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双狐炎狼伝  作者: おかかのみやつこ
白骨の陣
9/35

覚醒

ちょっと諸事情により滋賀に行っていたら…帰ってきて風邪をひきました。今も若干引きずってます。でも話は描きたいので書きます。これからも頑張ります。

毎回見てくれている人も、そうでない人も、「誰かが見てくれた」って言うのだけで十分励みになります。

本当にありがとうございます。

「お前は、いつか俺を超えるだろう。」

「…は?」

焔雲家が居城とする焔城の一角の日本庭園。

中央には大きな(ひのき)(たも)の木が生え、その周りには白いアネモネが咲き誇る。

そんなところで、珍しく親子二人で腰かけていた時に、急にこんなことを言い出したものだから、うっかり素の言葉が出てしまった。

「…なんだ?その返事は。」

「あ、いや…何でも。でも、なんで。」

「見えるんだ。」

「?」

普段は隠れとはいえ大名ならざる態度を見せ、良くも悪くも部下から親しみの目を向けられている父。

どんな時でも基本的に前を向き、決して後ろを、過去を見ることはしない。何か大変なことがあってもあきらめることはなく、多くの部下から信頼を寄せられているのは、「選考についていけば何とかなる」という安心感があるからなのだろう。…まあ、そういう人このことを「楽観主義者」ともいうのだが。

そんな父は今、すごく遠くものを見るかのような目をしていた。

その目線の先にあるのは、「不滅」や「忍耐力」といった意味があるといわれる檜。

「「不滅」…戦のない今となっては、「繁栄」などと同じような意味になってしまった。」

「元は違う…てことか?」

「繁栄は、その一族…例えば俺たち焔雲家なら、焔雲家が亡んだ時点で終わりだ。その時点で、繁栄という言葉は意味をなさん。」

「…」

「だが「不滅」は違う。たとえわれらが息絶えようとも、その志が潰えなければ、それは「不滅」なのだ。」

「…今は?」

「どちらも。」

「…?」

「おそらくだが、これからもう一度、焔雲家が大きく繁栄することはないだろう。だが、その志が費えることもない。」

「先見の明、か。」

父が信頼されている、もう一つの理由。それは、「先見の明」といわれる、一種の未来視のようなものだ。焔雲家の中でも使えるものは一世代につきどれだけ量が多くても二人しかおらず、今も、父の世代は父一人。俺の世代も二人しか持つ者がいない、獣化能力の次に重視されているといってもいい能力である。

「お前は、いつか俺を超える。」

父は中央に一人佇んでいる気を見つめたまま、さっきと同じことをもう一度口にする。

「そりゃ、うれしいな。」

「そうか?」

俺が軽口をたたくと、父は少し怪訝な顔をする。

「で、焔雲の次ぐ意思ってなんだ?」

「そんなもの、一つしかないだろう?」

「勿論。」

こちらを見ずに問う父に、俺は短く答える。

「太平の世を守る。それを脅かすことがあろうものなら、親しいものであっても切り伏せる…だろ?」

俺が幼いころから言われてきたことを口にすると、父は無言で頷く。

「俺はそろそろ行くぜ。双子と鎖と、戦の準備しねぇとだし。」

「ああ。…輝」

「なんだ?まだ何か言い忘れたことでも?」

「…感情にとらわれるなよ。」

「?」

「獣化の能力は強力で汎用性も高いが、その分、使い手の感情によっても変化する能力だ。特に負の感情、怒りや憎悪といった感情にはひときわな。実際に、感情に飲み込まれて制御できなくなった愚かな兄弟(やつら)を、何度も見たことがある。」

「へぇ。…わかった。気を付ける。」






『ひか…る』

頭の中で声が響く。

「…」

『感情に飲み込まれるなと…言ったな』

目の前にあるのは、”あるモノ”の形をした炭の塊。

『まさか、あの会話で最後になろうとは。』

大丈夫だ、動揺するなと、自分の心に言い聞かせる。頭の中の声にだけ、集中する。

『なかなか、ああいう風に会話することも…なかったからな。』

目の前の炭化した”肉塊”から、目をそらそうとする。

『最後に伝えておく。』

でも、心が、本能が、それから目をそらすまいと動かない。

『これから、さらに厳しい旅路が、お前を待ち受けるだろう。』

震える手のひらから、刀が滑り落ちる。

『だとしても、お前なら乗り越えることができるはずだ。』

手が、自然と握りこぶしを作っていく。

『お前は、何かと一人で抱え込む癖があるな。』

膝から崩れ落ちそうになるのを、震える膝で必死にこらえる。

『安心しろ。俺がいなくなっても、お前には仲間がいる。あの双子(盗人ども)(召し使い)が。』

閉じかける瞼を、閉じるまいと前を向く。

『だから、安心しろ。まあ、俺がお前が安心する対象だったかと問われると、いささか疑問なところだがな。』

頭上で笑う屍龍をねめつける。

『輝。』

憎悪と、恐怖と、悲しみと、そしてあふれ出す脳内麻薬(アドレナリン)による興奮が、口角を三日月の様に吊り上げる。

『命令だ。振り返るな。前進しろ。』

甲冑を血にまみれて汚れた地面に脱ぎ捨て、地面に右手をつける。足に溜めを作る。

『感情を糧にしろ。後退は許さん。』

「だいぶ答えたみたいだな。大丈夫か?焔雲の跡取りよ。」

「だい…じょうぶぅ?」

「輝…。」

”敵”が、何か言ってる。”仲間”が、何か言ってる。…”他人”が、何か言ってる。

『他人の声に耳を貸すな。自分の声にだけ耳をすませろ。』

ひどい耳鳴りを無視して、深呼吸一つ。

『解放しろ。その感情を。』

軋む骨を、筋肉を、無視して体を引き絞る。

『やれ、輝。…大一番だ。』

もう一度、顔に狂気に満ちた笑みを作る。

心臓の鼓動を、血液を、体全体にいきわたらせる。

「やってやんよ。糞親父(父さん)。」

戦場(いくさば)の中央で、黒と紫の炎とともに、ありえないほどに大きな狼の咆哮が聞こえたのは、その直後の事だ。

今回は初めて、話の中に現代以外に過去が出てきます。割と頑張ったつもりなのですが、わかりづらかったらすみません。今回ちょっと全体的にダークですが、これも多分五話もしたら、いつもの感じに戻ると思うので、できればそれまで…申し訳ありませんが我慢してください。(この後の展開にだいぶかかわってくる話です。)

後、話の最後に出てきた”なにか”は、イラストは完成しているのですがネタバレになるので次の話で掲載しようと思います。

もしよければ、いったい輝の身に何が起こったのか想像してみて、次の話で答え合わせ…なんてことも、もしよければしてみてください。

また近々上げる予定なので、(火曜から木曜の間にはあげたい!)それまで楽しみしていてください。

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