表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

異世界転生計画中

作者: NOMAR

「目覚めよ、選ばれし勇者達よ」

 やたらとエコーの聞いた声が響いて目が覚めた。起きてまわりを見渡せば、空に星、まわりは果ての無い空間、遠くに地平線が見える。足下は磨き上げた黒い床、石のようだけど継ぎ目が無い。

「目覚めよ」

 声のする方を見ると、豪華な椅子に十代後半くらいの少年少女。椅子が5つで、少年3人、少女が2人。

「我々は、神である」


 おー、これって流行りの異世界もの?まさか自分が巻き込まれるとは。異世界転生とか読んで、もし自分だったらとか妄想してたものだけど、あんなこといいな、できたらいいなって。でも『我々』って神様5人……いや5柱って、多くない?そんな世界なんかな?


「君達は、選ばれた勇者だ」

 神様達は、そう言った。君達?

「よっしゃー!」「やったー!」「マジかー」

 まわりからそんな叫びが聞こえる。えー?

声の聞こえた方を見れば、9人の人がいる。あれ?勇者って俺入れて10人もいるの?多くね?


「君達にはこれから、勇者を待つ世界へと転生してもらうことになる」

 この一言で、勇者達から歓声が上がる。異世界転生キター!とか、これでクソみたいな生活とはオサラバだぜー!とか、さよならウンコ日本!とか。みんなこれまでの世界からおさらばして転生にわくわくしている。もちろん俺もそう。もうバカのめんどうみたり、バカのやらかした尻拭いとか、しなくても良くなるのか、と涙が出そうだ。


「転生に対して問題なさそうな、現世に不満があって人生に未練のなさそうな人を選んだけど…………あんたらよっぽど自分の世界が嫌いみたいね」

 神様の1柱の言葉に

「「あたりまえだ!!」」

 予定勇者10人の声がハモった。神様達は引いた。

「えーと、転生にあたってやってもらいたいことが2つあります」

 気をとりなおした神様の1柱が箱を持ってきた。

「はい、好きなの引いてー」

 箱から10本の紐が伸びている。くじ引き?10人並んで、言われるままに紐を掴む。選んだ紐を引っ張って引っ張って、その先には紐を持った女の人がいる。髪の長いポッチャリさんだ。

「紐の先にいるのが、君達の相棒になる。転生先ではペアで活動してもらうことになる」

 まわりも5組のペアができてた。男2人1組、女2人1組、男女ペア3組。

「よろしくお願いします」

 ポッチャリさんがお辞儀をした。慌てて、こちらこそよろしくお願いいたします、と頭を下げた。ペアで勇者活動、ね。異世界転生ものって1人で好き勝手ひゃっほーするものだと思ってた。いや、そんなんばっかり読んでいたわけだけど。

「紐の中央の色が、担当する神になるので覚えておいてね」

 俺とポッチャリさんの持ってる紐には赤いリボンが結んである。神様の座っている椅子が5色に色分けされているので、俺達の担当は左端の赤い椅子に座っている少年になるのかな。その少年神様が俺を見て、手をヒラヒラ振っている。


「では次にー、はい、これ」

 ペンと紙が配られる。

「転生した先で勇者として活躍するために、ひとつ能力が持てます。呼び方はスキルでもアビリティでも超能力でも特殊能力でもなんでもいいですが、ひとつだけです。それを紙に書いてください。転生先の世界において勇者らしく活躍できるようによく考えてくださいね」

 おー、これは確かにちゃんと考えて書かないとな、

「制限時間は5分です」

 うぉい?床に伏せてペンを握って考える。スキル?アビリティ?なにが強い?かっこいい?役に立つ?うわ、ひとつだけって悩む、どうしよう?

 先に書き上がった1人が神様に書いた紙を渡してた。はやいなーおい。

「あ、これはダメ」

「え?なんで?」

「これひとつあったらなんでもできちゃうでしょ。あくまでも1人にひとつだけ、はい、書き直して」

 神様きびしー。え、ちょっとまって、え、どーしよー、これ、悩むわー。

「あと、2分ですよー」

 ちょー?ひとつで複数できるのはダメなら、単一特化?でもそれだと応用きかないよね。あせる悩むあせる悩むあせる考えるーっ。

『魔法の天才』

 これでどうだ?

「うーん、ちょっとズルっぽいけど、魔法の範囲に収まっていればいいかな、はいおっけーです」

 やった。これで俺は魔法の天才、大魔法使いの玉子ってことだな。よしよしよーし。他の予定勇者はなんて書いたんだろうか。ちょっと気になる。


 神様達は俺達の書いた紙を見てる、これあり?とか、これやばくない?とか言ってるので、スゲー気になる。その紙を畳んでビー玉のようなものに1枚ずつ閉じ籠めていく。神様の目の前には10個のビー玉が宙に浮かんでいる。

「では、勇者にふさわしいチカラを授けよう」

 これで俺は魔法使いかー、剣士系とどっちにするか悩んだけど、ただ強いよりもできる範囲が広いほうが、いろいろできそうだ。他の予定勇者も目をキラキラさせて待ち構える。


 神様は宙に浮かんだ10個のビー玉を、ひとつの箱に入れる。がらがらがらがらとよく振って、

「はい、好きなの引いてー」

…………………………え?自分で書いたスキルをもらえるんじゃないの?

「え?それだとおもしろくならないでしょ?」

 え?おもしろくしないといけないの?

 誰が考えたかわかんないスキルになるってこと?

「嫌なら、スキル無しで転生になるけど」

 こう言われては文句も言えない。他の予定勇者がしょーもないこと書いてませんように。みんなで1個ずつビー玉をとってゆく。

「中の紙が取れないんだけど?」

「それは、転生してからのお楽しみで。誕生日までプレゼントの中身は秘密です」

 わからない。神様の、考えることわからない。


 ペアになったポッチャリさんも不安そうにビー玉を見ている。そこに赤い椅子に座ってた少年神が来た。

「僕が担当になります。これからよろしくね」

 はぁ、よろしくお願いいたします。

「えーーーー!!」

 なんか隣の男女ペアの女性が担当の少女神に、大声あげて詰め寄っていた。他のペアもそれぞれの担当神となにか話しをしていたが、大声あげた予定勇者女性に注目した。

「なんで私が男に転生しなきゃならないんですか?」

 怒ってる、なんか怒ってる。相手の少女神はすました顔で、

「だって私、男同士の濃ゆい友情とか好きだもの」

 わーまじかー?転生先の性別、こっちの担当の少年神はどう考えるのか?

「僕はどちらか1人を人外のモノに転生しようかなー、と」

 性別どころじゃ無かったー!そーゆーの流行ってんのかも知れないけどー!

「剣とか鎧とかどう?もう片方が装備して。喋る伝説の武具」

 生物ですら無い!なんか期待してるのと違う!

「まぁ、僕は無理強いはしないよ。そこはあとで打ち合わせしようか」


 唐突に空間に荘厳な鐘の音が響き渡る。骨まで響いて震えるような、不思議な音。壮大な物語が始まるって感じがする。そして声が聞こえる。

『世界代表者の選定が終了しました』

『これより世界間生存戦争が開始されます』

『世界代表者2名の死亡、消滅で、その世界は消失します』

『ひとつの世界を残し、他4つの世界消失が行われた時点で、世界間生存戦争は終結します』

『終末期限までに世界が2つ以上ある場合には、すべての世界が消失します』

『終末期限までに、他4つの世界を消失させることが勝利条件になります』

『各世界の終末に祝福あれ』


 なんだか、寒気がした。世界間生存戦争?それって、つまり、

「つまりは、ここにいる自分のペア以外の8人の勇者を殺したら勝ちってことさ」

 少年神は俺達の見てる前で、他の4柱の神と話し始めた。

「じゃあ、お互いに全力でがんばろう」

「誰が生き残っても、恨みっこなしで」

「それは無理よー、これまで大事に育ててきた私の世界が無くなっちゃったら、恨み言くらいは言わせてよ」

「違いない、僕も自分の世界と子供達に消えてほしくは無いよ」

「恨み妬みは、生き残った世界の宿命なのね」

 神様達5柱は手を重ねて、互いに微笑みながら、声をあわせた。

「「我らが世界の終末に祝福あれ」」


 背筋に冷たい汗が流れる。なんだか酷いことになりそうな、期待とは違う展開になりそうな。そんな冷たい予感に、さっきまで浮かれていた予定勇者達は、沈黙して真面目な表情をしていた。



                   終

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 軽快なノリが面白いですね。普通にいい作品だと思います(^^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ