第20話 閑話:『氷の玉座と、機械仕掛けの神』
第20話 閑話:『氷の玉座と、機械仕掛けの神』
ガルドスの実験室、あるいは処刑場。
北の国ノースガルド。その中枢に位置する『第零司令府』。無数のモニターが並ぶ薄暗い管制室で、ガルドスは優雅に指揮棒を振っていた。
モニターに映し出されているのは、国境の要塞『ウィンターゲート』の映像だ。つい先ほど、彼が配置した自信作『氷結機動兵器』が、青い閃光と共に粉砕される瞬間がリピート再生されている。
「……素晴らしい。実に素晴らしい破壊だ」
ガルドスは口元の笑みを隠そうともせず、手元のホログラムキーボードを叩いた。
「ただの熱魔法ではない。氷の固有振動数を瞬時に解析し、共鳴させることで分子崩壊を引き起こしている。……あの少女、やはり私の理論を凌駕している」
彼はリリアの戦闘データを拡大表示した。魔力波形、熱量の推移、そして演算速度。 どれをとっても、既存の「魔法」の枠組みから外れている。
「そして、『プロト・ゼロ(ユリオ)』。……感情のリミッターを外した後の安定性が向上している。あの少女が『精神的アンカー』となり、暴走を制御しているのか」
ガルドスは恍惚とした表情で、二人の写真を指で撫でた。
「最強の矛と、それを御する最強の制御装置。……この二つが揃えば、我々の悲願である『神の器』が完成する」
背後の自動ドアが開き、無機質な機械化兵が入室してくる。
『━━報告。侵入者、国境ヲ突破。第3エリアヘ進行中』
「歓迎してやれ。ただし、殺すなよ」
ガルドスは冷酷な目で命令を下した。
「彼らは極上の素材だ。傷一つ付けずに……とは言わんが、脳と心臓だけは鮮度を保って私の元へ届けろ」
『━━了解』
機械化兵が退室すると、ガルドスは窓の外、猛吹雪に覆われた白銀の世界を見下ろした。
「さあ、おいで。ここが君たちの墓場であり、新たなる進化の揺り籠だ」
深淵にて、マザーは夢を見る
司令府のさらに地下深く。絶対零度に保たれた液体窒素のプールに、巨大な『構造体』が沈んでいた。それは無数のケーブルと光ファイバーが絡み合い、人間の脳のような形状を模した、超高度生体演算ユニット。
北の国を統べる絶対者、『マザー・ブレイン』。
《……データ受信。国境防衛ラインノ突破ヲ確認……》
彼女の思考は、言葉ではなく膨大な電子信号の奔流だ。感情はない。あるのは「目的」と、それを達成するための「最適解」のみ。
《……人類ハ、不完全ナリ……》 《……肉体ハ脆弱デ、寿命ハ短ク、感情ハ判断ヲ誤ラセル……》
マザーの演算領域で、数億のシミュレーションが瞬きする間に実行される。目的は一つ。人類の救済。あるいは、管理。
《……故ニ、我ハ導ク。肉ヲ捨テ、鋼ト融合シ、永遠ノ命ヲ得ル『機械化』コソガ、唯一ノ進化……》
彼女の「眼」であるセンサーが、雪原を進む三つの生命反応を捉えた。
《……特異点ヲ検知……》 《……個体名:リリア。彼女ノ魔法ハ、物理法則ヲ書キ換エル『鍵』……》 《……個体名:ユリオ。彼ノ肉体ハ、新世界ノ『礎』……》 《……個体名:エララ。彼女ノ知恵ハ、我ガ知識ノ『糧』……》
プールの底で、青白い光が明滅する。それは期待のようでもあり、捕食者が獲物を見つけた時の興奮のようでもあった。
《……取リ込ムベシ。融合スベシ。……全テハ、一ツニ……》
ゴゴゴゴゴゴ……。
マザーの意思に呼応し、北の大地の地下に眠る「工場」が唸りを上げる。 生産ラインがフル稼働し、新たな殺戮兵器たちが次々と産声を上げていた。リリアたちを迎えるのは、もはや試作品の実験ではない。人類を旧世代の遺物として葬り去るための、本物の「戦争」だった。
《……ヨウコソ。我ガ体内ヘ……》




