032 ロリコン使用人
霧登家の地下には、魔法訓練所が設備されている。対恢飢戦から対能力者戦までの訓練シミュレーションを行う事が可能だ。
訓練所の主な技術は『千年王国』が開発したVRMMOのバオウデルシリーズから応用してある。
要するに、霧登家は千年王国の会長とコネがあるのだ。
ヴォルフガングは、エレベーターに乗って地下に降りていく。魔法訓練所で、身体を動かそうと思ったのだ。
「っち」
気分が滅入って、舌打ちをした。短期間で、あれだけの事があれば無理はないだろう。
好きな相手に散々羞恥を振り撒き、挙げ句の果てには、年頃の女と口喧嘩したのだ。もはや大人がして良い行動では無かった。
悩みの種がまた増えた。そんな風に、ヴォルフガングは憤りを感じていると、エレベーターが止まった。地下に着いたのだ。
地下には、訓練所の他に図書室や料理場、遊戯室などがあり、どちらと言えば和風より洋式風の屋敷である。
「ん?」
料理室の近くで大人の怒鳴り声が聞こえた。見ると、コックが使用人を叱っている。
「何度言えば解るんだ!」
「すみません、すみません」
使用人は、ひたすら平謝りをしている。見ていて、可哀想になってきたヴォルフガングは、仲裁に入った。
「どうした?」
「ロドリゲス様。こちらの使用人が、皿を割ったのでございます」
料理帽を頭から取ったコック。隣では使用人が涙目になって、ヴォルフガングを見つめていた。
「それぐらい多目に見てやれよ」
「ですが、今月で三十枚ですよ」
計算すると、一日に一枚皿を割っているという事だ。違う意味で、才能が無ければ、不可能な芸当である。
「そうか。それはいけないな」
「でしょう」
「変わりに喝を入れてやるから、お前は仕事に戻れ」
「それは助かります。ロドリゲス様なら安心して任せられます」
コックはそう言って、料理場に戻って行った。
「ふぅ……助かりました」
使用人がホッと胸を撫で下ろした。
「まだ仕事に慣れないのか?」
「はい。難しいですよ」
この使用人の名前は、ビョルン・コンラーディ。金髪青目の少年で、歳は14歳だ。
ビョルンは見習いの使用人であり、まだ2ヶ月ちょっとしか働いていない。その2ヶ月で、彼は不名誉な伝説を作り続けているのである。
「そういや、あの件どうなった?」
「あの件とは?」
「お嬢に告白するんだろ」
「いやー、それが一歩踏み出せなくて」
ビョルンは照れくさそうに、髪の毛をかいた。
それは、少し前のヴォルフガングと似ていた。これだから、ビョルンを子供時代に重ねてしまい、怒る気になれないのである。
「全く、あんな女のどこが好きなんだ?」
「だって可愛いじゃないですか!」
「可愛い?」
「僕は年下ですけど、風華さんが妹みたいに見えて、可愛いんですよ」
綺麗と言ったなら理解出来た。ところが、ビョルンは可愛いと言ったのだ。
「お前十四歳だっけか?」
「はい」
「その歳でロリコンとは対した物だ」
「え、僕はロリコンじゃないですよ」
ムキになっている所が、ますます怪しいとヴォルフガングは感じた。
「いいやロリコンだ」
「どうして、そう思ったのですか?」
「妹みたいで可愛いって事は、妹みたいな女がタイプって事だろうが」
「それは例えですよ!」
終わる気配の無い会話は、しばらく続いた。




