えっちなのはいけないとおもいます!
本作品のテーマは『月』
……のつもりなのですが、ちょっと苦しいか。
それでもなんとか無理をして書き上げました。
とっぷりと日も暮れ夜の更けたころ、夜道をひとりの女性が行く。
その姿は艶やかで儚く、正に月下美人を思わせる。
「ならばそれに魅せられた俺は蝙蝠だな」
解っちゃいるけど目が離せない。なんとも哀しい男の性。
ろくに人目もない暗がりを、彼女は臆せず進んで行く。
幾時経ったであろうか、彼女はぴたりと足を止めた。そして背後を振り返る。
今頃危機感を感じたのか。
得も知れぬ心地の悪さに、つい木陰へと身を潜めてしまう。
一頻り周囲を窺った彼女は、再び歩みを進め出した。
気のせいだろうか、一瞬彼女が微笑んだかのように見えたのは。
向かう先は紅の差し始めた深き森。
初嫁の化粧を思わせる木々も夜の闇に溶け込めばただ薄気味悪い。
小川のせせらぎに沿って森の奥へ。
射し込む星月の明かりを頼りに小道を進む。
獣たちも通う道のはずだが彼女に迷いは見られない。
鳥獣の声ひとつ聞こえない静けさ。
ただ虫の音とせせらぎの音が響くばかり。
私の感覚がおかしいのだろうか。どうにも不気味さを感じてしまう。
彼女が足を止めたのは大きな湖の畔だった。どうやらここが目的地のようだ。
例によって周囲を窺う彼女。
そして──。
彼女が手が腰元へ伸びた。
そしてその手は胸元へ。
するりと衣がずれ落ちる。
薄明かりに浮かぶ彼女の影。
その姿は妖婉にして艶かしく、目にする者の心を掻き乱す。
彼女は拾い上げた衣を樹の枝へ預けると、こっちへと顔を向け髪を掻き上げた。
「まさか、気づいているってのか」
誘うように水辺へと向かう彼女の後ろ姿に怺えきれない劣情が込み上げてくる。
ならば俺も男だ、お望み通りにとことん貪り尽くしてやろうじゃないか。
滾る欲望に身を委せ、開き直った俺は彼女を求め湖へと駆け出した。
足音が土を巻き上げ、水面に波紋を描く。
沖へ沖へと遠ざかる彼女。
時折振り返ってみせるのは、やはり誘っているということなのだろう。
腰まで浸かった水を掻き分け、向きになり深みへと突き進む。
漸く迫ったその背中。
俺は肩へと手を伸ばした。
するりと彼女が身を躱す。
俺は勢いのまま前踣りに崩れ、水の中へと倒れ込んだ。
首元に絡みつく細い腕。
背中に感じる柔らかい感触。
彼女が妖しく微笑んだ。
俺の口から漏れる気泡。
それが最後の記憶だった。
これはとある国に伝わる、旧き水の妖精の伝承である。
本作品は水の妖精オンディーヌをモデルとしておりますが、既存の作品や実在の人物・団体等とは一切関係ありません。