12 境界の賢者
視点:霊夢
「…………ごめんなさいね」
スキマ空間に立つ霊夢と純狐。
そして、力無く倒れる藍。
紫の式神であり、妖獣としては相当に強いはずの彼女だったが、流石に幻想郷最強クラスの強さを持つ二人には叶わなかったようだ。
「呆気ない」
「そうかしら? まあ、貴女からしたら雑魚でしょうけど」
深く息をつく純狐を横目で見ながら霊夢が言う。
「さて、行くわよ」
「……………そうね」
霊夢を追いかける純狐。
「本当に居るのかしら」
疑問を口にする霊夢。紫は神出鬼没の妖怪故にどこにでも現れる。そして、それは居場所が不定と言う事でもある。最悪、この空間にも居ない可能性がある。
この空間に繋げたのは計算の結果からであり、一番居る可能性が高かったからだ。しかし、それでも居ない可能性も存在する。
だが、現時点での異変では、紫は異変を起こした張本人であり、純狐達のように疑問を持っていた人物からすれば攻撃対象である。危険を避けるためにも自らの支配する空間に居る可能性が高い。
「来てしまったようね」
突然として霊夢達の目前に現れる紫。
「どういうこと? 説明しなさい」
お祓い棒を構える霊夢を見て、紫は戦意はないとばかりに両手を上げた。
「待ちなさい、私に戦う気はないわ」
「…………なら、説明して貰いましょう」
霊夢が言う。
「では、お話ししましょうか」
紫の言葉が終わり掛けた時、突然純狐が霊夢の前に現れる。
霊夢の前に立った純狐の腕に紫の傘が受け止められている。
「……………気を抜かない方がいいわ」
純狐の言葉に頷く霊夢。下げていたお祓い棒を再び構え直す。
「やっぱり、戦うのね」
「"儀式"が終わるまで時間は稼がせて貰うわ」
「"儀式"、ね。やっぱりこっちは本命では無かったのね」
霊夢は事前に読んでいた事が有った。この異変の本質がエネルギー収集であれば、紫はそれには向いていない。紫はあくまでこの異変を起こし、人々を惑わすいわば"煽動役"であると考えたのだ。
そして、力を集めると言えばつい最近の異変である"四季異変"の首謀者、摩多羅隠岐奈が四季の力を集めていた。彼女なら力を集める事には向いていると考えた霊夢は敢えて他の賢者達には目もくれず紫と摩多羅のみに目を向けていたのだ。実際は、霊夢が賢者達の事を殆ど知らない現状が影響していたのだが。
「どうせ、摩多羅が一枚噛んでいるのでしょう?」
霊夢が紫に問い掛ける。
「…………そう分かっているのなら、何故こちらに来たのです?」
「あっちには十分な戦力を送ったわ。私達は余りよ」
「まさか、予定が狂って居るのは…………」
勿論、全てハッタリである。確かに戦力を送ったが、たった二人であり十分とは言えない。後から見てみれば、確かに十分であったが。
「賢者よ。何故この異変を起こした!」
「幻想郷を危機から救うためよ」
「そんなことをすれば、世界が穢れに満ちるわ」
深刻そうに紫を見つめる純狐。
「穢れ? そんなものは、関係無いわ」
「…………なら、やらせてもらおう」
紫を睨む純狐。
それを見た霊夢が叫ぶ。
「まさか、あれを使うつもり!?」
そう、純狐の能力の一端。
穢れに満ちた者を無条件で殺すことが出来るある意味最強の能力。
紫も穢れを持っている。多少ではあるが、純狐が能力を発動するには申し分ない量だ。
「さあ、賢者よ。無に還りなさい」
純狐が能力を発動しようとした瞬間、紫が動いた。
たたんだ傘を純狐に突き立てる。能力を発動するために意識を向けていた彼女は、反応出来ずにそのまま受けてしまった。
「カハッ……………」
血のようなものを吐き出す純狐。
本来仙霊であり、人間とは違った本質を持つ純狐ではあるが、いとも容易くそれを突き破って見せた。
「純狐!」
霊夢が思わず振り向く。
よくよく見れば、純狐の体が少し透けてきている。
「まさか………… もう限界なの!?」
「うっ………… 大丈夫だ」
起き上がる純狐。
どうやら、もう限界が近いらしい。まさかこれほどにも早く限界が来るとは思っていなかった二人である。
「あら? どうしたのかしら?」
「ふふ……… 我が宿敵は死んだ。もう私も死ぬ」
「それまでに賢者よ、お前を殺すわ」
改めて向き直る純狐。
しかし、力も限界に近いようで、喋る声にも力が無い。
「宿敵………… 嫦娥の事かしら?」
「そうだ! 私の不倶戴天の敵………… しかしもう死んだ!」
不思議そうに首を傾げる紫。
「あら、嫦娥ならまだ生きているわよ」
「あの爆発からも逃げて見せたわ」
その言葉を聞いた瞬間、純狐が目を見開いた。
「賢者よ………… 本当か?」
「そうね。何か?」
純狐がニヤリと笑う。
「賢者よ………… 今、貴女は決定的な失敗を犯したようね」
「そのまま黙っていれば、私は存在意義を失い消滅したのに」
「私の憎しみは再び蘇る」




