13 魂奪の儀式
「嫦娥よ………… 待っていろ………!」
純狐からどす黒いオーラが溢れている。
「純狐! 平静になりなさい!」
霊夢の呼び掛けも通じない。
「今から殺しにいくぞ…………!」
「純狐!」
霊夢が純狐を止めようとする。
しかし、いとも簡単に霊夢ははね除けられてしまう。
「なら…………!」
霊夢はいきなり純狐に近付いて純狐の頬をひっぱたいた。
「はっ!」
「正気に戻ったわね」
予想外の攻撃に驚いた純狐が正気に戻る。
そして紫に向き直り言い放った。
「賢者よ、感謝しよう。私はもう消えることは無いわ」
「…………失敗ね」
紫が深く息をつく。
「最初の計画通り、貴女達には消えてもらうわ」
その言葉が終わる瞬間、紫の傘が発光した。
開かれた傘から16本のレーザーが円を描く。
「さて、もうすぐ儀式も終わるわ。貴女達にも協力して貰いましょう」
殺傷能力のある弾幕としては最高の力を持つレーザー型の弾幕。
それが広がり、飛来する。
「ハッ!」
霊夢が軽々と避け、紫との間合いを詰める。
「遅いわ! 辰と比べたら遥かに!」
彼女は辰の弾幕を身近に見ていた。辰の弾幕はロケットのような構造であり、超高速で飛来する。性質上全てがレーザーとなる弾幕を相手にしてきた霊夢にとっては、紫の弾幕は遅く感じれるのだ。
純狐に至っては、本来の力を取り戻した彼女にとって、弾幕なんてものは効かなくなっている。
「終わりよ!」
霊夢がお祓い棒を紫に振るう。
いくら賢者と言えど、紫の身体能力は平均的な妖怪程度である。
修練を積み重ねた霊夢にとっては、赤子を捻る事と同じ。
しかし、当然の事ではあるがお祓い棒は紫には届かない。
霊夢は瞬時に理解した。これが紫の能力の効果である事を。
霊夢のお祓い棒と紫の間の境界をねじ曲げたのだ。本来、ここまでの速度では能力を発動できないが、この空間は俗に"スキマ"と呼ばれる空間であり、紫の支配する空間である。ここであれば紫の能力は最高の力を発揮する。
「無駄よ。霊夢、貴女も理解しているでしょう?」
「ええ。でも、諦めれないのよ」
会話の途中に純狐の攻撃が割り込む。
紫の背後から、純狐の拳が迫る。
「無駄よ」
紫は当然のように境界を歪めて防ごうとする。しかし、純狐の能力がそれを許さない。
純狐の能力が歪められた境界を純化し正常に戻す。
そして、純狐の拳が紫の頬に当たる。
長き時を生きてきた純狐の身体能力は並では無く、紫にも当然のように攻撃が通るのだ。
「何っ…………」
予想外の事態に驚く紫。
そこに霊夢の攻撃が入るが、怯んでいた紫には能力を発動することは出来ず、そのままクリーンヒット。
大きく吹っ飛ばされた紫を横目に、霊夢と純狐は改めて向き直る。
「成る程、良い判断ね」
「取り敢えず、教えてあげましょう」
いきなり話し出す紫を見る。
「何を言い出すつもり? 降伏でもしようっての?」
「ここで私を倒せば幻想郷は崩壊するわ」
突如として驚きの事実を知らされる二人。
「ふうん……… どうせ幻想郷の危機とかでしょ?」
「そうよ。危機から幻想郷を救うために異変が必要なのよ」
「また、都合の良い話ね。そんな事のために大勢殺すのね」
呆れる霊夢。
実際、このときの霊夢はこの危機の重大さが理解できていなかった。
「…………そろそろよ」
呟く紫。
次の瞬間、霊夢と純狐を光が包み込んだ。
そして、二人は意識を刈り取られた。
「儀式は成功ね………」
「さあ、後は奴等を倒すだけ」
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視点:辰
「別の世界の神…………」
「そうだ。その神達がここに侵略してくる」
何を言っているのか。
別の世界の神がここに侵略してくると言っているが、理解できない。
摩多羅が集めていた力で対抗するつもりなのだろう。
「そうだ、これをしなくては」
「何をするつもりだ?」
「魂を戻す」
「まさか、そんな事が出来るのか!?」
「出来る。魂を戻し定着させるのだ」
そう言った瞬間、摩多羅の手から光が溢れ出す。
その光が消えた瞬間、俺は命を感じた。世界中から命が戻ってくる感触がする。俺の能力で世界を感じれるようになった為に、察知できたのだ。
「馬鹿な……… そんな事が出来るのなら、俺達は歯向かう必要なんて…………」
「そうだ。その必要は無かった」
「しかし、お前の能力は発現し、お前は力を得た。それだけでも意味がある」
「………そうだな」
摩多羅がいきなり手を掲げた。
「さあ、少し飛ぶぞ」
「飛ぶ?」
「そうだ。お前の仲間の元へ」
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次に俺が目を覚ましたのは、多数の目が浮かぶ空間だった。
「霊夢!?」
近くに霊夢が居た。俺は思わず名を呼んだ。
「辰なの!?」
霊夢が駆け寄ってくる。
「良かった、死んだんじゃないかと………」
「それはこちらもだ」
見渡せば、純狐もそこに居る。
そして、途中で別れた永琳も。
「さて、話そう」
摩多羅が話し出す。
どうやら今から、先程の神々について話すらしい。
「さて、私は出ていきましょう」
知らない女が姿を消す。恐らく、紫であろう。
「さあ、全員揃った事だ、危機について教えよう」




