たすけて
すいません!投稿遅くなりました。あと、来週は投稿いったんとめさせてください!ちょっといろいろ忙しくてですね……。
ま、まあとりあえずということで、久しぶりの更新、楽しんでいただけると幸いです。
「ここだ。」
「ほんと、人使いの荒い人が多いよねぇ、私たちの村。わざわざ捨てた子供すら拾って道具にしようとするんだから、大人げないよねぇ。」
「黙って歩け。」
「煩い。そばで怒鳴るな。」
暗い、岩肌の露出した通路の中、私たちは黒い服を着た男に連れられ歩いていた。いつもの服ではなく、珍しい、黒色の巫女服。
時は、輝の下からさらわれて、約一日たったころまでさかのぼる。
私たちは、洞窟の中のようなところに建てられた、座敷牢の中にいた。
「さむぅ~。さすがにもう少しあったかくてもよくない?」
「まあ、捕虜とかでもないし、こんなものじゃない?殺されていないだけまし。」
「それにしても、まさか再開することになるとはねぇ……正直、会うつもりはなかったんだけど。」
「聞こえているぞ。はぐれ者ども。」
「あれぇ?ごめんごめん。」
「はぐれさせたのはあなたたちの方だけど?」
「ついてこれない奴はいらん。」
「予定も聞かされてなかったけどねぇ。」
「で、何の用?何もないなら帰ってほしいんだけど。」
私がそういうと、私たちに声をかけていた男は、無言で座敷牢の戸を開ける。
「ついてこい。」
言われた通りついていくと、そこは、座敷牢と同じく岩肌に四方を囲われた、広間とも、神殿とも取れるような場所だった。周りには男と同じように、黒い服で顔まで隠したものたちがずらりと並び、私たちの前に道を開けている。そしてその奥には、同じような服を着た、でも顔は隠していない、二つの人影があった。
「そのまますすめ。ここの長だ。」
「あなたはついてこないのぉ?私、二人だけだと寂しいからさぁ…」
「行けと言っているんだ。」
「はいはい、わかりましたぁ………影、大丈夫?」
「別に。」
「そ。なら行こうか。」
そこまで変な顔をしていたのだろうか。心配しなくとも、どこの誰かもわからない相手に、緊張することもないのだが。
少し進むと、人影が鮮明になってきた。その奥には、何か、おぞましい異形が描かれた掛け軸のようなものが飾ってある。そしてその人影の顔が、はっきりと見えるようになると……
「ああ、なるほど。」
「どおりで、私たちが殺されなかったわけだねぇ…お父さん、お母さん?」
「ここまで連れてきて、何の用?」
「親にそのような口を利くのか?」
「そのような子に育てたつもりはありませんよ?」
「親に敬語を使うって教えられたつもりもないけどぉ?」
「随分と雑な口を利くようになったのね。」
「お母さんたちも、ずいぶんと雑な手口を使うようになったねぇ。私感心したよぉ。まさか、私たちの居場所まで突き止めるなんてねぇ。」
「逆に尊敬まである。」
「で、まあいいけど。何のためにここに連れてきたのぉ?仲間にもう一度入れっていうなら、入るつもりはないんだけどぉ。」
「お前たちには、ある役目を負ってもらいたい。」
「随分と急だねぇ。で、何?面倒くさいのは嫌だよぉ?」
こういう腹の探り合いは、私より陰のほうがうまい。こんな状況だと、私が話せば、逆に邪魔をしてしまうだけだ。
「お前たちの持つような、人から獣になる能力。その中に、特別な形のものがあるのは知っているか?」
「知らない、といえば?」
「知っていても知っていなくとも、関係のないことだ。」
「なら、知っているといっておこうかなぁ?」
「そうか。その内、八聖獣が一つを我々は所持している。そしてそれを取るには、お前たちの協力が必要だ。」
「そのためにここまでわざわざ連れてきたわけね。めんどくさいことするねぇ。」
「で、私たちは何をすればいいの?」
「我々の所持している能力の名前は「贄喰」。それを取得するには、ある儀式を行う必要がある。」
「………………猶予は?」
その話を聞くと、珍しく陰が声を鋭くする。相手の腹、その奥底まで見通そうとするかのような、鋭い声と目だ。
「四日後だ。無論、反対する理由はないだろう?」
「……わかったわかった。言う通りにさせていただきます。」
「陰……」
「大丈夫。それで?私たちは、それまでどこで過ごせばいいの?」
「誰か、部屋に案内しろ。お前たちはそこで過ごせ。」
そのあと、案内された部屋は、何とも言い難かった。よくもわるくも、自然そのまま、といった感じだ。
寝具などの用意はされているが、壁と床、天井は、どこへ行けども岩だった。
そして時間帯は現在に戻る。
連れられたまま歩いていくと、そこは神殿のような場所だった。
黒と白の鳥居が交互に五つずつ立ち、紫色の炎をともした灯篭が、その横に連なっている。
「ここだ。」
「へぇ、なんか辛気臭いところだねぇ。」
「陰、変なこと言わない。」
「影は心配性だねぇ。」
親や見も知らぬ人たちが見守る中、私たちは石で作られた段のようなところに正座し、二人同時に手を合わせる。空はもうすっかり真っ暗で、新月だからか、いつもよりもより暗く感じる。単純に、町明かりがないからかもしれないが。
五分ぐらいそうしていると、ふいに、頭の中に不気味な音が響き始めた。寺の鐘の鳴る音と、太古の振動とが合わさったような、不気味な音。聞いていると頭が痛くなってくる。吐き気までもよおしそうだ。
そっと隣を見てみれば、陰のほうも、気持ち悪そうに顔をしかめている。
そうしてそのまま、さらに二分ほど経過したころ。ふいに、周りの空気が変わり始めた。だんだんと、泥水の中にいるように重くなっていく。
息が苦しい。
体が重い。
何かにねめつけられるような感覚に襲われる。
何かおかしい、と思い、静かに上を向いてみれば………そこには、掛け軸に書いてあったものよりも、さらに禍々しくおおぞましい形をした異形の姿があった。
なんといえばいいだろう。
なんと説明すればいいだろう。
いや、説明などできない。
それほどの恐怖が、ただただ、私たちを値踏みするようににらみつけ、舌なめずりをしている。
怖い
恐い
これ以上の感想が、出てこない。
これが、「贄喰」。
贄喰はしばらく、私たち二人を見比べた後、ゆっくりと、私たちにその棒のように細く長い腕を、私たち二人の頭に伸ばした。
そこに生物らしい温かさはない。ただただ、冷たい。
陰も、何も思っていなさそうで、それでいて、とても内心おびえているのが、ひしひしと伝わって。
そして、それを見て、目の前の怪物が笑っているのも又、ひしひしと感じられてしまって。
気を抜けば、涙が出てしまいそうで。
体が、震えてしまいそうで。
声が、嗚咽が、漏れてしまいそうで。
大丈夫、大丈夫、と、心の中で唱えても、恐怖が消えることはなくて。
助けを求めることもできなくて。
今何ができるか、とか、今何をすべきか、とか。
そういうのを考えることすらできなくて。
ただただ、目の前に突き付けられる「恐怖」と、待ち受ける「死」。
それを前に、できることは何もなくて……
もう、何もできなくて……………
「前に光が見えずとも!」
「前に光がなけれども!」
私たちの頭に贄喰の手がかかり、私と陰がどちらもあきらめかけた時。突然後ろから、大きな音とともに強い風が吹き、その場にいた全員の動きが止まる。私たちが動けずにいると、さっき聞こえた声が話を続ける。
「我らが目指すは光のみ!」
「我らがすすむは光のみ!」
「貴様ら……儀式の途中に。何者だ?」
「我らが乗るは焔雲!」
「我が統べるは焔雲!」
「焔雲家家臣団 八聖獣筆頭!斉天大聖孫悟空!!」
「焔雲家三十七代目当主! 焔雲 輝!!」
「「双子を取り返しに、ただいま参上!!!!!!」」
「決着つけようぜ!贄喰!!」
「待たせたな。助けに来たぜ、二人とも!!」
陰と私、その目じりに流れたのは、きっと、ただの汗だろう……