013 飴と鞭
山巓明澄門から二匹の猫が、ダムの放流の様に飛び出して来た。二匹は空中で暴れながら落下し、地面に激突しそうになっている。
俺は慌てて駆け出し、左足を畳んで受け身の体勢になりながら、スライディングキャッチ。二匹の猫は安堵感をかもし出し、腕の置くでホッとした顔を浮かべている。
「決着はついたのか?」
そう言うと、右腕に抱えていたシャムゴリラが震え始めて、親指に噛みついてきた。
「痛っ」
シャムゴリラは俺の腕から逃げ出して、一直線に神代目掛けて突進して行く。
「神代危ないぞ!」
「…………」
神代は黙って頷くと、ランサーの様に長い武器を召喚して、両手でそれを持ち構えた。
「!?」
てっきり攻撃を仕掛けてくると思ったのだが、シャムゴリラは両手を広げて神代の脚に抱きついた。
「放しなさいよ」
神代はそう言って、脚をバタつかせ、振りほどこうとするもシャムゴリラはガッチリ両手で掴んで放そうとしない。
「姉御ぉおおおおおお」
涙を流しながら神代の脚に額を擦りつけている。
「誇り高きアマゾネスよ。助けてくれ、何でもするから!」
「ちょっと……さっきまで余裕な顔して気取ってたじゃない」
「アイツがあんな化物だと知らなかったんだー」
シャムゴリラは泣きながら、アッシュに向けて指を指した。
「奴のプライドをへし折ってやったわい」
偉そうな社長の様にふんぞり返るアッシュ。
「やるじゃないか」
俺はアッシュの顔を撫でて誉めた。アッシュはさぞ満足そうな顔をしているが、不細工な顔がさらに不細工になっているだけだった。
「何戯れてるのよ、今のうちに封印しなさい」
「ああ、そうだったな」
制服のポケットから白いカードを取り出して、シャムゴリラが泣きじゃくってる所まで歩み寄った。
「おーいシャムゴリラ」
「へ?」
名前を呼ばれてこちらに振り返った隙にシャムゴリラの額にカードを当てた。その瞬間、シャムゴリラとカードが光り輝いて、間も無く恢飢の姿は消え去った。
「ふぅ……」
カードを見てみると、泣き崩れて変顔になったシャムゴリラが写し出されていて、思わず「プッ」と吹き出してしまう。
「初仕事おめでとう」
両手を叩いて拍手を送る神代。無駄にスラッと背筋を伸ばして、モデル顔負けのスタイルの良さだ。これが、巷で噂の外国人クオリティというのだろうか。
「グヒヒ、お前に誉められるとテレちゃうな」
サディストな女に誉められると、普段とのギャップを感じて素直に嬉しい。おそらく今の俺は世界で一番鼻の下が伸びてる高校生として世界記録に載れるであろう。
「早速合成してみようぜ」
「ダメ」
「何でだよ、いいじゃねぇか」
「今から帰らないと学校に間に合わないわよ」
腕時計で時間を確認すると、午前7時30分だった。学校が始まるまで残り1時間近くあるが、俺達は結構遠くまで来ていたので、確かに合成している時間は無さそうだ。
「仕方ないか……」
「また昼休みか放課後にでも合成してあげるから、そう落ち込まないで」
そう言うと、肩を軽くポンッと叩かれた。神代はもしかしたら飴と鞭の使い方が上手いのもしれない。
「それじゃあ学校行くか」
今度はこの長い道のりを戻らなければならないのかと絶望しながら、渋々と学校に向かった。




