いらぬ客人 1
読む前に。ええっと…今回の話、ぶっちゃけ言って長いです。いつもより。なんで、どこかできって、分割して読んでもらっても大丈夫です。
突然の声に後ろを振り返れば、俺と影の間に、いつの何か現れた桜が、胡坐をかき、何が楽しいのか、体を左右に振っていた。
「………一応、大名の家の娘さんですよね?」
「姉に他人名義で話しかけないでもらって?」
「…で、なんで来たんだ?」
「無視しないでよ。あと、ここに来た理由なんて、一目見ればわかるでしょ?」
「一応の確認だよ。お前人脈広いし、普段何してるかわからねえから、ここで突き落とされる線もあるかなって。」
「ないない。で、なんでこの人たち集まってるの?お祭りでもやるの?」
「多分だけどその祭り、屋台料理は人肉ばっかりだと思うぞ?」
「そりゃあいけないね。こいつら、私にやらせてもらっても?当主様。」
「お前に当主様って言われることへの違和感がすごいな。いいぞ。久しぶりに会ったんだ。改めて、お手並み拝見と行こうか。」
「投手になったからって偉そうな口きいてさ。」
そう文句を残しながら、桜はふわりと、男たちの死角に降りる。そしてそのつま先が地に着いた瞬間、そこから桜の花びらが舞い上がる。きれいに見えるが、あれもれっきとした炎である。もしモアレに当たれば…死ぬほど熱かった。
「なんで過去形?」
「一回献花したときに、さんざん花びら当てられまくった過去があるから。焔雲は熱への耐性が強いからいいけど、常人なら、花びら一枚で大やけどだ。あと、勝手に人の心を読まないでくれると嬉しいんだが…」
そんなことを話している間に、桜は、家の周りにたむろしている男たちのほうへ、一切臆することなく近づいていく。別にそれはいいのだが、服装だけは何とかしてもらいたい。何せ、寝間着なのだ。持っている武器も、小刀一本ぐらいしかもっていないように見える。そしてそれも懐にしまっているため、すぐに出せる位置ではない。いくら時がたとうと、困った姉であることに、変わりはないらしい。
「輝。大丈夫?」
影が少し眉をひそめて尋ねてくる。おそらく、桜の服装や、その他もろもろを見てのことだろう。
「大丈夫だ。あいつ、ああ見えて相手の力量は見極められるほうだし。ああいう格好で行くってことは、「集まっても所詮その程度の実力」ってことだろ。」
「フゥン…」
そのまま何もせずに見ていると、案の定、桜は鎧武者たちに取り囲まれている…絡まれている、もしくは、ナンパされているのが正しいだろうか。
「よう、嬢ちゃん。なんでこんなとこいんだ?」
「ちょっとこっち来いよ。」
「いや~、家がちょうどこのあたりでね?ここらへんで山菜取りに来てたの。」
質問に対するうその回答をし、誘いにも特に乗らず、桜は男たちと一定の距離をとったうえで、笑顔を振りまいている。まったく知らないものの前でも、これだけのことができるのだ。それもごく自然に。さすが、各地の大名たちから婚約願を出されまくっただけのことはある。ちなみに、もらったあとはすべて燃やしたとのことである。その場面を見ていた鎖によれば、その燃やした願書の枚数は、優に百枚を超えるという。
その話を知ったうえで、今の桜を見ていると、今振りまいているその笑顔の奥底に、何かが垣間見えるようで怖くなってくる。
「そういうおじ様たちは何をしていらっしゃるので?」
「うん?ああっと…いっていいか?」
「いいだろ別に。言って減るもんじゃねえし。まず、こいつぁ関係ねぇだろ。」
「だな。いや、俺たちのお頭が探してるものがあってよ。それがこの近くにあるって話なんだ。その場所をこの家に住んでるばあさんが知ってるって話で聞きに来たんだよ。」
「頭はかっこいいんだぜ?捨てられて放浪するしかなかった俺たちを、嫌みひとつ言わず拾ってくれたんだ。」
「俺たちを捨てた大名なんかより、お頭のほうが忠義を立てれるってもんよ。」
「確かお頭も、なんかで追放されたって話だったぜ?」
「ああ。」
「確か、どっかの町燃やしたんだっけな?」
最後の男の一言で、話を笑顔で聞いていた桜の目が、一瞬だけ鈍く光り、次の小間には、さっきまでの目に戻る。そりゃあそうだろう。
街を燃やした、と聞いて、俺たちが想像する人物は、一人しかいない。偶然か、もしくは人違いだと思いたいが………………………………………
「すごいいい人なんだね?そのひと。」
「いい人なんてどこじゃねぇよ。俺たちにとっちゃ、立派な命の恩人だぜ?」
その声に呼応するするがごとく、周りの男たちも首を縦に振る。
「へぇ、いいなあ。私もそっちに行ってみたいかも………………………………その人の名前、教えてくれない?」
桜の中でも、いろいろな思うが渦巻いているのだろう。その思いが思わず出たのか、最後の質問の声が一段低くなる。が、その差を誤差の範囲内で終わらすのは、さすがの技量といえるだろう。
「すまねえけど、名前は言っちゃいけねぇってことになってんだ。でも、一緒に来るのはいいぜ?」
「え⁉やった。ああ、でも着替えないとだめだから…おじさま、少しの間、後ろ向いててもらっても?」
何か頼みごとをするときに出る、桜お得意の、ほんのり甘い声。今までこの声で頼まれて無視できたのは、父と折れ、鎖程度ではないだろうか。
「お、おう………了解。」
「じゃ、よろしくね?」
「わぁったわぁった。でも、なんd…!」
男のうちの一人がしゃべろうと次の瞬間には、その男の動脈はもうすでに、桜色の死神に刈り取られた後だった。
「はい。花の下伸ばしてたかもしれないけど、もう聞きたいこと、全部聞き終わったんだよね。大丈夫、安心して♪ほかの人たちにはもう永眠ってもらったし、動脈にさしてるから、痛みはないと思うよ。神痙を直接刺してるし。」
「!………」
男が声にならない声を上げている間に、桜はあたりに倒れている屍の処理を始める。どうやら小刀だけではなく、毒系統の仕込み刀を持っていたらしい。おそらくは、家の中で眠っている陰から頂戴したものだろう。盗るほうも盗るほうなのだが、陰にも、もう少し注意深くなってほしいところである。まあ、なったらなったで、違和感はあるのだろうが…
そこに倒れている者たちが、ほかの者の遺体に気が付かなかったのも、何か麻薬系の物をかがせていたからに違いない。そんなものを常時持ち歩いている佐倉のんぴが心配だな、と思ったところで、基本的に桜のそばには鎖がいるから大丈夫か、とも思う。もともと鎖は俺ではなく桜のお付きで、桜を追いかけるのに離れているといっていた。そうなると名前の鎖は、俺と桜の手綱とも取れなくもないが。
「大丈夫だって言ったろ?影。お~い、手癖悪いぞ~…影、どうした?」
「…いや、何でもない。『なんか、誰かがいるような音がしたんだけど…まあ、いいか。』」
「はいはい。ここにいない二人とおばあさんが寝てるんだから、あんまりうるさくしない。私はこれ片付けてから行くから、お二人さんは仲良く帰った帰った。早く寝ないと、明日の朝起きられなくなるよ?」
「ウィー」
「は~い」
「さて、隠れてるのはいいんだけど…そろそろ出てきてもいいんじゃない?」