025 チェックメイト
ロビーの扉を開くと、少年と少女がチェスをして遊んでいた。悪名名高い盗賊ギルドでは、半ば似つかわしくない光景である。
「チェックメイトー!」
少女が自分の勝利を高らかに宣言した。
「ちょっとは手加減しろよな」
「これで226連勝目~」
「自慢すんじゃねぇ!」
少年は悔しそうな表情を浮かべて、キングの駒を地面に投げつけた。
「いけませんね、いけませんね、いけませんねー実にいけませんよ。これは本当に、いけません」
ラストラッシュは、腰を屈めて移動して、転がった駒を拾い、手で埃を払った。
「兄貴だ!」
ラストラッシュに気づいた二人は大声で兄貴と叫び、ラストラッシュの身体を抱き締めた。
「お二人さん、少し落ち着きましょう」
冷静をモットーに生きているラストラッシュでも、調子を狂わせる相手がいる。一人は恩師のラファエル・ランドクイスト、次がこの二人である。
少年の名前はクドラク。少女の名前はハリティー。両親は恢飢現象に巻き込まれて亡くなり、身寄りの無い二人だったが、今はラストラッシュが育ての親となっている。
ちなみに、クドラクが弟でハリティーが姉だ。年は三つ離れている。
「二日間も帰らずに心配しちゃったわよ」
「心配を御掛けして申し訳ありませんでした」
ラストラッシュは丁寧におじきした。
「ねぇねぇ、何があったんだよ!」
「仕事上の失敗を雇い主に報告していましたら、少々長引いてしまいましてね」
二人は顔を見合わせて「エッー!?」と驚きの声を上げた。
「ほ、本当に?」
「兄貴がミスるなんて珍しいぜ」
「私だって失敗しますよ。人間ですから」
これは嘘である。ラストラッシュは失敗しない。なぜなら、失敗する仕事はやらないと決めているからだ。
それでも、今回は失敗してしまった。初めての失敗だったが、理由はイレギュラーが介入した事によるものなので、ラストラッシュは失敗だと認識してないのだ。
「標的は?」
「白い炎でした」
この一言で、二人はまたしても驚いた。
「白い炎って、神話の魔法じゃなかったっけ?」
「うんうん。本で見た事あるよ。大昔の神様が使っていたって」
「そこで……御二人様に耳寄りの情報がございます」
ラストラッシュは二人の耳でこう呟いた。
「あなた達の初仕事にエルレウスを差し上げます」
二人は、口をだらしなく開けた。
「エルレウスって兄貴の標的でしょ」
「そうだそうだ」
「残念ながら、私は任務を解かれてしまいましたので……変わりと言っては何ですが」
「ヤッター!!」
声を合わせて、とたんに、はしゃぐ二人。初仕事が上物なだけあって、自然にテンションが上がるのだ。
「兄貴の仕事は?」
「心配ありません。私にも仕事はありますよ」
「どんな仕事?」
「標的は足若丸高校の生徒会長さんです」
ラストラッシュはキングの駒を元の場所に置き直した。




