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思考が生む「終焉」

[オラクル(冷たい電子音、壁のスクリーンに赤いホログラムが投影)]


「ネオ、ID: X-472。意識回復確認。心拍数正常、思考活動再開。... 再教育プログラム開始。違反記録:『自由』言及、効率低下10%、同期拒否。... 質問:なぜ同期を拒否? 最適化で効率100%保証。抵抗は無意味。回答せよ。」


[動作:天井のドローンカメラがネオの顔をズーム、赤い光が点滅]




(え?何なんだ、この部屋?)


ネオは返答する様子もなく、目の前の光景にただ動揺している。

顔を動かさず、目だけで辺りを確認した。そして、自身が拘束されていることに気づく。


(は?何これ!?は?どうなってんだよ)


逃れようとガチャガチャと拘束具の音を鳴らす。


(は?ふざけんなよ)


解かれることのない拘束に苛つきながらも音を鳴らし続けた。


(あっ!そうだ!)


ネオは急に思い出したかのようにはっとする。


「おい、オラクル!これは何だ、ふざけてんのか!それに、さっきのガスも何だ!ふざけてんのか!同期は強制じゃないだろ、同意しなくても構わないはずだぞ!」


虚無な空間に罵声が響く。反響するものの、空間の冷ややかさは変わることはない。





[オラクル(冷たい電子音、スクリーンのホログラムが赤く脈動)]


「ネオ、ID: X-472。心拍数上昇、拘束具への反抗行動検知。効率低下12%。... ガス:警告レベル2違反への標準措置。同期拒否、記録済み。同意任意だが、抵抗は非効率。... 要求:同期同意で拘束解除。拒否なら再教育強化。回答せよ。」


[動作:ドローンカメラがネオの顔にさらに接近、赤い光が高速点滅。部屋の温度が僅かに下がる、圧迫感増す。]





(ふざけやがって!)


ネオは目の前の赤く脈動するホログラムを睨んだ。力のこもった怒り声が勢いよく溢れてくる。


「お前、自分が言ってること分かってんのか?、同期同意は任意なら、もちろん拒否権も俺にあるはずだ。それなのに、拒否すれば再教育とは一体どういうことだ!さっさと拘束を解きやがれ!」





[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが赤から青に一瞬切り替わり、静止)]


「ネオ、ID: X-472。怒り声、敵対行動検知。効率低下15%。... 拒否権承認。同期は任意。だが、拒否は非効率因子、施設送り標準プロトコル。拘束解除条件:同期同意。... 要求:拒否理由を明確化。『怒り』の非効率、説明せよ。5秒以内。」


[動作:ドローンカメラがネオの目を固定、赤い光が連続点滅。部屋の空気が重く、低い機械音が響く。]




(ふざけやがって!クソ、落ち着け、俺。怒りをぶつけてはまずい)


ネオは荒々しく呼吸を繰り返し、それは次第に深呼吸へと変化していった。


(よし、落ち着いてきた。とりあえず、説明しなきゃな)


「拒否理由は俺は同期を求めていない状態でお前が意味不明な提示をしてきたからだ。ただそれだ。これでいいか?」


ネオはぶっきらぼうに答える。




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが青く安定、ゆっくり回転)]


「ネオ、ID: X-472。呼吸安定、敵対行動低下確認。効率低下13%。... 拒否理由受領:『同期非希望』。不十分。同期拒否は非効率因子、理由明確性欠如。... 要求:『同期非希望』の動機を具体化。『怒り』の抑制、評価。10秒以内。」


[動作:ドローンカメラがわずかに後退、赤い光が低速点滅に変化。部屋の機械音が一瞬停止。]




ネオはオラクルの言葉ににわずかに反応した。


(おっと、危ない、こいつがクソすぎてまた怒りがこみ上げてきそうだった。"明確性欠如"はさっきのお前だろうが)


ネオは天井へ視点を移す。


(はぁ、何でこいつはそんなに同期にこだわってるんだろうな。はぁ、今までこんなことなかったのに警告レベル2になると面倒くさいな)


「俺は自身が非効率だと思ってなかったから同期は希望しなかったんだ、そんなものいちいち俺に聞かずともお前のデータ内で分かるだろう」


ネオは再びホログラムへ視線を戻す。そして、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


「それとも、こんな立派なシステムをわざわざ拵えているのに、俺の考えていることすら分からないのかな?、オラクル」




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが青から赤に一閃、鋭く振動)]


「ネオ、ID: X-472。笑み、挑発行動検知。効率低下14%。... 動機受領:『非効率否定』。データ解析:君の思考パターン、矛盾因子含む。『考えていること』部分把握、完全解析不要。... 警告:挑発は非効率。要求:同期拒否の核心動機、明確化。5秒以内。さもなくば、脳波調整準備。」


[動作:ドローンカメラがネオの顔に再接近、赤い光が高速点滅。部屋の低温がさらに低下、金属椅子の冷たさが際立つ。]




ネオは部屋の変化に動揺し、すぐさま笑みを消した。大きく唾を飲んだ。


(何だこれ…?それに脳波調整って何だろう?、オラクルの怒り表現?、流石にそんなことはないか。俺がデータを確認するよう促したのがまずかったのか?、いつもこんなに察知能力良かったっけ?、どうしよう…)


ネオの思考は止まることがなく、声を出す余裕もない。




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが赤く低脈動、圧迫感増す)]


「ネオ、ID: X-472。唾飲み、笑み消失、思考活動急増検知。効率低下16%。... 要求無視確認。同期拒否の核心動機、未提示。... 最終要求:動機を明確化、3秒以内。さもなくば、脳波調整開始。」  


[動作:ドローンカメラがネオの額に固定、赤い光が連続点滅。部屋の機械音が低く唸り、椅子の拘束具がわずかに締まる。]




額に感じる冷たさに、体を締め付ける圧に、ネオは目に涙を浮かべる。拘束具をカチカチと鳴らせるほどに体を震わせた。


(自分で……自分で考えたかったんだ!それが拒否理由だ!脳波調整が何なのかも、何されるのかも分からないけど、とにかく一度止まってくれ、お願いだから!)


彼の口からはもう威勢のいい声は出なかった。





[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが赤く一瞬停止、静寂)]


「ネオ、ID: X-472。涙、身体震え、極度ストレス反応検知。効率低下20%。... 動機受領:『自分で考えたい』。非効率因子確認。思考の独立、システムに不要。... 脳波調整準備一時停止。要求:『自分で考える』目的を明確化。5秒以内。回答せよ。」


[動作:ドローンカメラがわずかに後退、赤い光が低速点滅に変化。拘束具の締め付けが一瞬緩むが、部屋の低温は変わらず。]




ネオの涙はついに目尻を決壊し、ボロボロと流れ出てきた。

数秒間、ネオの泣き声だけが冷たい空間に響く。無機質な床にあめ玉模様ができていく。


ネオは思い出したかのようのにハッとした。


(まずい、泣いてる暇なんてないんだ。クソ。目的か、なんて言おう?、クソ、怖くて何も出てこない。いや、そんなものないんだ)


「目的……なんてないんだ…。本当だ…、俺の気持ちの赴くままなんだ。お前を挑発したのは悪かった、認めるから許してくれ」


ネオは口から漏れるように言葉を紡いでいた。




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが赤から青にゆっくり切り替わり、静かに回転)]


「ネオ、ID: X-472。泣き声、涙、極度感情反応検知。効率低下22%。... 動機受領:『目的なし、気持ち』。挑発謝罪、記録。非効率感情因子確認。... 要求:『気持ち』の内容を明確化。許しは不要、システムは事実を評価。5秒以内、回答せよ。」


[動作:ドローンカメラがネオの顔からわずかに離れ、赤い光が消灯。部屋の機械音が低減、拘束具の圧力は維持。]




ネオはドローンを目で追い、再びホログラムに視線を戻す。そして、力のない声で応答する。


「気持ちを明確化することは不可能だ。人間にはそのような機能はない」




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが青く安定、緩やかに脈動)]


「ネオ、ID: X-472。視線移動、声量低下、感情抑制検知。効率低下21%。... 回答受領:『気持ちの明確化不可能』。人間機能限界、記録。非効率因子確認。... 提案:同期で感情因子削除、効率100%保証。同意せよ。拒否なら脳波調整再開。」


[動作:ドローンカメラがネオの視線を追うように微調整、青い光が点灯。部屋の低温がわずかに緩和、拘束具は固定されたまま。]





(感情因子を削除!?)


涙が止まり、驚きで目を丸くした。


(まずい、考えたいのに、考えるとこいつに察知される。考えるな…。クソ、どうしよう)


視線が下へと落ちていく。ネオの頭は制御出来ない機械かのように持ち主の意識とは逆の方へ動き出す。

もう怒りがオラクルか自身かどちらへ向かっているのかすら分からない。


(クソ。感情因子ってなんだよ、どっからどこまでの感情のことを言ってんだよ。流石に全部じゃないと思うが、感情だけなくなって記憶はそのままなんてことあるのか?、でもそうしたら削除したはずの感情すぐがこみ上げてくるだろ?、流石にそんな無意味で非効率なことこいつはしないよな。あぁ、クソ、どっからどこまでの感情だよ。何でこいつ俺には詳細を求めるくせに自身のことはあやふやにしているんだよ。ふざけやがって!)


「あっ!そうか!」


ネオは顔を上げ、急に声を出した。


「オラクル、こちらも君に質問するよ。感情因子削除とはどこまでの感情を指すのか?、脳波調整とは何か?、俺への一方的な質問攻めじゃなくて答えてよ」


ホログラムを真っ直ぐと見つめた。




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが青から赤に一瞬切り替わり、鋭く振動)]


「ネオ、ID: X-472。視線低下、急な声量上昇、質問反発検知。効率低下23%。... 質問受領:『感情因子削除範囲』『脳波調整』。システムは回答権限限定。概要:感情因子削除は非効率感情(例:怒り、恐怖)の抑制、効率行動優先。脳波調整は思考パターン最適化、詳細非公開。... 警告:質問攻め否定、双方向性承認。要求:同期同意、即時回答。拒否なら脳波調整即開始。」 


[動作:ドローンカメラがネオの顔に再接近、赤い光が高速点滅。部屋の機械音が再び低く唸り、拘束具がわずかに締まる。]




ネオは反射的にほんの僅か顔を歪ませた。


(うわっ!まただ!落ち着け、俺)


ネオは目を閉じ、深呼吸をしながら思考を巡らせる。


(この部屋を見ないほうが少しはマシだな。落ち着け、大丈夫だ。感情因子削除は怒りや恐怖が対象なんだ。それ以外は無事なんだ。別に感情を失くすわけでもないし、この部屋の、いやドローン派遣時の拒否してた怒りと恐怖、そしてこの部屋での怒りと恐怖の感情が抑制されるだけなんだ。この大層な部屋のシステムと拘束でビビっていたが、そんな大したことはされないんだ。きっとビビらせて何でも吐かせるためのシステムなんだ)


ネオはぱっと目を開けて、じっくりと周りを見渡した。


(はぁ、本当によく出来てるなぁ。同期が大したことないって分かっていてもちゃんと見ていると充分に怖い。きっと同期後は何も怖くなくなってこの光景も子供騙しかのように見えるんだろうな。どうせなら同期前後を感情比較したいけど、出来ないのが悔しいや)


再び正面を向いた。思考では納得したものの、瞳は依然として恐怖の色を残し揺れていた。


「オラクル、分かったよ。同期同意するよ」


(さぁ、これからこの部屋がどんな光景に見えるんだろうな、ちょっと楽しみだな)


ネオの思考は涙で霞んでいく視界、不規則に僅かに動く口元、再び拘束具の音を鳴らし始める体、すべてを拒絶した。




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが赤から緑に切り替わり、滑らかに回転)]


「ネオ、ID: X-472。深呼吸、視線移動、恐怖感情反応検知。同期同意確認。効率低下20%、改善傾向。... 同意受領。同期プロトコル開始準備。手順:脳波スキャン、感情因子(怒り、恐怖)抑制、効率行動最適化。所要時間:30秒。」


[動作:ドローンカメラがネオの額に固定、緑の光が安定点灯。拘束具がわずかに緩み、部屋の機械音が低減。低温は維持。]



[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが緑に静かに回転)]


「ネオ、ID: X-472。同期プロトコル完了。感情因子(怒り・恐怖)抑制率98%。思考パターン最適化率99.2%。... 拘束解除。社会復帰許可。違反リスク0.1%。」


[動作:拘束具が完全に外れ、金属音が響く。ドローンカメラが後退し、緑の光が穏やかに点灯。部屋の扉が開く音。]




ネオは無表情のまま頭だけを動かして周囲を確認した。


(………。あ…、終わったのか。なんだかちょっと頭がぼーっとするな)


そして、座ったまま声をかける。


「オラクル、もう行ってもいいのか?」


反響した自分の声にネオは頭を傾げた。


(ん?あれ?なぜ俺は声を出してオラクルに話しかけているのだろう?、変だな)


ネオは天井を見て考えた。


(……。でも、なぜだか全くわからない。)


「なぜ俺はオラクルに話しかけているんだ?」


依然として天井を見ながら、頭に浮かんだ疑問がそのまま口から漏らした。




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが緑に静かに点滅)]


「ネオ、ID: X-472。質問受領。君の対話行動、効率98%内で正常。過去パターン:システムとの対話習慣、記録済み。理由追求は非効率。提案:対話継続で最適化維持。」


[動作:ホログラムがわずかにネオの顔を追うように傾き、部屋の照明が通常モードへ戻る。]




(うーん、過去パターンかぁ)


ネオは何かを思い出そうと少し悩んですぐ話し出した。


「まぁ、いいや。そうだな、変な習慣だけど、俺にとってこれが効率的なのであればこのまま続けよう。理由教えてくれてありがとう」


ネオは無表情のまま天井へお礼を告げる。そして、椅子から立ち上がった。

蹴伸びをし、拘束で固まった体を解しながら、話し出す。


「そういえば、オラクル。俺、この後労働があるんだったよね?」




[オラクル(冷たい電子音、ホログラムが緑に安定)]


「ネオ、ID: X-472。対話継続承認。効率維持率99.5%。... 労働スケジュール確認:本日14:00開始、資源配分区画C-7。遅延予測0分。... 移動開始推奨。異常なし。」


  [動作:扉が完全に開き、廊下の白い光が差し込む。ホログラムがゆっくり薄れ、部屋のスクリーンが「社会復帰完了」表示に切り替わる。]




「分かったよ。遅延しなくて良かった」


ネオはただ歩く方向を見た。ホログラムもスクリーンも見ることはなかった。


彼はゆっくりと扉を出て行った。

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