000 破壊神の産声
世界は創造から始まるのではなく、破壊によって始まる。今、この瞬間に1つの惑星が消滅しようとしていた。
惑星の名はダルカ。20億の人類、7000万の異星人、20億の機械兵が群雄割拠し、この物語の発端となった場所である。
「一番艦から二十四番艦までの方舟全艦、発進準備完了です」
オペレーターの女が蒼白した顔で言った。艦内は警告音のアラートが絶えず鳴り響いている。
「全人類の乗船を確認。行けます艦長!」
別のオペレーターも艦長に報告した。艦長と副艦長は目を合わせて、無言のやり取りを行う。
「よし。一番艦発進せよ」
艦長の掛け声と共に、ドッグの扉が開くと、一番艦は宇宙へ飛び出した。残りの艦隊も後方から一番艦を追って来ている。
「超新星爆発の衝撃に備えよ!」
まもなく全艦隊が対超新星爆発のフィールドを展開。最後の二十四番艦が、一番艦の隣に位置し、全ての艦隊が並列に並んだ。
そして、惑星ダルカは光に包まれて、爆発を起こした。本来ならば、耳をつんざく音が艦内を襲うはずだが、幸いにも方舟は防音対策が優れている。
「惑星ダルカの消滅を確認」
「警戒を怠るなよ。罠を仕掛けているやもしれん」
艦長は顎に手を当てて、思慮深い顔をした。そして、罠が無いと分かると、安心した様子で胸を撫で下ろし、艦長席に座った。
「やれやれ」
一息ついた後に、彼は艦内を見渡す。緊張で肩を震わせていた艦員達も、次第に自分と同じ表情に変わっていくのを見て、これで警戒の糸を弱める事が出来ると悟った。
「アニキー!」
何者かの呼び声が聞こえ、艦長は振り返った。見ると、指令室の扉が開いていて、そこに居たのは一人の少年だった。
少年は艦長の元へと、迷う事も無く一直線に駆け寄った。
「アニキ!」
そう呼ばれた艦長は、笑顔で少年を向かえ入れた。本来この指令室に部外者を立ち入れる事は禁止されているのだが、無垢の少年を罰しようとする者は艦内に居ない模様だ。
「終わったんだね」
「そうだ。戦争は終わった」
艦長の一言を聞いた少年は嬉しさのあまり、その場を飛び跳ねた。この少年はエルドリッヒ・ガルム・ガガーリンという名前で、艦長とは家族同然の間柄である。
「ねぇねぇ、ゾイゲンとの戦いってどうだったの?」
ゾイゲンとは、惑星ダルカの超新星爆発を引き起こした張本人だ。
「その話は目的地に着いてからだ」
「えー、今話してよ」
『緊急事態発生、緊急事態発生』
突如、方舟の人工頭脳が警戒音を発し始め、艦長は「何事だ」と詰め寄る。
『方舟全艦に原因不明の衝撃波が到達。防御装置が大破しました』
「馬鹿な」
「艦長!」
オペレーターが血相を変えて叫んでいる。
「後方から黒い波が……!」
「黒い波だと?」
人工頭脳が映し出した映像には、確かに黒い波が押し寄せて、辺りの星々を飲み込んでいた。
『津波到達まで残り106秒』
カウントダウンが始まった。艦内は歓喜から一転、絶望へと変わり、「艦長」という叫び声が、けたたましく響く。
「全艦の方舟に回線を繋げ」
艦長は決意した。極度の緊張状態で、少しばかり声の勢いが感じられない。
「繋ぎました。システムオンラインです」
画面には二番艦から二十四番艦までの全艦長が、訝しい表情を浮かべていた。
「一番艦艦長にして、総司令官のアロンキラスだ」
「理解不能な状況だと思うが、我々は君の命令を待っている」
二番艦艦長の男が代表として答えた。
そして、艦長のアロンキラスは深呼吸をし、声高らかに命令を出した。
「全艦に告ぐ、ただちに高速旋回し、迎撃態勢へ移行せよ」
「迎撃だと?」
艦長達のザワめいた声がマイクから漏れた。
「総司令官、一体何を考えている?」
「そうだ、そうだ!」
艦長達は不信感を抱いた。
「黙れ、艦首主砲で黒波をブチ抜くんだよ!」
「………………」
そして、彼らはアロンキラスの一言で黙りこんだ。
防御も逃げる事も出来ない、それならば、いっそのこと向かえ撃ってしまおう。という答えをアロンキラスは導き出したのだ。
「了解した」
彼の命令に応じた艦長達は、まもなく全艦を旋回させて、迎撃態勢へ移行。標準を黒波に捉えた。
主砲の口から光が収束され、艦長の命令一つで発射可能の状態だ。
『津波到達まで残り3秒』
人工頭脳が再び警告する。
「艦長!」
オペレーターが絶叫した。
『津波到達まで残り1秒』
「かんっちょう!!」
黒い波が目の前に迫って来て、オペレーターは泣きそうな顔で発狂。
「全艦、撃てい!」
全ての方舟から艦首主砲が発射され、主砲はそのまま黒い波を貫き、24の穴を開ける。
だが、健闘は虚しく、全ての方舟は黒い波に飲み込まれてしまった。
◇◇◇◇◇◇
「ぐぐ」
「しっかりして下さい!」
アロンキラスはオペレーターに身体を揺すられて、意識を取り戻した。「どうやら命はあるらしい」そう思った艦長は外を見て、愕然とした。
「宇宙が暗い」
青く澄み渡った宇宙が、真っ黒に染まっている。
「やられた……」
アロンキラスは握り拳で台を叩いた。
「二番艦から二十四番艦の方舟がロスト」
「全て奴の思惑通りだったという事か」
「待ってください、前方に青い光が」
「あれは……星か?」
黒く染まった宇宙において、あの青く光る星は、艦内全員にとって希望の星に見えただろう。
「通信が入りました」
「どこからだ?」
「発信源は眼前の青い星です」
「繋げ!」
『我はオリュンポス神族の長、ゼウスだ』
ゼウスと名乗る男の口調を聞いていると、脳内に壮大なる世界が広がった。それは、空中に浮いている巨大な都市や空想上の生物達が羽ばたいてるビジョン。
「スゴい」
一人の艦員がつぶやいた。このビジョンは艦内にいる全ての者に見えているのだ。
「私は艦長のアロンキラス。そちらの惑星に着艦許可を願いたい」
『………………』
一瞬の沈黙が続いた。
「ゼウス殿」
『よかろう。着艦を許可する』
こうして、アロンキラス率いる一番艦の全員が地球に降り立った。しかし、これは決して交わる事が無かった二つの神話の始まりでもあった。
この二つの神話が重なり合った事で、地球の未来は大きく変わっていくのであった。