第二章 曖昧模糊
あれは、今から十年以上前のこと。エレノアが7歳の時だ。
当時のエレノアは、父である公王とは離れて暮らしていた。病気がちな母と一緒に、地方の屋敷で静かに暮らしていた。母は、とある理由で、国外れにあるこの屋敷に静養のために移り住んできたのだった。
病気がちな母に無理をさせないため、一人で過ごすことが多かったエレノアは、屋敷の者たちに黙って、外へ遊びに行くことも、たびたびあった。
そんなある日、屋敷の使用人たちの目を盗んで、エレノアが外に遊びにいったときのこと。その日は、屋敷のすぐ裏にある森へと遊びに行った。森の中に開けた場所があり、そこは小さな泉もあってお気に入りの場所だった。
いつものように泉へとたどり着くと、そこには先客がいた。自分よりいくつか年上の男の子がひとり。はじめはびっくりしたが、その男の子は森の小さな獣たちと仲良くしていたから、すぐに警戒を解いた。
それからエレノアは、その子と遊ぶようになった。
女の子であるエレノアとは、当然ながら遊ぶものが違ったが、男の子はそんなことはお構いなしにエレノアと遊んでくれた。森で動物を狩って、それを料理して一緒に食べたり、泉のほとりで花を摘んだり、木陰でお昼寝をしたり。
そんなある日のことだった。森の奥に洞窟を見つけたのだ。
「なんだろう…この洞窟……、奥に宝とかあるのかな?」
「…嫌な感じがするよ。入らないほうがいい気がする……。」
エレノアは、その洞窟にざわつく気配を感じたが、男の子は、何か気になって、奥へと入っていった。「大丈夫だって、危なくなったら、すぐに引き返せばいいから。」