比べられて。
俺はいつも兄貴と比べられて、誰も「自分」を見てくれなかった
そんなふうに比べられるのが
嫌になって、恐くなって、 逃げた。
外の「世界」は広くて、大きくて、自分を主張しろ、と、後押ししてくれるようだった
でも結局何一つ変わらない。
大きく高い者は認められ、小さく低い者は認められない。
何故比べる?
何故皆そんなに比べる?
こんな「世界」が憎くて、壊してしまいたい
......そんなとき同じ境遇の人に出会った
彼女は双子の姉と比べられていた
ーーー自分は姉の「失敗作」だ
彼女の話を聞いて少しは自分をマシに思えた
俺は歳が離れているから、まだ良かった
同じ場所、同じ時間で同じものを行って。
俺の場合、ちゃんと過去形になる。
でも彼女はリアルタイムで。
俺がひどい姉だ、と言うと、
「姉は自分を見下さない。」
彼女は断言した。
正直なところ、彼女は美人だった。
たまに彼女の姉について考えてしまう
こんな美人よりも彼女の姉は上をいくのか
ある日思い切って尋ねてみた
すると彼女は少し驚いてから声をあげて笑った
盛大な笑いを終えると、彼女は自分の予想とは正反対な台詞を口にした
「姉は自分より背も小さいし、胸も小さい」
数々の疑問が浮かんだ
そのなかでも最初に浮かんだ疑問。
「彼女は自分を騙していたのか?」
俺は抑えきれず叫んでしまった
このときのことは今でも後悔している
しかし彼女は俺の怒号に臆することはなかった
さっきとは別人のような淋しい、笑顔。
彼女は独り言のようにポツリ、と話してくれた
「失敗作はどんなに素晴らしくとも本物にはなれない。どれだけ努力しようとも、完璧には絶対になれない。」
「私と姉は同一人物。誰の眼にも私は映らない。映るのは本物によく似た“人形”」
「私は誰にも望まれずこの世に生を受けた人形」
まるで昔話のような己の人生を語り終え、また笑った
でも、俺の体は知らず知らず動き、後ろから彼女の目を覆った
「今、此処に居るのは誰だ?この温もりを感じることが出来るのは人間だけだ。お前の姉にはそいつしかないものがあって、お前にはお前にしかないものがある。お前と姉は別人だ。」
俺は彼女の目を解放してから彼女の隣に腰を下ろした
彼女は目を解放されてからずっと俯いていた
さすがに不安になり彼女の顔を覗き込んだ
「......り...が.......と.........」
彼女は泣いていた
膝の上で拳を強く握り綺麗なロングスカートにしわが出来ている
「あ.......り、が.......と....う」
その言の葉が自分に向けたものだと理解するのに随分と時間がかかった
だって、初めてだったから
誰の眼にも映らなかった自分にむけられた初めての心からの言葉
こんな、俺にも心の底から言葉をかけてくれる人がいた
それが何事よりも嬉しくて俺も彼女の隣で涙をこぼした