9 狂乱の舞
「悪いが通して貰う。無理にでもな」
そう言って俺は刀を構え直した。
「じゃあ、始めるよ!」
その言葉が舞から発せられた瞬間、二人は背を合わせた。
何をするつもりだ?
そんな事を思う暇さえなかった。
二人は背を合わせた状態で踊り出したのだ!
「何をやって____!?」
何をやっているのか分からなかった。
しかし、二人の気迫が強大になっていくのを感じ、俺は警戒を強めた。
そういえば、二人は「二童子」と呼ばれていた。この躍りと何か関係が有るのだろうか。摩多羅は太鼓を側に置いていたし、もしかするとこの二人は躍りに関する能力を持っているのかもしれない。
「辰! 早く二人の躍りを止めなさい!」
永琳が叫ぶ。
俺はそれを聞いて我に帰った。
接近して刀で切りつける。
「…………はっ!!」
二人の掛け声と同時に手が一本ずつ出された。
そして、俺の刀はいとも簡単に止められてしまったのだ!
高い金属音と共に刀が止まる。
この感じは霊夢の結界に似ている。無理に霊夢の結界を突破しようとした時の反発に似ている。
なら、更に力を込めれば突破できるはずだ。
「セイッ!!」
一気に力を掛ける。
すると、パキッと割れるような音がして二人が大きく吹っ飛ぶ。
そこを俺の刀が通過した。
「永琳! 片方を頼む!」
俺は永琳に里乃の相手を任せ舞に向かい合った。
「さあ、これで結界は使えない!」
後から知ったことではあるが、このときの二人は互いに躍り合う事で力を高めていたらしい。
その力で結界を擬似的に作り出していた。これの本質は純粋な力の障壁であった。そう、永琳の指示は的確であった。もし二人が躍り続けた場合、最悪は俺たちでは敵わない相手であったかもしれないのだから。
「調子に乗るのは早いよ」
その言葉と同時に舞は手に持った笹の枝を振った。
すると、そこから竹のように長いレーザーがこちらに向かってきた。
俺は間一髪目視して回避出来た。もし何も予備動作なしで出てきていたら、きっと俺は死んでいた。それは、先程まで俺の頭が存在していた場所をレーザーが射ていたからだった。
俺は刀を構え直して舞に向けた。
一瞬唾を飲んだように見えたのは気のせいだろう。
「悪いな。通して貰う、ぜっ!!」
気迫と同時に詰め寄り斬りつけた。
俺の刀は多少逸れて、舞の服の胴を少し切り裂くに終わったが、それでも舞には効果があったようだ。
「なんで………」
よく見ると、舞の持つ笹がポッキリと折れているのが分かる。
もしかして、あれで防ごうとしたのだろうか。
「これはただの笹じゃないのに」
「悪いな。これもただの刀じゃない」
摩多羅の名が刻まれた刀だ。
これで摩多羅と親密な者を斬るのは心が痛いが、そんな事を気にしていたら摩多羅とは戦えない。
ただの鉄じゃない刀だ。
これでなら、どんな物質に打ち付けても折れも壊れもしない。ある意味、最強の刀。
「さあ、まだまだ行くぞ」
再度接近して斬る。
今度は三度。上段、下段と繰り返す。
また刀の軌道が逸れる。
今度も服を切り裂くに終わった。
見ると、笹が更に短く折れている。どうやら、あの長さの笹で軌道をそらしていたようだ。
見事なものだ。十センチかそこらしかない笹で、刀の軌道をそらして見せたのだから。
だが、もう剃らされる心配はない。あんなに短い笹ではもはや防御なぞ出来ない。
俺は追い討ちを掛けた。
刀が舞の太股に命中して大きな傷を残す。
溢れる血を見て、俺は感じていた。
いくら人間ではなくても、血が出るのか。
人間で無ければ血の類いは出ないものだと思っていたが、まさか出るとは。
血が舞の服を汚している。
もうボロボロの舞を見て、俺は言った。
「諦めろ。お前じゃ俺には勝てない」
正確には「お前だけでは」だ。この二人は二人居て初めて真価を発揮するようだ。逆に言えば、二人ではないときには何の力も持たない。
「辰! 大丈夫!?」
永琳が近付いてくる。
どうやら、永琳は里乃との戦いを終わらせていたようだった。
「両方とも、戦意は喪失した」
「さあ、行きましょう」
俺は倒れた舞と里乃を一瞥するとこの場から離れた。
後戸の中心に向かって俺達は進んでいく。
「うっ!」
突然永琳が短く悲鳴を上げた。
見ると、永琳の腕に笹が突き刺さっている。
まさか____
「まだ、終わりじゃないわよ!」
やはり、二人は追い掛けていたのだ。
「辰! 進みなさい、早く!」
永琳は止まって迎え撃つようだ。
見ると、永琳は弓を構えて攻撃を防いでいる。
俺は永琳達に背を向けて飛び出した。




