無情
はい。もしかしたらとは思っていましたが、意外と余裕ができたので書くことにしました。
今回はほかの話に比べて、割と行数が少なかったかなと思いますが、都合上こうなってしまいましたので許してください。
「…焔雲家跡取り 焔雲 輝。」
呪骨 鮮血…倒すべき、呪骨家の当主。それをいざ、目にした途端、向こうから感じる圧倒的強者の念に、体全体が震え始める。
武者震いではない。ただただ感じるのは、恐怖。
そんな存在を前に、体無意識的に動く。右手は刀に手をかけ、左手は双子をこれ以上来るなと諭すように広がる。瞳孔が開き、呼吸が荒くなってくる。
「そうか、跡取りか…奴ではないのだな…。まあいい。貴様ら無能が何人死のうとも、われらの知るところではない。」
頭の芯が震えた。
相手がどんなつもりで言ったのかは定かではないが、俺にとっては聞くに堪えない妄言だった。
『こいつは、人の命を何とも思っていない。』
その方が、戦場では有利なのかもしれない。人の生死に一喜一憂していては、精神が持たない。
先の超広範囲の攻撃のせいで、陰と影も、かなり傷を負っている。下手をすれば、裂傷が入っているかもしれない。
「輝とか言ったか?残念だが貴様に用はない。」
そう言うや否や、鮮血は俺に向かって刀を上から振りかぶり、そしてたたきつけてきた。
よく見ればその剣は、人骨のようなおぞましい形をしている。
俺もそれに反応しとっさに刀を抜く。
幾度か、炎の刀と骨の刀がぶつかり合う。
鮮血が行き着く暇もなく技を何度も繰り出してくるため、狼になる暇もない。
双子も今は、騒ぎを聞きつけてやってきたほかの敵との戦闘で、とても助けに来れる状況ではない。
と、突然。背中にものすごい
「グ・・・ガハッ!」
無慈悲にも、その「足」は力任せに体を地にめり込ませる。体が押しつぶされそうだ。
「そのままつぶれれば、楽になるものを…。」
圧力に苦悶の表情を浮かべ、何が起きているの価格にしようと上を見て、はっと息をのむ。
鮮血は、その姿を変えていた。それは、見るのも恐ろしい、骨の龍。
並みの者なら、その姿を見ただけで失神してしまうほどの恐ろしさである。
実際のところ、周辺の兵士たちは敵味方関係なく動きを止め、放心しその姿を凝視している。
「哀れな姿だな…さっきの妄言、取り消してもらうぞ!鮮血‼」
俺は炎狼になると同時に、炎を最大限まとって鮮血の足の骨に突撃する。
が、骨の巨体は微動だにしない。
予想外の反応に俺の気が抜けた瞬間、見逃すはずもなく、骨の龍はその頭を俺の横腹に打ち付ける。
あまりの痛みと圧迫感に思わず血の混じった唾液を吐く。
息をすることさえもままならない。
だが、ここで止まっていては、先ほど俺たちのために散っていった仲間の命が報われないというものだろう。
この日のために、協力してくれた者たちもいる。
将軍様にも、決して負けるなと檄を送られている。
その思いを胸に、俺はもう一度、骨の龍の足首の方へと突進を仕掛け、そこの筋肉にあたる骨を力任せに噛み千切る。
そして獣の力と本能にすべてを任せ、目についたところの骨を次々とかみ砕いていく。
肉離れや骨折は覚悟の上。
屍と血に染まった地面をけり、できるだけ周りに危害が加わらないように注意しながら、攻撃の手を緩めるなと、自分自身に檄を飛ばし続ける。
炎を、砂煙を、硝煙をまといながら、骨の龍の顔を睨み続ける。
後ろは完全に見えていないが、どうだっていい。背中なんて、とっくの昔に、あの双子に任せきりだ。
ただそれを感じながら、俺は、こいつを倒すことだけに集中していればいい。
立て続けに放たれる攻撃はかなりの痛みを伴うはずが、その龍は一切の表情を変えず、お返しといわんばかりに続けざまに前脚の鈎爪を背に打ち付ける。最初の二回はよけたが、それからの三連撃はもろに食らってしまった。
「ガァッ!」
背骨がいたい。動くたびに軋むようだ。
と、鮮血は急に攻撃の手を緩めた。
「このままだと埒が明かないな。貴様に今一番堪えるのは…こいつらか?」
その骨の怪物は、唯、笑っていた。一切とらえることができなかった。数字にすれば、少数にも満たないほどの時間である。
気づけば、そいつは陰を踏みつけ、影を牙の羅列した顎をもってかみつぶそうとしていた。そして、その槍のようにとがったしっぽの先には…
「愚かにも子を守ろうと飛び込んで、結果このざま。見るにも耐えんのう。閃光よ。」
「貴、様…口を、つつしっごほっ…めぇ」
腹を貫かれている父が鮮血に悪態をつこうとするも、痛みに耐えきれず喀血する。
その龍の顔は、残忍な笑みを浮かべていた。
「そうだ。せっかくならサプライズをしてやらねばな。」
鮮血はそういうと、陰と影をとらえたまま、俺に向かって何かを放り投げてきた。
「何を…」
「お前が一番気に入りそうだったからな。受け取れ。大事なプレゼントだぞ。」
一瞬、世界から音が、消えた。