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東方亜幻空 ~Fantasia of another sky  作者: とも
序章 「天空に座す秘神」
3/56

2 後戸の国

 「そうか……… 夢じゃないのか」

 

 夜寝たとき、夢なのかもしれないと感じていたが、残念ながら夢ではなく現実だったようだ。

 博霊神社は手入れはされているものの、狭い神社だ。実際、俺達が寝るときに、同じ部屋でなければ寝れない状況であった。幸い布団は二枚あったため同じ布団で寝るような事は無かった。


 「まだ霊夢は寝てるな………」


 それもそのはず、今はまだ夜が明けたばかりなのだ。

 何もしないのも馬鹿らしいので、俺は素振りをすることにした。

 博霊神社の境内に出て刀を抜く。

 出来るだけ目立たない所で振ることにする。


 「はっ!!」


 今日の最初の一閃は見事に空を斬り裂いた。

 続けて垂直斬りからの水平斬り。

 俺も随分と刀に慣れてきた。最初のように刀の腹で殴るような事はもうない。

 それにしても、この短時間で良くここまで慣れたものだ。これも摩多羅の加護の影響かもしれない。

 

 「辰? どこに居るの?」


 おっと、霊夢が呼んでいる。

 そろそろ素振りも止めて霊夢の所に行かなくては。


 「俺はここだ」

 「ご飯出来たわよ」


 さて、食べるとするか。ここに来てから最初の食事だ。楽しまなくては。


 「ねえ、辰。何をやってたの?」

 「素振り」


 ご飯を食べながら霊夢が聞いてくる。


 「素振り? ここに来たのは二日目なのに熱心ね」

 「いや、楽しくなってな」

 「そう」


 そういえば、この神社には人が余り来ていないようだが、どうやって金を稼いでいるのか。

 幻想郷だって日本と同じく金のシステムがあるはずだ。


 「たまに沢山賽銭を入れてくれる人が居るのよ」

 「物好きだな」

 「何よ……… ここが辺鄙だって言いたいわけ?」

 「いや、違うぞ?」

 「で、どれくらい入れてもらえるんだ?」

 「えっと………… 一回に数千万位」

 「多いな………… 単なる物好きじゃないな」


 そんな事を話ながら時は過ぎていく。

 

 「どうして俺を信用したんだ?」


 前から気になっていた。 

 一度敵として見られたのに、何故ころっと態度を変えたのか。


 「あなたの反応が何も知らない人の反応だったから」

 「私は、この幻想郷じゃあ強い方なのよ?」

 「へえ………」

 「で、人に会えば私の話を聞くわけ」

 「だから、私に攻撃されたら殆どの人間は逃げるのよ」

 「妖怪とか神じゃない限り、私とまともに戦おうとする奴はいないわ」

 「で、どれくらい強いんだ?」

 

 俺にそれを聞かれて霊夢が一瞬口ごもる。


 「そうね……… 霊界に殴り込んだり、寺を潰したり、月の都に乗り込んだりかしら」

 「どれだけ殴り込んでいるんだ………」


 それにしても、この霊夢と同等に戦えたと言うことは俺は結構強くなっているのか。幻想郷にどれだけ強い奴が居るかは知らないが、霊夢の口ぶりから結構強い方では無いのか?

 

 「私、裏切られたりするのは慣れてるから」

 「慣れちゃいけないと思うんだが」

 「まあ、それはいいとして」

 「私、あなたを信用することにしたのよ」

 「………それなら良いんだ」


 良かった。俺は多少は信じられているようだ。

 昨日の夜は、確か霊夢が誰かと話していたな。誰だったか。確か、若い女の声だったな。摩多羅ではないはずだ。

 霊夢の反応からして、どうやら摩多羅は霊夢の敵らしいし、わざわざ夜会っているとは考えにくい。


 「そうだ、辰。あなた、着いてきなさい」

 「えっ、どこに」

 「いいから」


 もうご飯は食べ終わっていたので霊夢に着いていく。

 霊夢が立ち止まったのは神社の境内の裏。

 そこには、巨大な扉があった。どこか摩多羅と会った世界の扉と似ているのは気のせいだろうか。


 「この扉は、後戸の国に繋がっているみたいよ」

 「後戸の国? もしかして、扉が沢山ある?」

 「そうよ。今から殴り込みに行くわ」

 「ま、待て! 摩多羅と戦うつもりか?」

 「ああ、話してなかったわね。私、もう戦っているわよ」

 「で、勝ったのか?」

 「一応ね。でも、あの時は少し分かりにくい感じだったわ」

 「分かりにくい?」

 「何て言ったらいいんだろう………… その、いつの間にかここに戻されていたのよ」

 「だから、もう一回会いに行くのよ」


 気付けば、霊夢の後ろに扉が現れている。

 何だろうか。


 「季節の扉よ。多分、アイツはこの力を利用しているのよ」

 「どうやって?」

 「この扉は、後戸の国とここを繋いでいるのよ」

 「だから、あのとき後戸の国をこの扉を使って追い出されたのなら、辻褄が合うわ」

 「それじゃあ対抗のしようが無い」

 「知ってる? 私がアイツに会いに行ったのは、異変解決のためよ」

 「場所によって四季が乱れる異変よ」

 「それは大変だったな」

 「そうでしょう?」


 そういえば、今の博霊神社は桜が多いな。

 ここは春が乱れているのか?


 「で、これを持ってきたわけ」

 「何を?」

 「季節の境目、土用よ」

 「土用ねえ………」

 「これなら、戻される季節も無いじゃない?」

 「そうか……… よく考え付いたな」

 

 もしかしたら、昨日の晩は土用の発想について話していたのかもしれない。

 

 「さあ、着いてきなさい」


 そう言って霊夢は扉に入ろうとする。


 「ちょっ、なんで俺も」

 「あなた、アイツに加護を貰ったんでしょう?」

 「対話で有効に使えるかも知れないから」

 「俺は物扱いかよ………」


 しかし、俺は行けない。

 何故なら、俺はあの世界ではろくに動けないからだ。

 最後にあの世界を出ていったときも、摩多羅に手伝って貰い扉を潜ったのだ。

 

 「えっと、あなた飛べないの?」

 「飛べるわけないだろ? おれは人間だ」

 「私だって人間よ」

 「それにしても、困ったわね」

 「あの強さだから、飛べると思ったのに」

 「ここの人間は飛べるのか?」

 「そうね、殆ど飛べるわ。人間も、妖怪も、神も」

 「本当かよ…………」

 「大丈夫よ。今から練習すれば」


 それからは練習だった。


 「そう、そんな感じ」

 「うわ、飛んでる」

 「それだけ飛べれば大丈夫でしょう」

 「いや、まだフラフラしているぞ?」

 「大丈夫大丈夫!」


 実際、まだフラフラとしか飛べないのだが、大丈夫だろうか。

 まあ、最悪前のように止まっていれば良いのだ。

 それにしても、この技術は不思議だな。

 俺は自分の力で飛んだ方がいいと言われた。実際、自分の力で飛んでいる。

 霊夢によれば、加護を受けた影響で少しは霊力や魔力が上がったらしい。


 「さあ、行くわよ」


 そう言って霊夢は扉に入っていく。

 それに続いて俺も入る。

 またあの感触だ。意識が持ってかれそうになる。

 また、気絶した。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「さて、まただな」


 再びこの世界に来た。

 やはり、扉が多く浮いている。

 さて、飛んでみるか。


 「やっぱり、フラフラする」


 まあ、良いだろう。どうやら、俺の方から右に流れが有るようだ。

 これに沿っていけば、摩多羅には会えるはず。

 そういえば、霊夢は?

 周りには居ない。やはり、はぐれてしまったか。嫌な予感がしていた。


 「よし、行くか」


 飛んで流れを進む。

 やはり、速い。前にここで来たときの二倍以上速い。

 しかし、これでも霊夢より遅いのだ。霊夢はもう軽く電車位はスピードが出ているのではないだろうか。

 俺のは車位か。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 かなりの時間が掛かったが、無事に中心まで辿り着いた。

 前よりも時間が掛かってしまったように感じる。

 どうやら、前よりも遠い所に出てしまったようだ。


 「何だ、辰か」

 「またここに何の用だ?」

 「いや、霊夢に引っ張られてな」

 「霊夢……… あの巫女か」

 「先程戻っていったぞ」

 「入れ違いか………」

 

 一瞬、摩多羅の顔に汗が浮かんでいたように見えたのは気のせいか。

 それにしても、入れ違いでここに来てしまったとは運がない。

 ここに居ても余り出来る事は無い。

 

 「あの巫女は私に勝っていったぞ」

 「ま、負けたのか?」

 「安心しろ。全力ではない」

 「全力ではない?」

 「ただの人間に本気を出しては可哀想だろう?」


 それにしても、霊夢は摩多羅に勝ったのか。いくら摩多羅が本気では無かったといっても、神に勝ったのか。どうやら、本当に強かったらしい。


 「もしかして、お前はあの巫女と最初に会ったのか?」

 「そうだが………」

 「災難だったろう、辰。あの巫女なら、お前を襲ってもおかしくはない」


 実際、襲われたのだがな。


 「さて、もう戻るのか?」

 「ああ」

 「ふむ、そうだな………」

 「二童子よ。居るか?」

 

 摩多羅が呼んで現れたのは二人の少女。もしかして、摩多羅の部下であろうか。

  

 「辰を送っていってやれ。ここから扉は遠い」

 「分かりました」


 なんだ、部下か。それにしても、扉は遠い、か。扉の位置が入れ替わっているのか?

 

 「何度もありがとう、摩多羅」

 「礼を言われるような事ではない」

 「じゃあな」


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