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アルメルシア クロニクル ―『君と紡いだ偽りの物語は、やがて世界の真実になる』  作者: amya


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第41話:『現実を侵食する光』

第41話:『現実を侵食する光』


 ザァァァァァァ……ッ!!


 天井のスプリンクラーが作動し、冷たい人工の雨が病室に降り注いでいた。水浸しになった床には、砕け散った強化ガラスの破片がダイヤモンドのように散らばり、赤い回転灯の光を乱反射させている。


「う、うぅ……」

「なんなんだ、今の衝撃は……」


 爆風で壁まで吹き飛ばされた黒服の男たちが、呻き声を上げながら身を起こす。彼らの視線の先━━破壊されたカプセルの中心に、私はいた。


 痩せ細った体。ずぶ濡れの入院着。けれど、私の周囲だけは雨が届かない。皮膚から立ち昇る陽炎のような「熱」が、水滴を触れる前に蒸発させているのだ。


 シュウウウ……という音と共に、白い蒸気が私の体を包み込む。


「化け物め……!」


 黒田が割れた眼鏡をかなぐり捨て、懐から拳銃のようなもの━━鎮静弾発射機を抜いた。その銃口が、真っ直ぐに私に向けられる。


「確保は中止だ! 危険レベル最大レッド! 射殺しても構わん、制圧しろ!」


「待て! 早まるな黒田!」


 佐藤博士が私たちの間に割って入った。彼は両手を広げ、黒田の銃口の前に立ちはだかる。


「どいてください博士! あれはもう人間じゃない! 未知の脅威だ!」


「彼女は私の患者だ! そして、ただ怯えているだけの子供だ!」


 佐藤博士が叫ぶ。その背中越しに、彼が震えているのがわかった。それでも、彼は一歩も引かなかった。


「梨花ちゃん……大丈夫か」


 博士が肩越しに私を見る。


「……博士。……ユリオは、悠斗は……」


 私は蒸気の中で、隣の区画を指差した。ガラスが割れ、警報が鳴り響く中でも、彼だけは静かだった。ピクリとも動かず、ただ「未帰還」の文字だけが残酷に点滅している。


「……彼は、君を押し出すために負荷を引き受けた。脳のダメージが深すぎる」


 博士が苦渋の表情で告げる。


「今の医学では、彼を目覚めさせることはできない」


「……そんな」


 絶望が胸を締め付ける。私がここで魔法を使えても、彼を治すことはできない。破壊することはできても、再生することはできない。それが現実の厳しさだ。


「だから……諦めるな」


 博士の言葉に、私は顔を上げた。


「君が持ち帰ったその『力』。……その数式コードを解明できれば、あるいは彼を救う鍵になるかもしれない」


「……私が、鍵?」


「そうだ。だから今は耐えるんだ。ここで撃たれて終わるな!」


 その時。部屋の隅にある大型モニターが、突然ノイズ交じりに切り替わった。


 『━━緊急速報です。ネット上に流出した「謎の映像」について、政府はコメントを控えており……』


 ニュースキャスターの声。そして画面に映し出されたのは━━今、まさにこの部屋の映像だった。光り輝く少女。吹き飛ぶ男たち。粉砕される医療機器。監視カメラが捉えたその衝撃的な光景が、全世界のニュースサイトやSNSで拡散されていたのだ。


「な、なんだと……!?」


 黒田がモニターを見て愕然とする。スマホを取り出す部下たちも、青ざめた顔で報告する。


「局長! ダメです、止められません! トレンド1位が『魔法少女』……いや、『光の兵器』で埋め尽くされています! 海外のサーバーにもコピーが!」


「誰だ……誰がリークした!?」


 黒田が激昂して周囲を睨みつける。佐藤博士は、少しだけ安堵したように息を吐いた。


「……パンドラの箱は開いたようだ」


 博士は黒田に向き直り、冷静に告げた。


「黒田さん。もう彼女を秘密裏に処理することはできませんよ。世界中が彼女を見ている」


「……チッ!」


 黒田は忌々しげに舌打ちをし、銃を収めた。


「撤収だ! 情報規制を最優先しろ! この場所を封鎖するんだ!」


 男たちが慌ただしく動き出し、部屋から出ていく。嵐が去った後の静寂。私は膝から崩れ落ちそうになったが、ベッドの柵を掴んで耐えた。


 世界が変わってしまった。もう、普通の高校生には戻れない。私は「魔法」を現実に持ち込んだ異端者エラーとして、世界中から狙われることになる。


(……それでも)


 私は隣の悠斗を見た。カプセルの中で眠る彼は、穏やかな顔をしている。


(待ってて、悠斗)


 私は心の中で誓った。あなたのくれた命。あなたのくれた「熱」。無駄にはしない。


 たとえ世界中を敵に回しても、私はこの力を解明し、あなたを迎えに行く。今度は私が、あなたを救う番だ。


 私は震える拳を握りしめ、まだ微かに光を放つ自分の右手を見つめた。その光は、薄暗い病室を照らす、小さくも確かな希望の灯火だった。


 ━━同日、深夜。ネットの海を漂う一つの書き込みが、都市伝説のように語られ始めていた。


 『見たか? あの光。CGじゃないぜ』  『政府は隠してるけど、あれは魔法だ』  『覚醒者アウェイク……新しい人類の誕生だ』


 現実と非現実の境界線ボーダーラインは消失した。物語は、ここから加速する。


 硝子の病室から始まった、たった二人の「世界革命」が。





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