊夢は力が溢れるのを感じていた。
しかし、それでもシステム権限は手に入らないと摩多羅は言う。
「後、数十個必要だ」




