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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第62話:『境界を越えるための約束』

第62話:『境界を越えるための約束』


 私は浮遊するカプセルを、見えない紐で引くようにしながら、無事に第9研究棟の搬入口まで戻ってきていた。レンと佐藤先生も一緒だ。


「レン、ここを開ければ外に出られるね」


「ああ、だが正面ゲート側の梨花のアンドロイドの違和感に、流石に気が付くだろう。そうなれば、ここの警戒態勢も元に戻ってしまうかもしれない。今のうちに近くに止めてある自動運転のトラックに乗り込んで、脱出しよう。梨花には、俺たちを鏡の様なもので囲って、見えない様にカモフラージュしてほしい。出来るか?」


「もちろんやるわ! さぁ急ぎましょう」

 

 私は全力で魔法をイメージした。水面に反射する風景の様に、鏡の様に、そして、政府関係者からの銃撃を跳ね返したり逸らす様に、強く強くイメージした。


「レンいいわよ。周りからは私たちは見えない様になっていると思う。佐藤先生もいいですね?」


「もちろんだ。付いていくよ」


「よし、行くぞ」

レンの掛け声のもと、私たちは脱出を始めた。




 大型トラックの低いエンジン音が、振動となって背中から伝わってくる。窓の外は漆黒の闇。街灯もまばらな高速道路を、私たちは北へとひた走っていた。


 荷台を改造した即席の居住スペースには、薄暗いLEDの灯りが灯っている。その中央に鎮座するのは、第9研究棟から強奪した巨大な白いカプセルだ。


 



「……バイタル、安定している。バッテリー残量も問題ない」


 佐藤先生が、カプセルの側面に接続されたモニターを見ながら安堵の息を吐いた。白衣は煤と埃で汚れ、顔にはあちこちに擦り傷があるけれど、その表情には医師としての穏やかさが戻っていた。


「よかった……。本当によかった」


 私はパイプ椅子に深く沈み込み、泥のように重い四肢を休めていた。魔力は底をつき、指一本動かすのも億劫だ。けれど、視線だけはカプセルの中の彼、悠斗から離せなかった。


 穏やかな寝顔。私がアルメルシアで見た、あの少しぶっきらぼうだけど優しい顔立ちそのままだ。でも、彼は目覚めない。呼んでも、触れても、彼は夢の檻の中にいる。


「……ニュース、見るか?」

 

 運転席から戻ってきたレンが、缶コーヒーを私に手渡しながら言った。運転は自動運転に切り替えたようだ。彼女がタブレットを操作すると、ニュース映像が投影された。


 『━━本日正午、第9研究棟付近で行われた大規模デモは、依然として混乱が続いており……』 『警察当局は「扇動者が逃亡した」と発表しましたが、ネット上では「魔法少女の奇跡だ」との声が拡散し……』


「作戦は大成功だ。政府のメンツは丸潰れ。……お前は今や、ジャンヌ・ダルクも裸足で逃げ出す革命の象徴だぜ」


 レンはおどけて見せたが、その目は笑っていなかった。彼女はカプセルの悠斗を一瞥し、静かに告げた。


「だが、俺たちが取り戻したのは『器』だけだ。……彼の意識は、まだあちら側にある」


「……アルメルシアね」


「ああ。崩壊した仮想世界『アルメルシア』のサーバーの残骸の中にあるはずだ」


 レンがタブレットの画面を切り替える。そこに映っていたのは、かつて私たちが冒険し、そして崩れ去ったあの世界のマップ、その断片的なデータ群だった。


「マザーブレインは消滅したが、ワールドデータの一部はまだ稼働している。……悠斗の意識データは、おそらくその深層領域にスタックしたままだ」


「ワールドデータ?」


「ああ、システムのバックアップデータのことだ」


 私は缶コーヒーを強く握りしめた。温かさが掌に伝わる。これがリアルの熱だ。私たちは必死にこの現実へ帰ってきた。でも、悠斗を本当の意味で取り戻すには、もう一度あの場所へ行かなければならない。


「……行けるの? もう一度」


「通常のログインゲートは閉鎖されてる。……だが、俺とお前の『力』があれば、裏口をこじ開けられるかもしれない」


 レンが私を見た。試すような、鋭い瞳だ。


「ただし、危険だぞ。今のアルメルシアは、管理AIのいない無法地帯だ。いや、まだ管理AIも生きているかもしれないが、バグとエラーが渦巻く、文字通りの『地獄』になってる可能性が高い」


「……関係ないわ。行くわ。……迎えに行く」


 私は迷わず即答した。地獄? それがどうしたというの。彼がいないこの世界の方が、私にとってはよっぽど寒くて寂しい場所だ。


 私はカプセルのガラスに手を当てた。冷たい感触の向こうに、彼がいる。かつて、彼は記憶を失っても私を守ってくれた。なら今度は、私が彼を見つけ出す番だ。


「待ってて、悠斗」


 私はガラス越しに誓った。


「私が必ず、あなたを見つける。……どんなに世界が壊れていても、あなたの魂を見つけ出して、この体に引きずり戻してあげる」


 佐藤博士が、頼もしそうに微笑んだ。レンが、呆れたように肩をすくめ、それからニヤリと笑った。


「了解だ、パートナー。……とびきりのダイブギアを用意してやるよ」


 トラックは闇を切り裂き、走り続ける。目的地は、北の果てにあるレンの隠れ家の一つだそうだ。そしてその先にあるのは、電子の海だ。





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