表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

第16話:『王都脱出、夜明けの逃走劇』

第16話:『王都脱出、夜明けの逃走劇』


 東の空が白み始め、王都グランドリアが目覚めの時を迎える頃。私たちは、とある商隊の荷馬車の中に潜んでいた。


「……狭い」

「我慢しろ、ユリオ。これしか出る方法がないんだ」

「私の発明品を踏まないでよ? 爆発するから」


 私たちは樽や木箱の隙間に、何かのゲームのブロックのように詰め込まれていた。上から被せられた麻布からは、香辛料のツンとした匂いがする。


 王都の門は、現在封鎖中。出入りするすべての馬車に、衛兵による厳しい検問が行われている。私たち「図書館爆破のテロリスト」を捕まえるために。


(こんな風にコソコソ逃げるなんて……。私、何も悪いことしてないのに)


 理不尽さに唇を噛むけれど、今は耐えるしかない。捕まれば、北の国の脅威を誰にも伝えられないまま終わってしまう。


 ゴトゴトゴト……。


 馬車が動き出した。心臓の音がうるさいくらいに響く。やがて、馬車が停止し、威圧的な男の声が聞こえてきた。


「検問だ。荷台の中を改めるぞ」


 衛兵だ。足音が近づいてくる。麻布が一枚めくられれば、そこには指名手配犯が三人、仲良く体育座りをしているわけだ。一巻の終わりである。


「……エララ、例のモノは?」

「準備万端よ。……三、二、一……」


 エララが指でカウントダウンをし、懐から取り出した小さな金属球のピンを抜いた。  そして、それを床板の隙間から外へと転がした。


 コロコロ……。


 シュボッ!!


 次の瞬間、門の反対側━━広場の方角から、けたたましい破裂音が響き渡った。


 ヒュルルルル……パンパンパンパンッ!!


「な、なんだ!? 襲撃か!?」

「広場で爆発だ! 黒煙が上がってるぞ!」


 衛兵たちが慌てふためく声。エララ特製『時限式・七色煙幕花火』だ。ただの煙幕じゃない。赤、青、黄色と派手に色が変わり、しかも「腐った卵の臭い」を撒き散らすという嫌がらせ仕様。


「今だ! テロリストが現れたぞーっ!」


 商隊に紛れ込んでいたエララの協力者(闇市の顔なじみ)が、迫真の演技で叫んでくれた。


「総員、広場へ急げ! 門を固めろ!」


 衛兵たちが一斉に持ち場を離れ、広場へと駆けていく。検問の手が止まった。御者が素知らぬ顔で馬に鞭を入れる。


 ヒヒィン!


 馬車が急加速する。やった、抜けられる! そう思った瞬間だった。


「━━待て」


 低く、けれどよく通る声が、混乱する現場を凍りつかせた。馬車の前に、一人の騎士が立ちはだかったのだ。


 隙間から覗き見た私は、息を呑んだ。白銀の甲冑に、真紅のマント。腰には装飾された聖剣。王国騎士団長、ヴァルガスだ。


(嘘……一番ヤバい人が出てきちゃった!)


 彼は逃げ惑う衛兵たちを一瞥もせず、真っ直ぐにこの馬車を見据えている。バレてる。  あの歴戦の眼光は、樽の影に隠れた私たちの気配を完全に見抜いていた。


「……降りてこいとは言わん」


 ヴァルガスは独り言のように呟き、剣の柄に手をかけた。


「だが、一つだけ聞かせろ。……図書館の地下で何を見た?」


 馬車の中に緊張が走る。ユリオが剣を抜こうとするのを、私が止めた。私は麻布の隙間から、彼に見えるように、そっと『黒い箱(北の兵器の部品)』を掲げた。そして、口パクで伝えた。


 ━━『キ、タ』。


 ヴァルガスの目が、わずかに見開かれた。彼はその部品と、私の必死な目を見て、ふっと表情を緩めた。それは諦めではなく、何かを託すような、戦士の顔だった。


「……よし、行け」


 彼は道を開け、馬車の車輪止めを蹴り飛ばした。


「団長!? 何をしているんですか! その馬車はまだ……!」


 戻ってきた部下が叫ぶが、ヴァルガスは大声で遮った。


「あっちだ! 犯人は東の路地へ逃げたぞ! 全員、私に続け!」


「は、はっ!!」


 ヴァルガスは馬車とは正反対の方向へ走り出し、衛兵たちを引き連れて行ってしまった。去り際、彼が一度だけ振り返り、無言で敬礼を送ったのが見えた。


(……ありがとう、騎士団長さん)


 胸が熱くなった。言葉は交わさなくても、想いは通じた。彼は国を守る立場で動けない代わりに、私たちに「外の世界」を託してくれたのだ。


 馬車は石畳を蹴って、王都の城門をくぐり抜けた。


 朝日に照らされた街道。私たちは馬車から降り、徒歩で北へと向かう道に立った。  振り返れば、巨大な城壁と、朝靄に霞む王城が見える。


「……しばしの別れね」


 エララが眼鏡の位置を直し、少し寂しそうに言った。彼女にとっては、生まれ育った家であり、職場でもある場所だ。


「ああ。……だが、必ず戻ってくる」


 ユリオが新しい黒いコートを風になびかせ、力強く頷いた。

「うん。……北の国で何が起きてるのか突き止めて、子供たちを助けて。そうしたら、堂々と正面から凱旋しよう!」


 私は杖を高く掲げた。そうだ。これは逃走じゃない。世界を救うための、長い長い遠征の始まりなんだ。


「行くぞ。……風が冷たくなってきた」


 ユリオの言葉通り、王都を離れるにつれて、風には微かに冬の匂いが混じり始めていた。目指すは北の果て、ノースガルド。その道のりは、まだ果てしなく遠い。


 私たちは背を向け、未知なる大地へと第一歩を踏み出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ