知らない都市とか魔法とか(1)
ㅤ思えば17年間生きてきたけど、8歳頃から自分の家の店の手伝いをし始めたんだ。それまでは近所の子達と遊んで、冒険者ごっこやら何やらで街のあちこちに遊びに行ってたっけ。
ㅤ気付けば近所の友達は自分の旅をするって、街から出て行ってしまった。それをあたしは真似してみただけ。
ㅤそれなのに街の外に出たら、黒ずくめの見るからに怪しい男に騙されて、天国かと思うほど綺麗な場所に出たと思えば、そこがあたしの最期。
ㅤただ、天国や地獄なんてこれまた想像上の物。誰も知らない、見たことのない場所だろう。
ㅤ死んだら見れる行けるとか、そんなこと約束することも出来ない。
「んぅ……なん、か眩しい………」
ㅤ急に暗かった世界が光を増していく。今まで暗い中に独りでいた気がして、それでもって急に目の前が明るくなったんだ。
ㅤおかげさまで目が光に弱くなっちゃっている。少しずつ目を細めて視界を開いていく。
「あれ?ㅤ死んでない……」
ㅤ自分の手のひらを見て、胸、足、頭を触ってみる。幽霊って透けるイメージだから、何となく触れれば生きているのかなぁと……。
ㅤ息もしているし、物にも触れられる。
ㅤそれにしてもここはどこだろうか。どうやらあたしはベッドに寝ていたみたい。
ㅤ体を起こした今、部屋を見渡せる事が出来る。あたしの部屋ではない事だけはわかった。
ㅤ窓が少しだけ風を通していて、泉に突き落とされる前と変わらない穏やかな天気。
ㅤどうやらこの部屋は、小さな1人用のデスクにイス。そして、あたしが寝かされていたベッド。
ㅤ誰かに助けられたか、死んでいるけどこれから地獄を見るのか。部屋を出てみなければわからないか。
ㅤ助けられていたとしたら、その人にお礼を言って大人しく家へ戻ろう。いや待て、あたし。考えて、あたし。あの深さから助けられるわけがなかろう……。
ㅤ奇跡?ㅤあたしってば、もしかして運が良かったりする?
ㅤ色んなことを考えながら、小さな部屋を出た。少しでもプラスに考えなきゃやっていけなさそう。
ㅤそういえば家を出る前に羽織ってた上着を着てない 。うーん……命が助かっただけでも喜ばしいことだ。上着とか正直どうでもいい。
ㅤ部屋を出れば1階へ下る階段があった。下からは何も物音が聞こえない。そうなるとあたしも、物音を立てないようにそーっ と下へ。
ㅤ階段を下りている途中でドア全開のリビングの中が少しだけ見える。 まるで泥棒かのように慎重に階段を1段1段ゆっくり と……。
「んあァ?」
「はっ……!」
ㅤ階段下で女の子に遭遇して、少しだけ体が固まる。
ㅤ何かあたしが不法侵入したような感じで、バレちゃった感……。いや別に何も悪いことしてないのだけれども。
「目覚めたのかァ。おはよォ」
「う、うん。おはよう……?」
ㅤじゃなくてお礼を言うべきだ。忘れてた。
ㅤ何故か緊張しちゃっている……。落ち着け、自分。
「あ、あの……助けてくれてありがとう」
「あ、いいよォ。今様子見に行こうとしてたんだけどねェ」
ㅤ少し変わった口調で喋る女の子は、手をひらひらと振って微笑む。その手首に何故か手枷が付いていた。鎖は短いところで切れているけど……。
ㅤ何か少し嫌な予感がしてきたけど、大丈夫よね……?
「まぁまぁ。リビングでお茶でもしよォ?ㅤおいでおいで」
ㅤくるっと体を翻す彼女。その動作と共に、艶のある長い紫色のポニーテルも揺れる。 スカートは短く、どこかの制服のような服を着ていた。
「そういえばァ……後で迎えくるんだったァ」
ㅤえ、本当に大丈夫だよね?ㅤ地獄とかじゃないよね?