……迷/一区切り
ごめん!昨日出せなかった。双狐炎狼伝の時に基本的に休んでしまっているけど、まったくの偶然です。本当にすいません。
風が祠の前の森を駆け抜け、葉を舞わせる。その光景をぼ~っと眺めていると、なぜか、ものすごく落ち着いた心地になれる。青龍がこの祠を去った後でも、ここは変わらず、時を超え続けるのだろうか……
「…って!違う違う!俺はあいつらを探さなきゃ。ここでのんびりしてる場合じゃないわけ。」
が、ここは青龍がいた(いや、実はまだいるのかもしれない。この指輪の中とか……)祠のすぐ前。ここまでは、俺たちが泊めてもらっていたおばあさんに案内してもらった。何が言いたいか?そう。俺は、ここまでくる道を知らない。それはつまり……………
「…迷子だな、こりゃ。」
焔雲 輝、齢十九にして迷子である。
「この年の迷子はさすがに堪えるな。ま、道もわからないし、どうしたものかなぁ」
むろん、本来ならここで待っていればいいだけの話なのだが、今回の面々が面々だ。きっと俺を捜そうと言うのはおばあさんと鎖、それに影ぐらいだろう。人数差と押切の強さゆえ、多数決になればほぼ確実に、助けに行かないほうに決定するはずだ。
そんなことを近くの木に腰かけて考えていると、頭の上を、橙色と翡翠色の羽をはやしたハヤブサがよぎった。
ここは富山藩の樹海。いくらハヤブサが九州以北に生息しているとはいえ、こんなところに生息しているというのは聞いたことがない。それに、橙と翡翠の羽など、普通のハヤブサではありえない。なら…
「なるほど、そういうことか。お~い、カゲロウ~!」
俺がそう声を張り上げると、頭上を旋回していたハヤブサはハヤテのごとく急降下。そのまま攻撃するのかと思われたが、それはそのまま、俺が洞窟内で見つけた篭手がはまっている右手に着地した。
「お前、ここまでよくついてこれたな。待っててくれてもよかったのによ。」
俺がそういうと、ハヤブサはプイっとそっぽを向き、その代わり、少しその翼を広げてため息をしてみせる。「お前が何をしでかすかわからないからついてきてやった」ということらしい。
このハヤブサの名前はカゲロウ。俺が八歳の時に一目ぼれして、父にこれまで見せたことのない土下座をして買ってもらった。その付き合いは十一年に届こうとしており、鎖の次になじみの深い仲間である。今は俺の遣い鳥として、常に俺の周りのどこかで見守ってくれている。まあ、今回の旅にまでついてくるのは、完全な想定外だったが。
「なあカゲロウ。少し頼みがあるんだが……」
俺がそういえば、カゲロウは「どうせ面倒ごとだろ?言うだけ言ってみろ」というように肩?をすくめ、そのあとに俺のほうに視線を向ける。
「えっと……あいつらって言ってもわかんねえよな…鎖がどこにいるか知ってるか?」
俺の次にカゲロウがなついているのは鎖。まあ、俺が忙しいときには鎖に世話を任せてしまっているから、当然といえば当然なのだが。
カゲロウは俺の質問を聞くと、無言で飛び上がって俺の顔を、そのくちばしでこつんと叩く。「ついてこい」と言っているのだろう。なぜ俺の周りは、こう、上から目線なやつが多いのだろうか。
「で、早く案内してくれるのはいいけど、もう少し待ってもらえるかな?」
………なぜ俺の周りはこう、俺を困らせるのが好きなやつが多いのだろうか…その性格も鎖譲りだろうか?鎖の近くにいる桜譲りなような気もする。
カゲロウについて歩いて十分程度。ようやく奥のほうに、小さな家が見えてきた。こんなこと、おばあさんの目の前で決して言えることではないが、やはり、随分と小さい家だなぁと思う。
「ありがとうな、カゲロウ。助かった。」
「お、やっと戻ってきたな輝。」
そう、カゲロウに声をかけた俺に声をかけるのは慶斗。慶斗は俺が帰ってきたことに安どした後、少し違和感を覚えたような顔をする。理由を聞いてみると…
「いやいや、お前、最初そんな甲冑持っとったか?」
今、俺の服装はとてつもなく大渋滞している。もともと来ていた服の上に、青龍にもらった甲冑。そのうえ道中に見つけた篭手を右手にはめ、左には指輪をはめ、しまいには、胸につけている首飾りが二つに増えている。
「ああ、と…いろいろもらったんだ。」
「ほ~ん。で、ここにそのくれたやつがおらんってことは、そういうことってことで大丈夫やな?」
「ああ。寿命らしい。少し力を分けてくれたけどな。いつか、この力が役に立つって。」
「そうか…玄武さんにも、寿命はあるんか?」
「お前、玄武にはさん付けするのに、青龍にはしないんだな…」
「寿命という概念自体はあるが、まだ多少遠い。後百年ちょっとは、長生きするつもりだ。」
「だとさ、慶斗。」
「う~ん。少なくとも、俺が生きとる間に死ぬことはなさそうやな。」
俺と慶斗がそんなことを話していると、奥から鎖とさくら、陰と影もやってきた。
その陰と影は、俺の左手を見て、何やら顔をしかめているが……
「……あ、」
「…ああ、」
「なるほど。」
「「……………」」
「違う違う!これはそういうのじゃなくて!!」
そういって、次は俺と双子の追いかけっこが始まる。指輪に関して勘違いをしている二人と、勘違いを訂正し、そのことについて謝りながら追いかけるもの一名。
「そこには、人の家の庭で走り回る三人のバカタレが……」
「誰がバカタレだ!」
「私たちが追いかけられてるのは輝のせいだし。紛らわしいことするからぁ!」
「そうそう。」
「お前らな……てか、俺が出てくるまでどれぐらいかかってたんだ?」
「ざっと、二日といったところです。」
「そっか、案外時間かかったな。」
俺たちがしゃべっている(騒いでいるといったほうが適切…かもしれない)のを聞きつけて、おばあさんもこちらにやってきた。
「あ、そうだおばあさん、一個言わないといけないことがあって……」
「青龍神様のことですね。」
青龍に頼まれたことの一つ目。それは、おばあさんへの感謝の言葉だった。
「今までありがとうってさ。」
「わかりました。お伝えいただき、感謝します。」
「おばあさんはこれからどうするんや?」
慶斗がおばあさんに聞く。青龍にはもともと「焔雲に連れて帰ってやってくれ」と言伝をいただいているのだが、ここは、本人に意思を尊重すべきだろう。
「私の寿命も残りわずか。それまでは、青龍神様ゆかりのこの地で過ごさせていただきます。」
「わかった。」
「今日は夕方。変えるのは明日にして、今夜はお泊りくださいませ。」
「毎日悪いな。」
「いえいえ。」
「……………」
「どうした?影。」
「いや、大したことじゃ…」
「言ってみろ、それでも、何かの解決にはなるかもだろ?」
「…この鎧、どこかで見たことあるような……」
「あぁ~、それ私も思った。どこでかはわからないんだけどねぇ。なぁんとなくどことなぁく、見覚えがあるような気がしなくもない気が…」
「影のほうはいいとして、だ。陰、お前もう少しはっきりしてくれないか?嘘かほんとかわからなくなる。」
「そうするためにこう言ってるんだけどぉ?」
「おまえな!」
「もしこの鎧を見たことがあるとしても、それはきっと、わたしたちがまだ親と一緒にいた時の話だろうから、ざっと十年ぐらいまえの話だろうけど。」
「ところで、お前ら今何歳だっけ?」
「「十七」」
俺が利くと、二人は無意識的に声を合わせてそういう。改めて今の年齢を聞くと、あまりにも二人が不憫に思える。二人は、大体五~六歳で親を亡くしているのだ。実際、日本国内でも国外でも、そういう子は多いと聞くが、何とかする方法はないのだろうか……
「気にしなくていいよぉ、私たちのことは。」
「……そんなに考えてること、わかるものか?」
「わかるよぉ。すぐ顔に出るし。」
「今、すごい寂しそうな顔してた。」
「そんな顔、輝がする顔じゃないでしょぉ?」
「………だな。」
「お~い!はよ来いよ輝!あんま待たせんな!!」
「了解了解。……じゃ、行こうか…て、」
俺がそう声をかけると、二人が静かに左右の手をつないでくる。
さっきはああいっていたが、実際、心にくるものはあるのだろう。
「……きょうはゆっくり眠れそうだな。」
というわけでそうでしたか?今回はいろいろあっていだいぶボリューミーになってしましました。ちょっと読みづかれた方もいるのかな…
今回出てきたハヤブサ、カゲロウの画像もどこかで上げようと思うので、楽しみにしておいてください!