19 変遇
「やっと戻ってこれたな」
俺達は神社に戻っていた。
この世界に移動しても、神社は全く変わっていない。
備蓄されていた食料はそのままだ。
「そろそろ、ご飯にしましょうか」
霊夢が言う。
この世界は空が赤いうえに、太陽が存在しない。
よって、夜かどうか見極めるのは困難である。
先程一瞬で辺りが真っ暗になった時は驚いた。
どうやら、突然昼と夜が入れ替わるようだ。
「私はいい」
「純狐、食べないの?」
「私は食べなくても暫くは平気だ」
そういえば、純狐は霊に近い存在だ。
食べなくても平気なのは頷ける。
「少し夜風に当たってくる」
夜風、か。
純狐も少し疲れているのかもしれない。
「さあ、食べましょう」
そう言って霊夢が差し出してきたのは、おにぎりだった。
「食料に困っているのか?」
「いいえ。いつでも戦えるようにするためよ」
てっきり、食料が足りないからおにぎりなのかと思ったが、そうではないようだ。
結構霊夢も頭がいい。
「そういえば、純狐はどこに行ったんだ?」
「夜風に当たってくるって…………」
待てよ。
この世界には風は無い。
何か嫌な予感がする。
「少し行ってくる」
俺は急いでおにぎりを食べ終わると駆け出した。
神社の境内に出て見渡す。
「純狐…………?」
見ると、境内の片隅でうずくまる純狐の姿があった。
「どうしたんだ?」
俺は駆け寄って純狐を見た。
服が赤く染まっている。
地面にも少し赤い液体が。
俺はそれが何なのかを理解してしまった。
「まさか……吐血?」
聞くと、純狐は力なく頷く。
「辰、いきなりどうしたの___!?」
「純狐!?」
「あなた、どうして…………」
純狐は口を開かなかった。
気絶している。
「霊夢、手伝ってくれ」
俺は純狐を抱き抱えた。
そのまま神社に走る。
「ここで良いか?」
「ええ、良いわ」
神社の畳に寝かす。
「どうしたのかしら」
「疲れている、では無さそうだな」
霊夢が純狐の額を触る。
霊だから体温は無いと思うがどうなのだろうか。
「辰、あなたあっち行ってて」
「どうして?」
「分からないの? 着替えよ」
俺は急いで離れた。
霊夢に殴られそうな気がしたからだ。
それにしても、純狐はどうして倒れたんだ?
もしかしたら、異界の神々の力に当てられて気分が悪くなったのかもしれない。
「静かだな」
何も聞こえない。
空を見上げると、異様に大きい月が浮かんでいる。
これだけ大きいと、かなり近いところに月があるだろう。
地面を月の光が照らしている。もっとも、その月も赤く染まっているのだが。
「そろそろ出来たか?」
俺は少し振り向いた。
それが幸運だったのか何なのか。
俺の首のすぐ近くをナイフが通過した。
「ちっ…………」
俺は振り返った。
どこだ?
どこから投げられている?
俺は探した。
投げたと思える人物どころか人すら見つからない。
「相当のんきだったわね」
声だ!
俺はその方向に駆け出した。
神社の屋根の上に、メイド服の女が立っている。
「霊夢も殺したのかしら?」
「何を言ってる?」
てっきり異界の神かと思ったが、霊夢の名を出してくるあたり、そうではないようだ。
どちらかと言えば、俺が異界の神と思われているようだ。
「……………」
女は無言でナイフを投げてくる。
それも、三本同時に。
軽くステップで避ける。
「俺は敵じゃない」
「嘘でしょう?」
くそ、信じてもらえないか。
最悪この女を殺すことも考えなくてはならない。
「何やってるのよ」
霊夢だ。
後ろに立っている。
「咲夜? 何をやってるの」
「霊夢? 殺された筈では」
「死んでないわよ」
この女と霊夢は知り合いだったようだ。
どうやら、誤解も解けそうだ。
「誤解だったわ。それでは」
そう言うと女は姿を消した。
「何だったんだ?」
「ああ、あれ?」
「敵にしないほうが良いわよ」
さっきまで余裕で戦っていたんだけどな。
「時間止めれるわよ」
そうか?
俺は全然そんな気はしなかった。
もしかしたら、無意識の内に能力を発動してしまっていたのかもしれない。
ある意味便利なことだ。無意識に発動できれば、戦いが優位になる。
自分で自在にコントロールしたいが、まだ敵とあまり戦ってない。
使い方は分かるが、自在に使えるわけではない。
これからも練習が必要そうだ。
「ああ、咲夜を仲間に引き込んでおくべきだったわ」




