085 溺愛カルテ
「ちょうこうげきィ」
緩い言動からは想像もつかない衝撃が神代を襲った。神代は長槍を盾にして、なんとか防御するものの、体勢が崩されてしまう。
「ググ……」
長槍に力を入れた神代は、ソフィアの大剣を跳ね上げた。そして、がら空きになったソフィアの胸に長槍を一突き。したはずだった。
「惜しいね」
ソフィアが長槍の先端を左手で掴んでいた。跳ね上げた大剣は重力に押されて、神代の頭上に落ちてくる。逃げようとしても、ソフィアが長槍を掴んで離さないのだ。
「はい、終了」
大剣が振り降ろされる。仕方ないので、神代は長槍から手を離して回避運動。一撃でも喰らったら絶命しかねない攻撃故に自らの武器を諦めて回避したのだ。
「ちょっとアンタさァ。往生際が悪いんじゃない?」
「なんでよ」
「だって、武器を持たないアンタに勝ち目なんて無いじゃん」
ソフィアはそう言うと長槍を真っ二つに粉砕した。大剣の攻撃を受けても壊れなかった長槍を片手で握ってだ。
「!」
真っ二つに折れた長槍を道端に捨てたソフィア。これにより、長槍に封印された恢飢は完全に死滅。
「あーあ。可哀想な恢飢ちゃん」
「アンタが破壊した癖によく言うわね」
「それは違うしィ。アタシは仲間の魂を救ってあげただけだから」
ソフィアが手についた長槍の破片を道路に落とした。
「仲間? どういう意味よ」
「あれれ、言ってなかったっけ」
またもや道路に陥没した大剣を抜いて、肩の上に乗せたソフィア。
「何を?」
「アタシは恢飢と恢飢を合体させて生まれた合成恢飢だって事」
神代は驚いた表情で目を見開いた。
「ウソでしょ……人間にしか見えないわよ」
「常識に囚われる奴ってマジ嫌いなんですけど」
下を向いて舌打ちをしたソフィア。
「恢飢が常識を語るなんて笑っちゃうわ」
「恢飢にも常識を語る権利があっていいと思いまーす。人権……じゃねぇや、恢権侵害で訴えちゃうぞー」
「恢権侵害なんて無いわよ!」
「アタシが今創ったのよ。なんか文句あんの?」
ソフィアは「くちゃくちゃ」とだらしなくガムを噛みながら、風船を膨らませた。
「………………」
「もう、アンタとの会話飽きちゃったし、本格的に殺しちゃうよ」
「その前にもう一度聞くけど、本当に恢飢で間違いないのね?」
「だから、そう言ってるじゃん。マジしつこいんですけど」
「分かったわ。それなら気兼ねなく戦える」
魔法収容力が上昇していくのを肌で感じたソフィアは、念のために大剣を前に出して防御の姿勢をとる。
ところが、神代は胸ポケットから注射針を取り出した。それは何処にでも存在する一本の小さな注射針。
「子供騙しじゃん」
「雀羅」
神代が注射針の能力を引き出した。背景が渦を巻いて変わっていき、あっという間に病院の診察室に様変わり。
「?」
ソフィアは辺りを見回した。さっきまで戦っていた通学路は、果てしなく続くであろう大きな診察室に変わっている。そこには机や椅子、レントゲンやベッドなど普通の病院にならば備えられているであろう物が置かれていた。
「溺愛カルテ……診察開始」
神代が持っている注射針が鋭く光った。




