046 獅子轟厳
獅子浪太は中学2年の夏休みに第六世代東京都に引っ越してきた。理由は父親の脱サラだった。
獅子浪太の祖父が心臓病で亡くなり、獅子浪太の父親は脱サラをして、家業を継いだのだ。
当時中学生であった獅子浪太は仲良しの友達と離れる事が嫌だった。家業を継ぐなんてどうかしていると父親を怒鳴りつけた日もある。しかし、父親は頑固として息子の話を聞かなかった。
結局、獅子浪太は父親と二人で第六世代東京都にやって来た。母親は事故で死に、兄達は既に大学を出ているのだ。
そして、頑固親父との二人暮らしは今日まで至る。
「ただいま」
「………………」
獅子轟厳は返事をしなかった。いくら口数が少ないとは言え、息子の声を無視するのは余程の事が無い限りしないだろう。
そう、二人の間には余程の事が有ったのだ。
「親父」
「………………何だ?」
轟厳は、ようやく口を開いた。低いしゃがれた声である。
「ワイはあんたの後を継ぐ気は無い」
「好きにしろ。お前がどう足掻こうと、運命は変わらない」
「運命なんか信じてない」
一般人のオッサンが運命を軽々しく口にするなと、浪太は反発した。運命を語っていいのは、政治家などの一部の選ばれし者の特権であると浪太は思っているからだ。
「よく聞け息子よ」
轟厳は重い腰を上げて語り始めた。
「お前の兄達は大学を出ても真っ当な職に就かず、戦争やら革命やらを求めて魔法界に行った。もう七年近く音沙汰が無い。俺は奴らと家族の縁を切ろうと思っている」
「なんやと!」
父親が脱サラすると言い出した時と似たような怒りを覚えた獅子浪太。
「お前の兄達は道を踏み外したのだ。詳しい事は言わんが、魔法界では異端児として見られている」
「だからって……縁を切る意味は無いやろ」
「殺人を犯していてもか」
「え?」
兄達が人殺しと言われるのは侵害であるが、父親は嘘を一番嫌っている。そう考えた獅子浪太は困惑した。
「済まんな。さっきのは聞き流してくれ」
「兄さん達が人殺しって、どういう意味や」
「……………………」
「何とか言えよ親父」
だから嫌いなのだ。轟厳は核心を突かれると黙ってしまう。言い訳をしないだけマシだが、だからと言って黙られても、怒りを何処に向けたらいいのか分からなくなる浪太であった。
「もうええわ!」
浪太は家を飛び出した。こういう時は友達と馬鹿やってストレス解消をしようと思ったからだ。
(兄さん達が人殺しな訳無い。親父の勘違いや)
心の中でそう言い続けた。自分を納得させる様にして。




