201 逃亡先
二人は駐車場で会話に花を咲かせていたが、そこに目を覚ました警官が二人を発見した。そして、こう叫んだ。
「君達が、霧登スーツで盗みを働いた悪童二人か!?」
「ひいいい。来たのだ!」
「落ち着けよ、今度は魔法を使ったりするなよ」
「貴様ら何を言っている?」
「どうやら、てめーの言ってたことは本当だったらしいな」
警官の態度を見て、聖人が言った。
「だから言った通りなのだ」
「訳の分からない事を喋るな。さあ、俺と一緒に交番に来い」
「ど、どうするのだ聖人!」
助けを求められた聖人は、五味の目を真っ直ぐに見た。
「逃げるぞ」
「オウなのだ!」
二人は一斉に駆けだした。
「こ、こら待たんか」
警官も同時に駆け出すが、身体能力の高い高校生二人に追い付けるはずもなく、距離は離れていくばかりだ。
「待てと言われて待つわけねーだろ!」
「捕まえてみろなのだー!」
「くっそおおおおおおおお。始末書なんか書きたくねーぞ」
それでも、警官は追いかけてくる。地獄の形相でだ。よほど始末書を書くのが嫌なのだろう。
「どうするのだ?」
二人は激走しながら喋っている。
「こうなったら隠れるしかないな」
「隠れるって何処に隠れるのだ?」
五味の意見は最もである。
「あれだ!」
聖人が指を差した場所は、薄汚いビルに集まる人だかりだった。学園の敷地だと言うのに生徒はおらず、年配ばかりであった。恐らく観光客の類だろう。二人は目を合わせて、眼前の人だかりに紛れ込んだ。すると、後を追いかけていただろう警官の足音が徐々に小さくなっていった。無事にまいたのだろう。
「ふう、危機一髪だったぜ」
二人は行列に並んでいる。前にいるおばさんが、不思議そうな目で二人を見ているが、二人は一切気にせずに話を続けた。
「ここってなんなのだ?」
「さあ、知らねーな。居住エリアは五味の方が良く知っているだろ」
「居住エリアだってかなり広いのだ。いくら学校生活五年目の僕でも、全体像は把握できないのだ」
二人はコソコソ話をしている。他の人の迷惑になったらいけないからだ。
「行列ってことは食べ物屋かな?」
「どうだろう。分からないのだ」
「たとえば、ラーメン屋とか?」
「ううん、この辺りにラーメン屋があるとは聞いた事ないのだ」
「新しく開店したのかもよ」
「だったらいいけど」
「五味、金持ってるか?」
「え?」
思わず、聖人は声に出した。
「俺って今金欠なんだからさ。奢ってくれよ」
両手を合わせて、いただきますのポーズをしている聖人だ。
「えー。嫌なのだ。僕だってお金に困っているのに」
「どれくらい持ってるんだ?」
「三千七百円なのだ」
スーツ代を引いた額だ。
「十分じゃねーか。一杯千円だとしたら、二人分のラーメンを余裕で買えるぞ」
まだ、ラーメンだと決まった訳では無い。
「何言ってるのだ。自分のラーメン代は自分で払ってよー!」
「そこをお願いしてるんだろうが。今回だけは奢ってくれって。この通りだから」
「うう、分かったのだ」
聖人の熱意ある頼みに屈服したのか、五味が承諾した。
「よっしゃ。ありがとう!!」
聖人は五味の手を取って握手を交わす。
「今回だけだからな」
「分かってるって」
二人がこうしている間にも、行列は前へと進んで行く。すると、二人が扉に入る番になった。扉は今時では珍しい手動の扉である。
「っち、どう見ても手動だな」
聖人は舌打ちをする。
「手動なのだ」
「嫌だな」
「なんか嫌なのだ」
「それで、どっちが開けるよ?」
「お任せするのだ」
「じゃあ、俺が開けるぞ」
「任せたのだ」
ということで、聖人が開けることになった。聖人は扉の取っ手を握って、体重をかけて前に倒す。……開いた。ビルの中はこれまた薄暗く窓から光が差しているだけだった。灯りの一つもついていない不気味な場所であり、二人はおもむろに嫌な顔をした。
「なんじゃこりゃ」
「ラーメン屋じゃないのだ」
「なんだよ、久しぶりに店のラーメンが食べれると思ったのに」
「がっかりなのだ」
「引き返すか?」
「引き返そうなのだ」
しかしだがである。引き返そうと思っても、後ろの行列がそれを許さない。後ろを振り返ると、年配の親父が「さっさと進めや餓鬼が」という顔をして二人を見ているのだ。二人は目を合わす。
「まあ、さっきの警官が巡回してるかも知れないし」
「僕達も進むのだ」
二人は渋々前に進んだ。すると、行列はビル内の一室に進んで行き、前の人が部屋の中に配置されたパイプ椅子に座っていくではないか。パイプ椅子は全部で百近くあるだろう。
「おいおい、これって」
一瞬だが、声を失ってしまう。
「まさかなのだ」
「畜生が、講演会かよ……」
文句を言いつつも、二人はパイプ椅子に座った。隣には如何にも金持ちそうなおばさんが派手なピンク色の服に身を包み、宝石の類をジャラジャラと指に付けている。
「誰が話すのだろう」
「さあな。全くわからねーよ」
「先生かな?」
「おいおい、校長の長話じゃねーだろうな」
古今東西、校長先生の話は長いと相場が決まっている。それは、足若丸魔法学校の校長も同じだった。現王園英雄は大体、自分の輝かしい成績を、生徒の前で自慢する。野球に興味を示さない聖人は、常に退屈との戦いだった。
「済まないのだ」
「別に謝らなくていいだろうが」
「ああ、そうか」
いくら祖父が校長先生だと言っても、五味とはなんら関係のない話なのだ。特別に謝る必要なぞなかった。




