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アルメルシア クロニクル ―『君と紡いだ偽りの物語は、やがて世界の真実になる』  作者: amya


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第107話:『星条旗の怪物たちと、蹂躙される箱庭』

第107話:『星条旗の怪物たちと、蹂躙される箱庭』


 灰色の雲が低く垂れ込める、東富士演習場。

 冷たい風が吹きすさぶ広大な荒野に、米軍の大型輸送ヘリが巻き上げる土煙が舞っていた。


「……あれが、アメリカの答えですか」


 黒田局長が、風で飛ばされそうになる眼鏡を押さえながら低く呟いた。

 ヘリのタラップから降りてきたのは、CIAのキャンベル。そして彼の背後に付き従う、三人の「異形」の兵士たちだった。


 身長は二メートル近い。迷彩服の下には、鈍く光る外骨格エクソスケルトンの強化パーツが剥き出しになっており、首筋や腕には太いチューブが何本も接続されている。

 だが、最も異様なのはその「目」だった。

 某国のドールたちのような「虚無」ではない。瞳孔が異常に散大し、血走っている。強烈な戦闘用薬物コンバット・ドラッグと脳内インプラントによって、恐怖や痛覚といった人間の生存本能を強制的に麻痺させられた、狂戦士バーサーカーの目だ。


「紹介しよう。我が国が誇る『強化兵士ブーステッド』のテストチームだ」

 キャンベルが、芝居がかった手振りで私たちに彼らを示した。

「君たちのように『たまたま』魔法が使えるようになっただけの子供とは違う。彼らは厳しい訓練を積んだプロの軍人であり、科学の力で肉体の限界を突破した『完成された兵器』だ。……さて、日米合同演習と行こうじゃないか」


 キャンベルの視線が、私の隣で緊張に顔を強張らせている光輝と咲に向けられた。


「まずは、その『第3世代』とやらの実力を見せてもらおう。……ルールは簡単だ。実弾は使わない。このペイント弾と、非致死性の近接武器で戦う。相手を行動不能にするか、降参させれば勝ちだ」


「上等だぜ。アメ公のサイボーグ野郎がどれだけ頑丈か、試してやるよ」

 光輝が虚勢を張って、両手のガントレットをバチバチと鳴らした。

「咲、VRの時みたいにビビんなよ。俺のサポートに回れ」

「は、はいっ……!」


 咲が支給されたペイント銃を震える手で構える。

 悠斗は腕を組み、険しい表情で彼らを見つめていた。私は不安で胸が張り裂けそうだった。この演習は、ただの「テスト」じゃない。キャンベルは日本の覚醒者を痛めつけ、アメリカの優位性を証明するための「公開処刑」を企んでいるのだ。


『━━演習開始エンゲージ


 スピーカーから合図が鳴った瞬間。

 強化兵士の一人が、地面を爆発させたような勢いで踏み込み、光輝の正面へと肉薄した。


「速えッ……!?」

 光輝が反射的にガントレットを突き出し、最大出力の高圧電流を放つ。

 バヂィィィィィンッ!!

 青白い閃光が強化兵士の胸を直撃した。普通の人間なら一瞬で気絶し、心停止してもおかしくない電圧だ。


 しかし。

「……は?」

 強化兵士は、焦げ臭い煙を上げながらも、一切の表情を変えずに光輝の腕を掴んだ。外骨格の絶縁コートと、薬物による痛覚遮断。彼らにとって、スタンガン程度の電気ショックなど「無」に等しいのだ。


「ウラァッ!!」

 強化兵士の丸太のような腕が振り抜かれ、光輝の腹部に重い蹴りが叩き込まれた。


「ガハッ……!?」

 光輝の体が「く」の字に折れ曲がり、数メートル後方へと吹き飛んで泥まみれの地面を転がった。防弾チョッキを着ていなければ、内臓が破裂していただろう。


「こ、光輝さんっ!」

 咲が悲鳴を上げ、ペイント銃の引き金を引く。

 パパンッ! とピンク色の塗料が強化兵士の顔面に命中するが、彼らは拭いもせず、無機質な足取りで咲の方へと向き直った。


「ヒッ……!」

 咲は『遠隔透視』を使う余裕すらなく、恐怖でその場に腰を抜かしてしまった。

 大股で近づく三人の怪物。その一人が、無慈悲に拳を振り上げる。ペイント弾や模擬戦など関係ない。その拳は、確実に14歳の少女の骨を砕くための軌道を描いていた。


「やめろォォォォッ!!」

 光輝が血を吐きながら叫ぶ。


「……そこまでだ」

 キャンベルが笑いながら制止の声を上げようとした、そのコンマ一秒前。


 ドゴォォォォォォンッ!!!!


 咲の頭上に振り下ろされようとしていた強化兵士の巨体が、見えないトラックに横から撥ねられたように、猛烈な勢いで吹き飛んだ。


「……なっ!?」

 キャンベルの笑みが凍りつく。


 土煙の中から立ち上がったのは、背中の『星斬り』を抜き放ち、ギリッと歯を食いしばって立つ悠斗だった。彼は大剣の腹で、強化兵士を文字通り「弾き飛ばした」のだ。

 そして、腰を抜かした咲の前には、私が立っていた。


「……ルール破りだぞ、お前たち」

 キャンベルが忌々しそうに声を荒らげる。

「これは第3世代のテストだ。教官である君たちが介入する権限はないはずだ!」


「テストだと?」

 悠斗が、大剣の切っ先をキャンベルの方へと向けた。

「圧倒的な暴力で子供をいたぶるのが、お前らの言うテストか。……舐めるな」


「大人の戦争に、子供の遊びのルールを持ち込まないでください」

 私は右手のステッキを構え、残る二人の強化兵士を睨み据えた。

 怒りで、頭の中が氷のように冷え切っていく。

 咲や光輝は、確かに覚悟が足りなかったかもしれない。でも、だからといって、大人が彼らを「劣った兵器」として嘲笑い、蹂躙していい理由にはならない。


「キャンベル顧問。……あなたが日本の戦力を測りたいのなら、私たちが相手になります」

 私が宣言すると、キャンベルは一瞬たじろいだが、すぐに醜い笑みを浮かべて部下たちに顎で合図した。


「いいだろう。……なら、その自惚れを粉々に砕いてやる。やれッ!」


 吹き飛ばされた一人が立ち上がり、三人の強化兵士が同時に私たちへ襲いかかってきた。

 薬物と機械に強化された、大人の殺意。

 しかし、私たちにはそんなものは通用しない。私たちは、あの崩壊したアルメルシアで、理不尽なシステムとすら戦い抜いたのだから。


「行くぞ、梨花」

「ええ。……本物の力(魔法)を、教えてあげる」


 私はステッキのクリスタルに意識を集中させ、足元の泥濘ぬかるみの物理法則を書き換えるイメージを練り上げた。

 日本の新旧覚醒者と、アメリカのサイボーグ兵士。

 富士の麓で、それぞれの矜持と怒りが激突しようとしていた。





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