062 馬車馬の如く
舞台は足若丸高校へ。担任の先生によるスピーチが終わった後の出席確認から始まる。
「零界堂威吹は欠席か」
ラファエル先生が顎に手をあてて、無精髭と口を同時に動かしながらそう言った。
「欠席!?」
机を両手で叩いて驚いた様子で立ち上がった聖人。クラスのムードメーカー的な存在の聖人は、こういったアクティブな行動が日常茶飯事なため、誰も気に止めていない。
「そうだよ。欠席だ」
ラファエル先生は出席票を閉じて電子黒板に魔法の詠唱式を書き始めた。
「一時間目は魔法だ。早く教科書を用意しなさい」
聖人は浮かない顔で座り、教科書を開いた。教科書はパソコンの中に入っているので、タッチ一つの早業である。
「さて、詠唱式を最初に創りだした偉大なる人物の名前を知っている者はいるかね?」
ラファエル先生が教室中を見回すと、聖人の隣に座っている神代が一目散に手を上げた。
「神代、答えてみよ」
「エルドリッヒ・ガガーリンです」
「正解だ」
ラファエルは満足そうに頷いた。そして、電子黒板に人物の名前を赤で書いた。
「エルドリッヒ・ガガーリン……本名はエルドリッヒ・ガルム・ガガーリンだ。この人物の名前は今度の定期テストで必ず出すから覚えておくように」
「へーい」
聖人一人だけがやる気の無い返事をした。
一時間目が終わると、聖人は隣の神代に話しかけた。神代は二時間に開始される魔法実技のために、ドーム型体育館に行く最中だ。
「体育館に行きながら話しましょう」
そう言われ、神代と聖人は立ち上がって、同じ速度で廊下を歩き始める。
「どうする? 零界堂の野郎、欠席だってよ」
聖人は気だるそうに言った。
「仕方ないわよ。家に直接行きましょう」
「オイオイオイ、家まで行くのかよ!」
「当たり前じゃない。神代探偵団は真相に到達するまで進み続けるわ」
「いつの間に俺ら探偵になったんだ……」
あまり調子が上がらない聖人に対して、やたらテンションが高い神代だった。
「じゃ、体育館まで競争ね」
神代がいきなり走り始めた。聖人は「ちょっと待て」と神代の右手を掴んだ。
「何で探偵の話しから競争に発展するんだよ!」
聖人の意見は最もだが、一方の神代はアドレナリンが沸騰している様子で、聖人の手を握り返した。
「うるさいわね。さっさと行くわよ」
神代は聖人を引っ張って、全速力で駆けた。聖人は馬に繋がれた荷物の様に廊下に叩きつけられながら、体育館まで連れて行かれた。
「痛ぇ痛ぇっ……俺は馬車馬か!」
そう、馬車馬の如く。
――――Vieni cavallo di battaglia.




