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アルメルシア クロニクル  作者: amya


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第14話:『指名手配と、エララの隠れ家』

第14話:『指名手配と、エララの隠れ家』


 目が覚めると、私は本の山に埋もれていた。


「……んぐっ。重い……」


 身体を起こそうとして、胸の上に分厚い魔導書が積み上がっていることに気づく。布団の代わりにかけられているのは、インクの染みがついた古びたローブだ。


「起きた? お寝坊さん」


 部屋の奥から、機嫌の良さそうな声が飛んできた。視線を向けると、丸眼鏡をかけたエララが、怪しげな液体がポコポコと沸騰しているフラスコを片手に、優雅にコーヒー(のような黒い液体)を啜っていた。


「ここ、どこだっけ……」

「私の隠れセーフハウスよ。王都の貧民街、そのさらに地下にある『廃棄区画』。ここなら騎士団の鼻も利かないわ」


 そうだった。昨夜、地下書庫からの決死の脱出劇の後、私たちはエララの先導でこの場所に逃げ込んだのだ。部屋というよりは、巨大な倉庫を改造した実験室といった感じだ。床から天井まで、ガラクタや機械部品、そして本、本、本が隙間なく詰め込まれている。


「ユリオは?」

「外で見張りをしてるわ。……彼、ほとんど寝てないんじゃないかしら」


 エララが顎で入り口をしゃくった。私はローブを跳ね除け、鉄の扉を開けた。


 外は薄暗い路地裏だった。湿った空気と、生活排水の臭い。その突き当たりに、ユリオは腕を組んで立っていた。壁に寄りかかり、フードを目深に被っているが、その纏う空気は以前よりも鋭く、そしてどこか悲壮だった。


「ユリオ」

「……起きたか、リリア」


 彼が顔を上げる。碧い瞳の下には薄くくまができていたが、その光は力強かった。


「体調はどうだ? 魔力の使いすぎで倒れた時は肝が冷えたぞ」

「平気だよ。一晩寝たら満タン! ……ユリオこそ、怪我は?」

「俺の体は頑丈にできているらしいからな。……皮肉なことにな」


 彼は自嘲気味に笑い、懐から一枚の紙を取り出した。


「それより、これを見ろ。……俺たちは一晩で有名人だ」


 手渡されたのは、王都で発行されている新聞の号外だった。その一面を見て、私は絶句した。


【王立図書館爆破! 凶悪テロリスト、逃走中】


 デカデカと踊る見出し。そしてその下には、悪意たっぷりに描かれた三人の人相書きが載っていた。目つきの悪い剣士。狂気のマッドサイエンティスト風の眼鏡女。そして━━「爆弾を抱えてニヤつく凶悪幼女」として描かれた私。


「な、ななな……何これぇぇぇっ!?」


 私は叫んだ。


「なんで私たちが犯人なの!? 子供たちを助けたのに! 世界を救ったのに!」


「まあ、そうなるわよね」


 後ろからエララがひょっこりと顔を出した。


「王政府としては、『地下で非人道的な人体実験が行われていました』なんて口が裂けても言えない。だから、すべての罪を『正体不明の侵入者』になすりつけたのよ」


「そんな……ひどすぎる……」


 現実は非情だ。RPGなら、王様から褒美をもらってファンファーレが鳴る場面なのに。私たちは英雄どころか、国家転覆を企む大罪人になってしまった。


「……だが、好都合だ」


 ユリオが新聞をくしゃりと握りつぶした。


「どうせ俺たちは北へ行く。国を捨てるんだ。……未練がなくなって清々しいくらいだろ」


「ユリオ……」


 彼は吹っ切れていた。自分が人間ではなく「兵器」として作られた存在だと知っても、彼は折れていなかった。むしろ、その運命オリジンに立ち向かうための怒りを、静かな闘志に変えていた。


「よし、会議をしましょう」


 エララがパンと手を叩き、私たちを部屋の中へと促した。


 ガラクタの山をテーブル代わりにして、私たちは地図を広げた。


「目的地はここ。大陸最北端、『ノースガルド』」


 エララの指が、地図の北端を指し示す。そこは白紙になっていて、「未踏領域」とだけ記されている。


「でも、ここに行くには二つの壁があるわ。一つは国境の要塞『ウィンターゲート』。そしてもう一つは……自然の要塞『大氷壁』よ」


「大氷壁?」


「ええ。マイナス四〇度の極寒と、常に吹き荒れるブリザード。……普通の装備で挑めば、一時間で氷像の出来上がりね」


 マイナス四〇度。二〇四〇年の異常気象でも体験したことのない世界だ。


「それに、相手は北の機械化軍団だ。……俺の剣はともかく、防御面が不安すぎる」


 ユリオが自分のボロボロになった革鎧を見た。昨夜の戦闘で、あちこちが焦げ、破れている。


「そこで! 私の出番というわけ」


 エララが得意げに鼻を鳴らし、部屋の奥にある巨大な木箱を蹴飛ばして開けた。


「ジャジャーン! エララ特製、対北国用・極秘装備コレクション~!」


 中から出てきたのは、見たこともない奇妙なアイテムの数々だった。発熱する繊維で織られたコート。魔物の視界を誤魔化す迷彩ポンチョ。そして、スチームパンク風のゴツいゴーグル。


「これらはまだ試作品だけど、私の『魔導科学』の粋を集めた傑作よ。……ただ、完成させるにはいくつか部品パーツが足りないの」


「部品?」


「ええ。耐寒コートの核になる『氷竜の皮』と、ゴーグルのレンズに使う『精霊石』。……これらは表の市場じゃ手に入らないわ」


 エララはニヤリと笑い、王都の地図の一点を指差した。


「今夜、王都の裏で開催される『闇市ブラックマーケット』に行くわよ。……お尋ね者の私たちには、おあつらえ向きのショッピングモールだと思わない?」


 闇市。その響きに、私はごくりと唾を飲み込んだ。指名手配中の買い物。バレたら即、牢屋行き。


「上等だ。……必要なものは奪ってでも手に入れる」

「ユリオ、強盗はダメだからね!?」


 こうして、私たちの北への旅支度が始まった。まずは今夜、王都の闇に潜り、生き残るための牙と爪を研ぐのだ。





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