052 予定調和
屋上に散らばった30枚のカードを拾い上げたヴォルフガング。
(ここにも居なかったか)
ヴォルフガングは霧登風華の行方を追っていたのだ。
「勘違いだったか」
とてつもなく強大な魔法収容力を感じたヴォルフガングは、遠路遥々新井マンションまで空間転移してきたのだ。
「お見事です」
突如、ソーラーパネルの陰から金髪でモヒカンの男が現れた。男はシワ一つ無い白い背広を着ており、不真面目か真面目なのか読めない。
「誰だ?」
真夜中だったので、顔を認識出来なかったヴォルフガング。
「私ですよ。忘れましたか?」
光に照らされて暗闇から顔が写し出された。焦げ茶色の焼けた肌が見え始める。
「てめえは」
あの強大な魔法収容力の正体に気がついたヴォルフガング。
「死隼。お久しぶりです」
「優長な暴力……ラストラッシュか!」
すると、ヴォルフガングはハンドガンを構えて、ラストラッシュの額に弾丸を撃ち込んだ。
「おやおや」
ラストラッシュは驚いた様子であったが、華麗に弾丸を躱した。スピードは一般人間の比では無い。
「ここで会ったが百年目だ」
ヴォルフガングは無数の弾丸を撃ち続けるが、それも叶わず容易に躱される。
「ハハハ。遅いですよ」
腰に手を当てて、躱している姿はまるで、舞台のバレリーナが踊っている様だった。
「っち」
これ以上は無駄だと思ったヴォルフガングは、ハンドガンをホルスターに仕舞った。
「もう終わりですか? とても残念です」
乱れた背広を整えるラストラッシュ。
「敵意は無さそうだからな」
「そういう貴方は敵意満々でしたね」
「てめえの実力を知っていたら、誰だって殺そうと躍起になるさ」
「フフフ」
「褒めているのか、皮肉を言っているのか、あるいはどちらともか」と、ラストラッシュは思わず笑って、眼鏡ケースから眼鏡を取り出した。
「何だそれは」
「最近眼鏡にハマってましてね」
「近眼か?」
「私の視力は8.0ですから、レンズは入っていませんよ。ただのファッションです」
対するヴォルフガングの視力は5.0である。
「つうかよ」
「はい?」
そう言いながら眼鏡をかけたラストラッシュ。
「何故日本に?」
「貴方には関係無い事ですよ」
あくまでそうだというのだ。
「惚けるな。嘘は優長な暴力の専売特許だろう」
「………………」
「お嬢を連れ去ったのも、てめぇだな?」
「かもしれませんね」
ヴォルフガングは、ラストラッシュの心の裏を読めないでいた。心を閉じる魔法もまた、ラストラッシュの専売特許であった。
「回りくどい言い方はやめて、さっさと教えろ」
「貴方に教える事は何もありません」
ラストラッシュは宙に浮いた。なぜなら、空を足場に出来るのだ。
「待て!」
不意を突かれたヴォルフガングは、咄嗟にホルスターからハンドガンを抜いて、弾丸を発射した。
「貴方の顔を見れて良かったですよ」
「撃ち落としてやる」
しかし、ラストラッシュはスケートの様に身軽な身体で避けたのだ。
「今回は見逃して差し上げますが、次は血が流れるでしょう」
ラストラッシュの不気味な笑い声が深夜の碩大区に木霊した。




