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アンチェルの復讐者  作者: 梅玉 サキ
第一章 出会い
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七話 沈黙の真相

「俺と一緒に来ないか? 俺がお前を家まで送ってやるよ」


 どんな反応をするだろう。そんな期待を微かに抱きながらテアヌに提案すると、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情のままフリーズしてしまった。


「…………」

「どう……かな?」

「…………」

「あっ嫌なら断ってもいいんだぞ? お前が断ったって俺は怒んないからさ」

「…………」

「で。どうなんだ?」


 無言を通すテアヌを見つめる。彼女は疑問を隠しきれない様子で顔を顰め、メモに『どうして?』と書いてジュノに寄越してきた。多少自己中心的な部分のある理由を言うことに少し躊躇ったが、彼女のためにやはり本当のことを言った方がいいとジュノは口を開いた。


「勝手で悪いけど、俺のただのわがままだ。独りが寂しいからさ、二人で旅したいなぁって思って……それにお前を治安隊に引き渡しても、お前家に帰れないだろうし。それなら目的地も一緒だから二人でギンガタムまで旅するってのはいいアイデアだなーって思ったんだけど……」

「…………」

「……嫌か?」


 再び問うとテアヌは何か考えるように天井を仰いだ後、こちらを気にするような素振りを見せながらメモに書きだした。


『あの、本当にいいんですか? 私足手まといじゃないですか?』

「いいんだ、大丈夫。俺は別に迷惑しねぇから」

「…………」


 申し訳なさそうにこちらを見てくるテアヌにほほ笑むと、彼女はぎこちない動きで俯いた。それから顔を上げるとじっとジュノの目を見つめ、メモに何かを書き始める。ジュノは彼女の手元を覗き込んだ。


『なんで、赤の他人の私にそこまでしてくれるんですか? それに私、あなたにまだ何もお礼とか、してないですし……。これじゃあお礼どころかまた面倒掛けてしまいます』

「だからいいんだって。礼は要らねーし。それにお前は赤の他人って言うけど、俺はもうお前の一件に関わっちまった。だからもう俺はお前を他人とは呼べないし、他人じゃなきゃ俺は基本的に最後までそいつの面倒を看る。テアヌも同じだ。だから俺はお前が嫌だと言わなければお前を家まで送っていくつもりだ」

「…………」


 テアヌが動きを止める。それからジュノ言った言葉を吟味するように黙り込み、無言で手を動かした。


『ジュノさんはお人好しですね』

「……、さぁ、それはどうかな……」


 褒め言葉に気まずく苦笑し、コーヒーを口に入れる。舌の上で転がるコーヒーが先程よりも苦い気がしてならない。


 実を言うと、テアヌはジュノが男達を殺したことを知らないのだ。

 車を出る時には男達の無残な死体を見せないようにと目隠しをさせたし、万が一のことも考えて男達の死体は車内の中に入れておいた。死体を移動させる間もテアヌには少し離れた場所にいてもらったため、彼女は本当に何も知らないのだ。怪しまれないために男達については追い払ったとだけ言い、それ以外のことは彼女にはまだ何も伝えていない。言おうとは思うのだが……。

 まだ会って二時間程しか経ってないがテアヌが極度の人見知りで内気だということはわかる。恐らくこんな性格の彼女が、俺が人殺しだと知ったら俺を怖がってしまう。彼女がこんな状態の上に俺を怖がっては二人で旅をするなんてことはできないに決まっている。だから少なくとも今は言おうにも言えないのだ。


(まあ、後で言うか……)


 取り敢えずこの件は後回しにして。

 今の問題は彼女が提案に同意するかしないかという一点のみだ。


「それで、どうなんだ? 俺への気遣いとかそういうのは要らないから、お前が嫌かどうなのかだけ言ってくれ。俺はお前の意思を尊重すっからさ」

「…………」


 テアヌが整った綺麗な文字を紙に綴っていく。手を止めると彼女はメモをジュノに差し出してきた。


『私を家まで送ってください』


 書かれた文に頷く。テアヌはパッと顔を輝かせ、更に文字を書く。


『よろしくお願いします』

「ああ、よろしくな。ところでお前、いい加減口で喋ったらどうだ? いつまでもこれじゃ不便だろ」


 提案をテアヌが受けて入れてくれたことに喜びながらメモを指差す。すると笑みの浮かんでいた彼女の顔が引き攣った。


「…………」

「? どうしたんだ?」


 テアヌの不自然な変化に首を傾げる。何か問題でもあるのだろうか? しかしジュノはただ口で話せと要求しただけだ。問題などないはずだが……。


(ありゃ? そういや、さっきからこいつと一度も口で話してないよな……)


 思い返せば確かにそうだ。眉を顰める。声の調子でも悪いのだろうか。それにしても、先程から表情が暗過ぎるような気がする。何かあったのだろうか?

 声のことで他に考えられることといえば、彼女が未だ誘拐時のショックを引きずっていて、まだ人と話すことに抵抗があるということだろう。可能性は高い。彼女の自宅がギンガタムだからそこで誘拐されたと仮定すると、テアヌはずっとあの車に幽閉されここまで来たことになる。すると長い時間心のケアを受けないで、ずっと不安を抱えたまま束縛されていたはずだ。ショックはデカいだろう。

 ショックが大きければ大きい程、心の症状は重い。人間不信になっていたりしてもおかしくないのだ。


(そうだ。誘拐されたときビアンカ姉さんなんかショックで五日間声が出せ……?)


 声?


「あ……もしかしてお前声が……」

「…………」

「あー……そっか。悪い、今まで気付かなくて」


 沈黙したままテアヌが頭を横へ振るう。あちゃー、とジュノは今までの自分の行為を振り返って苦くなった。


「確認するけど、出せないんだな?」


 念のため訊くと案の定テアヌが頷いた。ジュノは頭を抱えたくなった。声を出せないというのはかなり厄介だ。紙とペンがなきゃ会話も成り立たない。


(こりゃ大変だな……)


 テアヌは声を出さなかったのではない。

 ショックで声が出せなかったのだ。


「そっかー……」


 物憂げにカウンターの上で頬杖をつき、コーヒーをすする。


 これからずっとテアヌと会話するためには常に紙とペンを持っていなければならない。日常なら面倒臭い程度で済むが、緊急のときはそれでは済まない。緊急、とは昨日のように山賊に襲われたときのような出来事が起きたときを指す。急いでるときにわざわざ紙に書いている時間なんてないし、たとえ伝えたいことが重要なことだったとしても間に合わないだろう。


 それにテアヌは紙とペンを奪われてしまえば事情を知っている俺を除いて人に自分の意思を伝えることもできない。人に何かを頼むこともできないし、助けを求めることもできない。現にテアヌは今回声を出せなかったせいで助けを求めることができず、ギンガタムからこの町まで車内に幽閉されていた。もし大声で助けを求めたり悲鳴を上げることができたなら、完全な密室ではない車内から声は外の人間に届いたはずだ。声が出せたなら、とっくの昔にテアヌは治安隊などに救出されている。恐らく男達はテアヌが声を出せないのをいいことに、あの車の中に枷鎖だけ嵌めてずっと幽閉していたのだろう。

 でももしかしたらこれはこれで良かったのかもしれない。テアヌが声が出せたならば、男達は彼女をもっと厳重な”箱”に入れて管理したはずだ。それはきっと車内で幽閉されるよりもっと辛いことだろう。

 それに管理が甘かったのは枷鎖や鍵に掛けられた魔術を男達が過信していたからというのもあるかもしれない。確かに枷鎖と鍵に掛けられていた魔術は強力なものだった。それはさっき身を持って体験したからよくわかる。ただ男達がどう思っていたのかわからないが、あの魔術は枷を外そうとした者を追い払ったり致死に至らすものではなかった。言うならば、後からジワジワと効き目が出てくるような魔術だろうか。恐らくだが、アスファルトの壁を破ってまで俺を止めようとしなかったのは、そこら辺を男達が履き違えていたからだろう。枷鎖と鍵に掛けられた魔術を過信し切っていたのだ。だから管理が甘かった。

 そしてだからこそ、俺はテアヌを助けられた。だから、結果的にはこれで良かったのだろう。


 しかし今回はたまたま運が良かったものの、次も上手くいくとは限らない。もし俺が少しでも目を離した隙に強賊にでも誘拐されたらテアヌはどうなる? ずっと助けも呼べずに苦しむことになるのか?

 いやしかし、これからの旅でテアヌが狙われる可能性はほとんどないだろう。いくらテアヌが貴族や豪族の身分――と思ってはいるが実際はわからないので仮定だが――だと言っても、彼女の顔を見ただけで彼女が誰かわかる者は自宅周辺の地域に限られる。今はその地域からずっと離れている土地にいるのだから、テアヌを知ってる者なんていないだろう。これから旅をしていく中でもそうだ。いくらなんでも、国一つ二つまたいだ地域の貴族の娘――仮定だが――をその地域の者が知っているはずがない。

 だから今は安全と言えば安全なのかもしれない。ただテアヌの今の格好では他人に彼女が、――恐らく――上流階級の人間だと勘付かれてしまう可能性があるが。


(取り敢えず服だな)


 アラストール氏から聞いた話では、ビアンカは五日安静にしていたら自然に声を出せるようになったという。だから声を出せるようになるには恐らく心の回復と少しの時間が必要なのだろう。

 だから今声のことをどうこう言ったところで何もならない。一先ず声の件は保留としておこう。


 今は服が必要だ。


「テアヌ。服買いに行こう。その格好だと目立つからな」


 白いドレスに苦笑しながら、空になったコップを弄んでいたテアヌに指摘すると、彼女は不思議そうに首を傾げた後ほほ笑みながら頷いた。

さて。

これにて第一章終了でございます

無事うpすることができて一安心です♪



第二章ですが、今のところ簡単なプロットしかできあがっていません(汗

ちなみに題名も決まってません。その内決めようとは思いますが…^^;



お盆もあってなかなか執筆に取り掛かれないので、次回の更新はだいぶ遅くなると思いますが、気長に待ってやってください


なるべく早く更新できるようにがんばります☆(`・∀・´)

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