21 水晶の森
「誰だお前は」
俺は目が覚めると叫んでいた。
それもその筈、目の前に見たことのない女が立っていたのだから。
「紹介しよう」
「どこから出てきた」
音もなく女の背後から純狐が姿を現す。
「私の友人、ヘカーティアだ」
ヘカーティア………
そうか、この女がそうなのか。
それにしても____
「変なT___おっと」
嫌な予感がした。
言うのはやめておこう。
「辰、起きてたの?」
霊夢が俺の後ろから声を掛けてくる。
「ああ」
「じゃあ、もう出発するわよ」
出発? まさか、もう摩多羅達を探しに行く気か。
「早く準備して」
俺は急いで布団の側の刀を手に取ると起き上がって刀を腰に差した。
「私は隠れてるわね」
ヘカーティアが姿を消す。
それにしても、俺の近くにはいきなり現れたり消えたりする奴が多いな。
「それじゃあ、行くわよ」
霊夢はいつの間にか準備を済ませていた。
もしかしたら、俺よりももっと早く起きて居たのかもしれない。
「ああ、分かった」
霊夢の後ろを俺、その近くを純狐が歩く。
俺を徹底的に守る陣形だ。
この陣形は最初の探索の時から決めていた。
異界の神々に対抗できる俺を守るように組まれた陣形だ。いずれ全員が対抗できるようになるだろうが、それまではこれでやっていくしかない。
俺の能力は防御にも使用できるが、俺の能力は自動発動ではなく能動的に発動する。
俺に発動の意志が無ければ絶対に発動しないのだ。
そのため、俺の守備能力は俺達三人の中でもダントツに低い。
身体能力こそ高いが、異界の神々との戦いでは身体能力ではなく個々の持つ固有能力が重要となる。そのため、俺の身体能力は単に移動などでしか使えない。
一応、物理攻撃は防げるほどの力を持つのだが。
「これ、もしかして…………」
歩いていた霊夢が急に止まった。
俺は気になって声を掛ける。
「どうしたんだ?」
「このレンガよ」
霊夢が小さなレンガの破片を持って話す。
「これ、紅魔館のレンガじゃないかしら」
残念ながら、俺は見たことがないので分からない。
確か、咲夜の居た所だったっけな。
「破片だけ? まさか」
純狐が言葉を詰まらせた。
同時に俺も一つの考えに至った。
破片だけがここに落ちているのなら、それは欠けた状態で転移されたと言うことだ。
周りは草原だし、ここに来てから壊された訳でも無さそうだ。
「いいえ、多分元から壊れていたのね。あそこには化け物も多いから」
霊夢が言う。
そうなのであれば良いが、もし月の都のように先に壊されでもしていたら。
そうなのであれば、咲夜がいきなり俺を襲い、話を聞かなかったのも分かる。憎悪がそうさせたのだろう。
仮説に過ぎない事だが、確か紅魔館は幻想郷でも有数の高戦力を持つ勢力だった筈だ。
もし、滅ぼされでもしていたら俺達の戦力は大幅にダウンすることになる。
「行きましょう」
平原の境目、次は水晶の森だった。
白い水晶が複数立っている。
「へえ、これ魔力を含んでいるのね」
俺に取ってみればその価値は殆どない。
そもそも、俺は魔力は使わないのだから。
「魔法を使うときの触媒として使うのよ」
霊夢が言う。
「…………これは魂の石ではないな。これを吸収しても大した事にはならないだろう」
純狐が続ける。
確かに、これが全て魂の結晶であれば余るほどの力が手に入る。
しかし、世の中そんなに甘くない。
俺は歩き出した。
その時だった。
「やっちゃったわ」
ピキン!
と音を立てて結晶が砕ける。
どうやら、霊夢が破壊したようだ。
「おいおい、やめてくれよ」
続けて音がなる。
しかし、霊夢は割っていない。
勿論、純狐も。
「戦闘音!」
かすかに金属が鳴る音がした。
近くで誰かが戦っている。
「戦闘準備!」
霊夢が叫ぶ。
俺はそれを聞くなり刀を抜いて構える。
「伏せろ!」
俺が刀を構えるのと純狐が叫ぶのは殆ど同じ時だった。
俺は咄嗟に伏せた。
背中を風が通る感触。
それと同時に、周りの水晶の木に切断線が入った。
水平に切られていた。
同時に、木が盛大な音を立てて崩れる。
「助けて!」
「あなた、バカ妖精!?」
羽を生やした妖精が霊夢に近付いてくる。
反応を見る限り、霊夢の知人のようだ。
「大ちゃんが死んじゃう!」
そう言って妖精が指差したのは少し遠くの妖精。
どうやら、誰かと交戦しているようだ。
さっきの攻撃からして、異界の神々で間違いない。
「行くぞ!」
俺は叫んだ。
そして走り出す。




