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アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


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第46話:『東京ナイト・エスケープ』

第46話:『東京ナイト・エスケープ』


 非常ドアを開けようとした佐藤博士は、ガチャガチャとドアのハンドルを捻って、悪態をついた。


「くそっ! 非常ドアが開かない、きっとロックされているんだ。防衛省は、黒田は何をやっているんだ!」


「先生、私がやってみます」

 あの世界でも現実でも、何故かは分からないけれど、魔法が使える。今回も出来るはずだ。私は落ち着いてイメージした。右手の平をドアに向けて構えて、べっこう飴が熱で溶ける様に、べっこう飴で出来たドアを高熱で溶かすイメージ!!


 ジュウゥゥゥ……ッ!!


 分厚い鋼鉄の非常ドアが、飴細工のように赤熱し、ドロリと溶け落ちた。熱気と共に、冷たく乾いた夜風が吹き込んでくる。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 私は車椅子の上で肩で息をした。頭がガンガンと痛み、視界が二重にブレる。重力操作の直後に熱魔法。脳のカロリー消費は限界を超えていた。


「ありがとう瀬戸さん! じゃあ行こう!」


 佐藤博士が車椅子を押し、溶けた扉の隙間から外へと飛び出した。


 そこは、施設の裏手にある搬入路だった。見上げれば、ビルの谷間に切り取られた狭い夜空。そして、その向こうに広がる新宿の摩天楼が、宝石箱をひっくり返したようなネオンの光を放っていた。


「外だ……!」

「ああ。だが、ここからが正念場だぞ」


 先生が周囲を警戒しながら、搬入路の坂道を駆け上がる。しかし。


 キキキーッ!!


 甲高いタイヤのスキール音と共に、前方から二台の黒いSUVが猛スピードで突っ込んできた。ヘッドライトの強烈な光が私たちを射抜く。


「しまっ……!?」


 先生が足を止める。後方からも、作業服姿の男たち、特殊部隊の追っ手が迫っていた。前門の虎、後門の狼。SUVから降りてきたのは、防弾ベストを着込んだ黒田と、武装した警備隊だった。


「逃げ場はないぞ、佐藤博士」


 黒服の一人が拡声器越しに告げる。その声は冷え切っていた。


「お前、黒田、……まさかアメリカのスパイだったのか」

車から降りて来た人のなかに、病院に乗り込んで来た黒服の人がいた。


「まぁ~、今回はこうゆうことになった。瀬戸梨花さんを引き渡せ。これ以上の抵抗は、国家反逆罪として処理する」


「国家反逆だと? 自国の国民を他国に売って、実験動物にするのが国家の仕事か!」


 博士が叫ぶが、黒服の男は眉一つ動かさない。背後の特殊部隊の人たちも、無言で銃口を向けて距離を詰めてくる。彼らは隙あらば、彼らごと私たちを排除する気だ。


「あきらめろ! 佐藤博士! 上の人たちが決めたことだ。 この方法でアメリカに渡すことで話しが付いている」


(……ここまで、なの?)


 私は震える手で膝を掴んだ。魔力と言う名の、お腹は空っぽ。車椅子じゃ逃げられない。博士を巻き込んで、ここで終わるのか。


 ……その時だった。


 ヴォン、ヴォン、ヴォォォォォンッ!!


 重厚なエキゾーストノートが、夜の静寂を切り裂いた。


「なっ!?」


 黒服の人たちが周囲を見まわした瞬間。一台の黒い大型バイクが、搬入路から、私たちの目の前に滑るように侵入してきた。


 ガシャンッ!


 タイヤのスモークを上げてドリフト停車するバイク。乗っているのは、フルフェイスのヘルメットを被った小柄なライダーだった。


「……え?」


 ライダーはヘルメットのシールドを上げ、私を見た。その奥にあったのは、鋭い知性を宿した瞳と、不敵な笑み。


「乗りな、魔法使い。……世界中がお前を待ってるぜ」


 声色からして、若い女性? 少年? わからない。でも、その声には聞き覚えがある様な気がした。あのVR世界で、崩壊する空から聞こえたノイズ交じりの声、いいえ、もっと前の、マザー・ブレインと戦っていた時の……。


「……君は、誰?」


「ただのファンさ。……お前の光を世界にバラ撒いた、お節介なハッカーだよ」


 ハッカー。あの映像を流出させた犯人!


「佐藤博士! こいつに乗せて!」


 ハッカーが叫ぶ。博士は一瞬驚いたが、すぐに決断した。彼は私を車椅子から抱き上げ、バイクの後部座席へと押し上げた。


「行け! 瀬戸さん!」


「先生!? でも、先生は……!」


「私は残る!」


 先生は私の手を握り、力強く言った。


「私がここに残って、悠斗君を守る。……君がいない間、彼を人質になんかさせない。私が命に代えても、彼のライフラインを守り抜く!」


「……っ!」


 涙が溢れそうになる。先生は、自分が囮になって、私を逃がそうとしている。


「必ず……必ず戻ってきます! 悠斗を、迎えに!」


「ああ、待ってるぞ! ……世界を見返してやれ!」


 博士がバイクのボディをバンと叩いた。


「しっかり捕まってな! 舌噛むよ!」


「おい!! 行かせると思うか。止まれ!! 撃つぞ!!」

黒服の人が叫ぶ。


「お前ら! この状況も配信しているぞ!! 魔法使いさん! 何かバリアーみたいなのやってくれないか」

 ハッカーが言いながらアクセルを全開にする。


 ドゥルルルルルッ!!


 バイクがロケットのように加速した。黒服の人たちの怒号と、特殊部隊の発砲音が遠ざかる。私のとっさのバリアー魔法も効いたのだろうか。私たちは夜の風になり、包囲網の隙間を、警備車両の隙間を掻い潜り、東京の公道へと飛び出した。


「うわぁぁぁぁっ!」


 流れる景色が光の帯になる。首都高速の高架下。煌めくビルの明かり。行き交う人々の喧噪。空には無数のドローンが行き交い、空中ディスプレイには、巨大なザトウクジラのホログラムが優雅に泳いでいる。そのすべてが、今の私には眩しく、そして愛おしかった。


 私は振り返った。遠ざかる防衛省第9研究棟の無機質なコンクリートの塊。その地下深くで眠る、大切な人に向けて。


(待ってて、悠斗) (私はもう、守られるだけの女の子じゃない)


 私は運転手の背中にしがみつき、夜空を見上げた。満月が、まるでアルメルシアの月のように輝いている。


 逃亡劇は始まったばかりだ。この光り輝く都市のどこかで、私は必ず反撃の狼煙を上げる。


 バイクは赤いテールランプの残像を残し、東京の闇へと消えていった。





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