第2章 種蒔け、恋
あの出来事から3日後、俺はベッドの上でうなだれていた。
「俺なんで連絡先聞かんかってんやろ。今年一のやらかしやわ。」
俺は緊張から連絡先を聞き忘れるという痛恨のミスをしていた。というより、男が男に連絡先を聞くのって気持ち悪いかな、なんて変に考えて聞けなかった。
「まあ仮にユンスくんが男も好きになれるとして、俺みたいなどこにでも居そうな奴じゃ望みないか」
仰向けになって天井を見上げ呟いた。白い天井にあの笑顔が浮かび上がってくる。
「いや、てかまだ好きとかちゃうしな。ちょっとイケメンやっただけや。すぐ忘れるやろ」
止まらない独り言を垂れ流しながら、俺は三限からの授業に向けていつもより早めに家を出た。大学に行けば、もしかして会えるんじゃ、なんて思ってたってのはここだけの話。
6月の大学は人が多すぎず、少なすぎずちょうどいい。大学に慣れてきた奴らがピ逃げだの、代理出席だので、大学に来なくなるから。去年の自分の周りにもそんな奴いたなぁなんて思いつつ、三限まで食堂で課題進めることにした。
「ふぅー、この課題終わらせたのはでかいぞ」
最後の一文を書き終え、パタンとパソコンを閉じ、グイッと背中を伸ばして両腕を天井に掲げた。身体の節々が小さく音を立てた。
(課題が終わったんはいいけど、やっぱりおらんかぁ)
そんなことを思っていた瞬間—
「お疲れ様」
振り返ると、彼が立っていた。今度は俺が座って、彼が立っているから余計に背が高く見えた。
「うぇ、、!ユンスくんや!」
彼の突然の登場に、緊張してついつい変な声が出た。
「どんな声や」
「やって急に来たからさ」
「まあ俺はずっと後ろの席から見ててんけどね」
「じゃあもっと早く話しかけて下さいよ」
「大毅めっちゃ集中してパソコンと睨めっこしてるように見えたからさ」
「まあ確かに。ご配慮ありがとうございます」
「いえいえ。隣、座っていい?」
「も、もちろんです!バッグ退けますね」
彼の予想外の申し出に、また心臓がうるさくなる。もう最近は彼のせいで心臓がずっと穏やかじゃない。
「ありがとう。渡したいものあってさ」
「渡したいもの?」
「そう。はいこれ、食べたことある?」
「え、ないです。お菓子ですか、?」
「そうそう。薬菓っていう韓国お菓子。実家から仕送り送られて来るんだけど、毎回量凄くてさ。大毅、課題頑張ってたみたいやし、ご褒美あげようと思って」
「ご褒美って、僕犬ちゃいますよ!」
「えー、じゃあいらないの?」
「いや!そこまで言ってないです!ありがたくいただきます」
「はい、どうぞ。課題お疲れ様」
(ん、、、は??)
彼はそう言うと俺の頭を撫でてきた。理解が追いつかなかった。目線を彼の顔に移すと彼は無邪気に笑っていた。どうやら彼にとってはただの冗談らしい。
「いや、だから犬ちゃいますって!!」
俺はそう言って彼の手を軽く振り払った。多分、動揺は上手く隠せてたはず、多分。
「ごめん、ごめん。じゃあ俺そろそろ行くな。」
彼はまた笑窪を浮かべて笑い、席を立ち上がった。