15 黄昏の帰路
「そういえば、何であんた月に居たのよ」
霊夢が純狐に問いかけている。
俺も知りたい事だ。純狐は月と敵対している筈だし、どうして月に居たのか。
「観光がてら嫦娥を殺しに」
「逆じゃない?」
観光…………
まさか、月と敵対してるのに月に観光とは。
「それにしても、月の都が爆破されるとは」
「そういえば、あれは誰がやったんだ?」
月の都を消し炭にするなんて誰がやったんだか。
「紫でも摩多羅でもないらしいわよ」
「…………純狐か?」
「私ではない」
まさか、異界の神々がやったのだろうか。
まあ、そんな事はない筈だ。まだここには来ていない筈なのだから。
今は博霊神社にいる。
俺、霊夢、純狐の三人だ。
いつ神々が襲ってくるか分からないので、こうして三人で纏まっているわけだ。
「腑に落ちないわね。月の都が爆破されるなんて」
「そういえば、科学力が高いんだったな」
「そうだ。月の都にはミサイルや戦車も存在する」
ミサイルに戦車…………
まるで現代兵器だ。幻想郷とは全く違う。
「だからこそ侵略が難しいのだ。実際にやった私だから分かる」
「自慢する事じゃないな」
となると、その月の都を一発で消し飛ばした犯人は一つしか考えられない。
やはり、異界の神だろう。
「月には"森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子"もあると言う」
「一発で完全破壊など出来る筈もないが」
そうだな。
それにしても、"森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子"か。
俺でもまともに戦えないだろう。少し能力を使えば勝てるかもしれないが。
「あら、私出来そうなの知ってるわよ」
「えっ」
「核融合を操る奴なら出来るかも知れないわよ?」
幻想郷に核融合…………
どうやら、少しは科学が存在しているようだ。これまで全く科学の類を見なかったので分からなかった。
「だけど、わざわざ月を爆破する利点なんて何も無いわよ?」
「そうだな………」
「そういえば、純狐はどうやって月を侵略したの? あれだけ科学が発展していれば簡単には侵略出来そうにないけど」
霊夢が純狐に問う。
「なら、最初に"穢れ"から説明しなくては」
「穢れは、月の民が呼ぶ、我々のような生き物の力だ」
「生死等の命のエネルギーの事だ」
「月の民は寿命がない。それは、穢れが無いからだ」
「月の民にとって穢れは毒。だからこそ、私は穢れを利用することにした」
穢れ、か。良く純狐が言っていた。
異変で穢れに染まるだろうと。
「ああ、そうだ。我々にとっても穢れは毒だ」
「直接的な害は無いが、死の穢れが貯まれば、最悪死の可能性もある。可能性は低いが」
「しかし、今回のように死の穢れが多く放出される場合、我々も蝕まれる。だからこそ止めなくてはならないのだ。最悪、幻想郷が死の大地にもなる」
「さて、話を戻しましょう」
「私は能力を使い、配下の妖精を生命力の塊に変化させたわ」
「生命力の塊は穢れ。だから、月の民は逃げた」
「そして追い詰めた。分かった?」
十分に分かった。
待て。寿命がない者には穢れは毒。つまり、異界の神々にも穢れが効くかもしれない。
「やってみる価値はあるでしょう」
「ですが、彼らは我々とは根本から違う。効く可能性は低い」
バッサリと切り捨てられた。
確かにそうだろう。異界の神は俺達とは違うのだから。まず、住んでいる場所からして。
「さて、そろそろ"あれ"を話して貰いましょうか」
「あれ?」
霊夢が俺の方を向いて言う。
「あなたの能力よ」
「発現したんでしょう?」
ああ、そういう事か。
「俺の能力は"理を越える程度の能力"だ」
「異界の神々に効きそうな能力だ」
そうだな。
理の力を使う奴等にとって、ここまでのメタ能力は無いだろう。
「なら、辰が全速力で戦ってね」
「酷いな。それは無いだろう」
俺を殺す気か。
まあ、俺は攻撃は無効に出来るし、現に摩多羅の攻撃は全て無効に出来た。
「そういえば、辰。あなた人間よね?」
「いきなりどうした?」
「いいえ。摩多羅の影響で人間では無くなっているかもしれないから」
「ああ、そういうことか」
俺はまだ大丈夫そうだ。
それに、そう簡単に人では無くなりはしないだろう。
「誰か呼んだか?」
思わず振り向くと、そこには摩多羅が居た。
どこから出てきたのか。
「…………誰も呼んでいないようだな」
そのまま消える摩多羅。一体何がしたかったのか。
「そういえば、摩多羅はあなたの前だとあの口調なのね」
「ああ。俺がそう頼んだ」
日の光がオレンジに染まってきた。
どうやらもう夕方のようだ。
「さて、私は出ていくとしよう」
「ええ、純狐」




