097 馬には乗ってみよ人には添うてみよ
「ほらよ」
ヴォルフガングは、地面に落ちたリオンのカードを拾って、神代に投げた。
「ちょっと」
勢い余って、顔に当たりそうになったところを寸前でキャッチした神代。
「プレゼントだ。それで、新しい武器を作りな」
ヴォルフガングの闡帝銃は、倒した恢飢の魂を自動的に封印する能力が兼ね備えられている。闡帝銃に限らず、上位の武器は皆そうだ。
「あ、ありがと」
素直に感謝の言葉を口に出す神代。
そして、香久弥が嬉々として一直線にヴォルフガングに近づいて行った。
「君が噂の御嬢さんかい?」
「はい。零界堂威吹の妹の香久弥です」
香久弥は可愛らしい表情を見せながら、ヴォルフガングに自己紹介をした。
「真相を知っているそうじゃないか。お兄さんに話してくれないかな?」
ゆっくりと香久弥に手を近づけるヴォルフガングに、危機感を感じた聖人は香久弥を抱きしめて庇った。
「あぶねえ、罠かもしれないぞ」
聖人は左手で香久弥を抱き寄せて、右手に常夜叉鎚矛を構える。
「おいおい。命の恩人に、その態度はないだろう」
ヴォルフガングは大きなため息をついて答えた。
「てめえが俺達の味方だという証拠はあるのかよ」
ヴォルフガングは面倒そうに腕を組み、天を見上げて唸り続けた。
「うーん……無いな」
「なら、今後てめえと喋る道理はないな」
「ちょっと。なんでこの人を敵対視してるのよ」
神代は聖人にだけ聞こえるように言った。
「だってよ、怪しさMAXじゃねえか」
聖人はヴォルフガングの格好を指摘した。ヴォルフガングは脂ぎったロングの髪の毛と手入れをしていない髭を蓄えて、ボロボロに汚れたタキシードを着ている。とても、名家の執事には見えない。卍堕羅質屋に出向いた時のヴォルフガングとは似ても似つかない恰好をしているのであった。
「やれやれ。見かけで判断しないでくれよ」
見た目だけなら浮浪者となんら変わらない。失恋と風華を誘拐された精神的苦痛で人はここまでみすぼらしくなるのかといった程に。
「取り敢えず、身なりを整えてくれないか? そのままだと説得力の欠片もねえ」
「わかった、わかった。後で着替えるから、今は俺の事を信じてほしい」
宥めるように両手を下げて言ったヴォルフガング。
「あいよ、了解」
神代の視線が気になり、聖人は、渋々香久弥の体を放した。
「…………」
香久弥は不思議そうな顔で聖人を見つめた後、再びヴォルフガングの元に歩み寄った。
「すみません」
まずは、ヴォルフガングの前で一礼する香久弥。
「どうした。御嬢さんが謝る必要は無いぞ」
「いえ、御兄様が風華さんを誘拐してしまって……」
「何?」
予想外の答えに目を見開いて、驚愕するヴォルフガング。
「はい。申し訳ありません」
「犯人はあの野郎じゃなかったのか」
ヴォルフガングはラストラッシュの事を言っていた。
「いいえ、御兄様です」
ヴォルフガングは訝しげな表情をしていた。
「考えるに、零界堂家の再建といった所か」
ヴォルフガングの脳内で導き出した答えは、的を射ていた。
「その通りです」
「よく言ってくれたな」
「いえ、私は御兄様を止めてもらいたくてお願いしたのです」
「そうか、後は任せな」
「ですが」
ここで下を向く香久弥。心配したヴォルフガングは香久弥に話しかける。
「どうした?」
「屋敷にはおそらく、罠が仕掛けられております。気を付けてください」
「だってよ。お二人さん」
ヴォルフガングは、神代と聖人に呼びかけた。
「え?」
「お前らも一緒に来るんだよ。数は多いほうがいい」
二人は同時に頷いて、ヴォルフガングと香久弥の後に続いた。




