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双狐炎狼伝  作者: おかかのみやつこ
白骨の陣
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開戦前夜

というわけで、機会があったので続きを出しました。休日にも出す予定です。その際はまた、よろしくお願いします。

 焔雲家は、昔から松平―今の徳川家―に家臣として仕えてきた。だが、能力の存在自体、世間にそこまで浸透しているものではなかったので、かつてより「存在しない一族」として、水面下で仕えてきた。

今、焔雲家が居城としている「焔城」も、公には、徳川・松平の別荘用の城ということになっている。

さて、こんな説明をする必要があったのは、俺たちが今何をしているのか、ということを説明するのに、場所についての説明が必要だったからだ。

俺たちの居城である焔城は、雲取山のふもとにそびえたっている。そしてその近くは自然にあふれ、門を出て少し歩けば、すがすがしい森が広がっているのだ。

その城の近く、もっと言えば西の森から、金属のようなものがぶつかり合う音が聞こえる。

かと思えば、次は、獣の咆哮のような恐ろしい声が響き渡る。

その音や声に恐れおののき、鳥の群れが一斉に逃げるように飛び立つ。

そしてその光景を、近くを通る人々は「不思議だなぁ」といった顔で通り過ぎるのだ。

誰も気には留めない。なぜならその周辺は「誰も住んでいないはずの城」だからだ。


「またやっちまったな。」

飛んで行ってしまった鳥の群れの背を見上げながら、俺は一人そうつぶやく。

本来誰もいないはずの森での音。咆哮はまだいいとしても、さすがに金属音は違和感があるだろう。

これで誰か、それこそどこかしらの間者(忍び・草の別称)に気付かれでもしたら大騒ぎになるだろう。そう思いながらいつもいるのだが、結局のところ、いまだ改善はできていない。

というか、改善している暇がないのだ。この森を去るころには、そんな問題など忘れてしまっているだろう。結果論として、いつも忘れているし。

そんなことを考えていると、右の木陰から、頭にめがけて矢が数本飛んでくる。

無論、その矢を視認した次の小間には、すべて俺の背後の大木に突き刺さるのだが。

矢が飛んできた方を見れば、陰と影が二人がかりでこちらに向かってきている。

そう。俺と双子を含めた三人は、来る呪骨家との戦いに備えて、森の中で手合わせをしているのだった。普段はもう少し開けたところで手合わせしたり、戦略を考えるということになれるために将棋を指したりしているのだが、今日はもっと奥の、うっそうとした森の中での手合わせをしている。

これは俺自身にとってはあまり利点はないのだが、忍びである二人にとって、森などの障害物が多い空間でどれだけ自由に動くことができるのかというのは、できるのとできないのとでは天地ほどの差がある能力なのだ。

そして、焔雲家の中で二人をまとめて相手するほどの力量と余裕がある人物が俺かしかおらず、さらに普段から手合わせをしているという経緯があり、森の中で二人と手合わせをすることになったのである。

二人の動きは息がぴったりで、まるで一人が二人に分身して動いているかのようだ。こういうのを一糸乱れぬ動きというのだろう。念話か何かで会話しているのいかと錯覚させるほどだ。

つまるところ、こちらとしては至極戦いにくい、厄介な相手なのである。

俺はまだ来るとわかっているからいいが、これを不意打ちで決められたら、逃れるのは容易ではないだろう。

俺が持っているのは、一つの太刀。

これは、鎖から借りているもので、俺専用の太刀は、なじみの鍛冶屋に頼んでいるところだ。

二人はそれぞれの能力をまとわせた小太刀を逆手(刀身を親指側ではなく小指側に持つこと)で両手に持っている。素早くかつまとまった動きをする上に、相手が逆手なので普通の刀同士の手合わせとはまた少し違った難しさが存在する。

二人は交互に攻撃を仕掛け、そして俺はそれを受け止め続ける。

常に人間の形というわけではなく、俺たちは互いに獣になったり、半分人間半分獣という姿になったりしている。獣は人の時と違って疲労は少ないが攻撃力は劣り、能力を使うとなると疲労は一気に高まる。一長一短の能力である。

「輝、やっぱり強い。一切傷を入れれない。」

「まず近づかせてもらえてないからねぇ。」

「あの…その目怖いんですけど。殺されそうで。」

いくら二人が相手であっても、欠片ほどの情けもかけていない。

二人が間髪入れずに攻撃を畳みかけてくるために、獣になるタイミングがないから体力的にもしんどい。

おそらく、あと十分でもこの動きを続けてしまえば、先にこちらの体力が尽きるだろう。

そしてそれは二人も同じことのようで、できるだけ早く決めきるためか、まったく攻撃の手を緩めない。

「これじゃラチが明かないな。すまないがちょっと乱暴させてもらって!」

俺は一歩前へ足を踏み込み、足元から炎の輪を出して二人を薙ぎ払う。

ちなみに森林火災が起きないぐらいの火加減にしているので、そこはご安心いただきたい。

「うっ…。」

「えっ⁉」

もとより俺の獣は焔雲家の中でも最強クラスと言われているため、炎の威力も生半可なものではない。

この森の中央で本気を出せば、山全体が大きな焚火と化すほどの威力だ。

二人がひるんだその隙に、俺は炎狼に変身し天を仰ぐ。どういう理屈かは知らないが、獣状態のときは、咆哮すると直後の攻撃の威力が大幅に増す。俺で言うというと、火力が大幅に上がるのだ。

そしてその勢いそのまま体に炎を纏い、足を踏みしめた後、二人に真正面から突っ込む。

「ちょっ、輝止まって!降参‼」

「ほんとやめて!それ当たったら普通に死ぬからぁ‼」

あまりにも必死に二人が叫ぶので、俺は二人の眼前で足から炎を逆噴射し、急ブレーキをかける。

獣化(けものか)を解くと、二人はすごくホッとした顔をしていた。

手合わせをしていて分かったことだが、どうやら陰の方も、毒を纏うからか疲労に加え眠気がすごいらしい。

おかげで、手合わせをした後は、いつも二人ともぐったりしている。疲れと、あとは能力の代償という名の体調不良だろう。

加えて、このごろは二人も戦い方が洗練されてきて、俺の方も疲労がたまるようになってきてしまった。

そしてそんな疲労をいやすために、手合わせの後は、俺が狼化して狐になった二人を取り囲むように、双子の冷え切った体を温めつつ昼寝するのが、俺たちの日課である。


 今日も例にもれずそうして三人で寝ていると、急に影が俺の背中をたたいて起こしてきた。

「ん?影、どうし…」

「しっ‼…静かにして。」

影が口に人差し指を立てたまま森の外を指差すので、その指に沿うように見てみると、濃く暗い紫色の甲冑をまとった侍らしきものたちが、焔城下町を歩いていた。

その重厚感のある出で立ちで歩く姿は、まさしく鎧をまとった鬼が歩いているように見えた。

そして、その中の一人が肩に担いだ旗には、「呪」と大きく書かれている。

いつの間にか起きていた陰と三人でその集団を見ていると、これまたいつの間にか、後ろに鎖が静かにたっていた。いつも思っていることだが、なんというか、冬の桜の木のようなひとである。

だが、いつも冷静沈着で鉄仮面をかぶっているのかと思うほど無表情な鎖のその顔は、いつになく張りつめていた。

「鎖。お前がその顔するってことは、あいつらは…」

「はい。呪骨家の者にございます。どうやら、我々が呪骨家討伐の戦準備をしていることを、嗅ぎ付けたらしく…」

「なぜだ。戦をすることを知っているのは、焔雲家と将軍様だけのはず。周辺の家にすら言ってないんだぞ。」

「はい。おそらくですが、内通者がいるものかと。」

俺が振り返って見ると、二人とも、とんでもないというように首を振っている。

まあ、今はこいつらも、裏切る必要性はないだろう。

…ん?てことは俺がこいつらの気に入らないことしたら俺殺されるの?内通してなくても?

いや、下手をすれば内通してなくても殺される気が…

そう思いながら陰を見ると、いつものにっこりとした笑みで微笑んでくる。

その微笑みが、果たしてどういう意味を含んでいるのかは定かではない。

ただ、今のこの状況だと、「いつでも殺せる」という意味にとらえてしまいそうになるので、なるべく見ないことにしようと思う。

俺は後ろのニッコニコの陰をそのままスルーし、鎖に質問をする。

「で、鎖。何であいつら城下町にいるんだ?」

「正確な目的は定かではありませんが、われらが米などの兵糧(ひょうろう)を買う前に買い占めようとしているのではないか、と、閃光様は申しておりました。兵糧がなければ、その分我々は長期戦や籠城戦ができなくなるので。」

「はぁ、なるほどな。でももう確か、必要な分は買ってあるんだろ?」

俺がそういうと、鎖が答えるより先に影が口を開く。

「うん、この前買いに行かされた。」

「肩が外れそうなぐらい重かったからねぇ。この借りはいつか返してよぉ。」

そういやそんなこともあったなと、一か月半ぐらい前、に二人が死にそうな顔をして帰ってきた日を思い出す。あの日は二人とも部屋に入るなりすぐに寝てしまったから、俺はいつかのように床で寝た覚えが…。あの日は冬ですごく寒かったので、次の日に危うく体調を崩しかけた。

「じゃあ、あいつらはほっといていいのか?」

「いえ、そういうわけでは。城下に住んでいる者たちには、少なからずとも被害が出るでしょう。今は自警団が何とかしていますが、相手が相手なのでそれも時間の問題。」

「相手は腐っても武士だからな。」

「ちなみに、我々は明日(あす)出発予定でした」

「じゃあいつら買い占めに来るの遅れてね⁉影。陰と一緒にあいつら捕まえて来い。敵の数は少ない方がいい。今減らせるなら好都合だ。」

「わかった。」

「俺は少し寄るところがある。鎖は城に帰ってていいぞ、心配かけた。」

俺はそう声をかけると、俺は城下町の方へと降りて行った。


俺が向かったのはなじみの鍛冶屋だ。昔からよくしゃべる仲で、ものの見方や金銭価値の見方を教えてくれたのは、基本この鍛冶屋のおじさんだ。

武士、町人関係なく話せるものはなかなかいないので、貴重な街中の喋り相手である。

「よ、オヒサ。」

「よぉ輝。頼まれてたのデキたぜ。」

そういうと、鍛冶屋のおじさんは、奥から一つの太刀を引っ張り出してきた。

見た目は普通の刀で、長さは俺より少し短いぐらい。柄には、狼があしらわれている。

「結構頑張ったぜ。刀身は、大体二日ぐらい徹夜だ。」

「ありがとう。自分の刀を持つのは初めてだからな。頼んだのはやってくれたか?」

「おうよ。何回も耐熱処理したから、少なくとも三千度は耐えれるぜ。」

鉄の溶ける温度は約二千度といわれているので、それをさらに千度を超える加工ができるのは、俺の知る中ではこのおじさんだけだろう。

「ありがとう。また頼むぜ、おっちゃん。」

俺はそういうと、急いで城に戻った。部屋に戻ると甲冑が用意してある。

おそらく鎖が用意したものだろう。

ふと見ると、いつのまに帰ったのか、双子が俺の寝具の上で寝ている―俺の寝具の上で―である。

しかし、無理やり起こすわけにもいかないので、俺はそのまま二人に布団をかけ、自分の寝具を用意した。

が、すぐに寝れるわけもなく廊下を歩いていると、ちょうどいいところに鎖がやってきた。

「鎖。呪骨のやつらはどうなった。」

「結局のところ、あの双子が一人残らずとらえました。」

「そうか。すごいなあの二人は。」

「はい。ですが相手もかなり抵抗しまして。おそらくそれで疲れたのでしょう。」

「まあ相手も武士だからなぁ。そうか…ありがとう。」

俺がそういうと、鎖は奥へ歩いていった。

その夜、俺は部屋の扉近くに布団を敷いて寝ていた。懐かしのあの激薄布団である。

すると、モゾモゾと影が中に入ってきた。

その細い腕に触れると、その体が異様に冷えている。

一番寒いときは過ぎたとはいえ、まだ二月。雪は病んでいるが、それでもまだ外気は寒い。

考えてみれば、こいつらは外から帰ってきてそのまま寝たのだから、寝巻きも着てなければ暖房器具もない。

そんな中で長時間寝ていたのだから、そりゃあ身体が冷えるわけ…と思ったが、今は結構暖房が利いている。

しかし、原因が何かわからないからには仕方がない。

俺は炎を最大限抑えつつ狼の姿になると、影のうなじあたりに嚙みついた。

俺は人の体に噛みつくことで、相手がどんな状態なのかが分かる。

こちらとしては、羞恥以外の何でもないのだが。

どうやら今、影は能力を酷使したことと疲労とで一時的に冷えているらしい。このままの状態が続けば死ぬ可能性もある。せめてもう少し調整してほしいところである。

鎖は報告してくれたのは良かったが、そこら辺もちゃんと見ててほしかった。

まあ今更言ったとこでどうしようもないし、流石に鎖でもここまでだとは夢にも思わないだろう。

よく見れば、陰の方も寒そうにしている。

結局のところ、俺はその日、一つの布団の中で二人を抱えて寝る羽目になった。

俺は別にいいが、朝起きた時に二人にシバカレないか、心配なところである。

前回コメントの事を話しましたが、言い方に誤りがあったので訂正します。詳しくは前回のを見てください。内容は、「小説家になろう」の感想機能か、「みてみん」のメッセージ機能をご利用ください、

戸惑った方は、すいませんでした。

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