厄介者
ごめんなさい!今回の投稿めっちゃ遅くなりました。
あの一件があってから、丸二日。
俺たちは今、二体目の四神獣、朱雀の眠る祠の前に来ていた。
「青龍の祠は倒壊したって話だったけど……まだ建ってたら、きっとこんな感じだったんだろうな。」
俺たち四人の前にある祠は、絢爛な赤い宝石で彩られている。その色は、まさしく紅玉のごとき輝きだ。
「宝石は残していったんだな、あいつら。余計なことをする。」
「独り言中悪いが、ンなこと言ってる場合やないと思うぞ。」
「だな。青龍の時は、この先は洞窟みたいになっているはずなんだが……」
俺は二人の残して行った宝石を左手に持ち、その祠に踏み出そうとすると……突如、空から朱い影が飛び込んでくる。
「…⁉」
「ああ…慶斗、ほかの者も、近付くでないぞ。」
「玄武さん?」
「…お出ましだよ。何やら不満があるみたいだがな。」
「………誰だ?」
「誰だ、は失礼であろう。主は妾を探しに来たのじゃろう?」
「…てことは」
「然り。妾こそが四神獣が一人、朱雀じゃ。」
俺の目の前に現れたのは、朱色の唐風の衣をまとった女性。容姿年齢は、青龍と同じか、それより少し若い女性。腰に差す刀に加え、背には大きな長刀を背負っている。玄武さんも警戒していないあたり、本物で間違いないらしい。でも、なんで自ら出てきたのだろう……
「理由などわかるじゃろう。妾が証を与えたのは其方ではない。」
「ああ……でも…」
「とらわれているのじゃろう?それまでは手伝ってやろう。その代り、解放した後は、そやつらに試練を受けさせること、これが条件じゃ。」
「………わかった。助かる。」
こうして、朱雀の説得はスムーズにいたのだが………
「はぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!??????」
「………そこまで言われましても…」
「いや、別に青龍の意思に反するつもりはないのじゃ。奴の指示が外れたことはないからのう。じゃが………本当にそいつを味方につける気か?」
朱雀と玄武を含めた六人で話していたのは、次に味方にする八聖獣のこと。
青龍の祠から出るときに託された「三つの頼み」。その二つ目は、八聖獣のうち、最も厄介なものを味方につけろという、頼みというより忠告だった。
その祠に入るために青龍から受け取ったのは、琥珀色に輝く宝石だ。どうやら八聖獣の証も四神獣が持っており、その所有者に的確だと思う八聖獣を、四神獣が推薦していく形らしい。問題は、その中身だ。
青龍の忘れ形見である、琥珀色の証。それは、八聖獣の長である「応龍」をもしのぐといわれる力を持つバランスブレーカーであるがゆえに、一度も推薦されたことのない「もう一人の神獣」………
「………斉天大聖…」
「孫悟空、か。青龍も、最後に無茶を言うようになったの。これなら、向こうにいる白虎を取り返せと言われる方が成功しそうなものを…」
「そこまでやばいやつなんか?」
「聞いている側としては、そこまでではなさそうですが…」
「孫悟空って、あの西遊記の?」
「そうじゃ。自由奔放、変幻自在。縦横無尽の奇怪な猿王。それが、青龍が最後に残していった証の持ち主………斉天大聖孫悟空じゃ。正直、妾は到底薦めることなどできぬがな。」
「おもしろそうな話してんじゃねえか。俺も混ぜてくれよ。」
「「「「「「!!」」」」」」
俺たちが話している中、突如俺の後ろに現れた”それ”に、玄武と朱雀は即座に臨戦態勢にはいる…いや、玄武は亀のままだから、特に変わってはないのか?
「輝といったか?動くでないぞ。」
「別に動いてもよいが、あまり刺激はするな。」
あまりの二人の放つ殺気にたじろぎながら、俺はそろりそろりと自分の背後を見る。
最初に目に入るのは、黒と茶が混じったような色合いの毛。その次に見えるのは、それが身にまとう金色の鎧。どちらかといえば、西洋のものに近いが。その後ろには鮮やかな、だが色あせた羽織が見え、背には棍棒のようなものを背負っている。そしてその顔は……人というより、猿に近いものだった。その男はその目にかける黒眼鏡を外すと、殺気を放つ四神獣の二人に一切臆せず、話の続きをし始めた。
「なんだ、もう話は終わりか?」
「いつでもお前は、常識のない…」
「That's terrible。自由だ、と言ってくれ。」
「自由すぎるといっているのじゃ!」
「誉め言葉として受け取っておくぜ?」
「バカは貶しもわからんのか⁉」
歳は顔のしわ的に三十~四十といったところのはずなのだが、その声やしゃべり方的には、二十代ぐらいのようにも思える。この不思議なしゃべり方をする男が、噂の……
「ん?宝石持ってんじゃねえか。」
突如現れた猿は二体の神獣の間を颯爽とすり抜け、俺が左手に握っていた宝石をパッと持ち去る。
「あっ……!」
「Sorry。自己紹介が遅れたな。俺の名は斉天大聖孫悟空。今紹介いただいたとおり、世界で一番自由な男だ。」
「自由すぎるといっておるじゃろ!!」
「そうカリカリすんなって。怒ってても、何一ついいことはないぜ?」
「貴様がおっても、何一ついいことなぞないわ!!」
「それは心外だぜ。なぁ、玄武さん?」
「まぁ………腕っぷしなら。」
「玄武さん⁉」
「あの………」
「おっとすまない。試練だったな。玄武さん、朱雀。こいつ借りてくぜ?」
「呼び捨てにするでない!!」
「危害は加えるなよ?」
「I know。そんなことはしないさ。さて、行くぞ。」
「え、あ、ちょと~!」
こうして俺は、孫悟空に後ろ襟首をつかまれ、ほかの仲間を残し、一人どこかへ連れていかれるのだった。