燃ゆる
こんにちは。もうお昼です。まだ寝間着です。たまには部屋でゴロゴロしたくなりますよね。もうすぐ梅雨入りするかもって話ですし、外に出ておいた方がいいのかな、とも思いつつです。
右ひざの痛みは治まりました。今は左が痛いです。
「嘘、だろ…」
「けど、この状況的に…」
「残念ながら、嘘じゃないみたいだねぇ…。」
時は、半刻前に遡る。
江戸から、急遽やってきた早馬。
それが伝えたことは、先ほどまで呪骨家を討った喜びでてんやわんやしていた自陣を、一瞬で騒然とさせるものだった。
「焔城が襲われているだって!?」
「はい。将軍様は、確かにその通りに。今は、幕府の軍で押さえているらしいのですが、元が忍び戦のため、大きく兵を動かすこともできず…」
「まずい…かなりまずい。兵をいくらか残してきたとはいえ、千も二千もある相手を、幕府の軍を入れても押し返すことができるとは思えない。」
「その上、この量の軍だと、今動かせる兵全部動かしたら、休養とかを入れれば、丸二日かかる。」
「少数で言っても、丸一日は必須か…」
「いえ…我らの中でもっとも速度のでる馬を使い、少数精鋭休養なしでいくのであれば、馬の体力を鑑みても、三刻半以内に着くことは可能です。」
「そうか…でも誰を連れて…」
「輝様。」
「?」
「あとは残党を廃しながら、国元に帰るだけです。その程度も不可能なもの、この陣の中にはおりません。輝様は一刻も早く、双子とともに、国で待つものたちを助けてください。」
「…わかった。後は頼むぞ。」
「お任せください。」
「そうと決まれば、行くぞ。二人とも。」
「うん。」
「りょぉかい。」
そんなわけで、馬を休ませながらできる限りの最高速度で江戸を目指し、約三刻(現実で言う三時間)で焔城に到達したわけだが…ここで、冒頭のシーンに戻ることになる。
そこにはもはや城の影はなく、幕府軍と呪骨家の別動隊が入り乱れる、炎の戦場と化していた。
「あなたが、焔雲家の当主ですね。」
「ん?ああ。」
俺たち三人が、燃え盛る城の跡を見ていると、幕府軍の大将と思われるものが声をかけてきた。
「…人員の被害は?」
「今もまだ見つかっていないものも何人か。少なくとも、百は…」
「そうか…呪骨家は?」
「まだいくらか残っております。奴ら、主力の一つである「呪骨三人衆」をこちらに配置していたようで。」
「であるか…ご苦労だった。お前たちは、陣を取っ払っていいぞ。」
「いえ、ですがまだ…」
「聞こえなかった?大将さん。」
「輝は「退け」って言ったんだよぉ。」
「ですが、将軍様から、輝様の手助けをするように、とのお達しで…」
「将軍様には、俺が駄々をこねたから仕方なく帰ってきたといっておいてくれ。どちらにしろ、俺のわがままには違いない。ここからは手出し無用だ。」
俺がそう話していると、城から逃げ出し、武器を拾ってきた焔雲の兵たちが、俺と双子の周りに集まってくる。
「イイか、これは図らずも父の弔い合戦だ。だがそれは、将を打たれた向こうも同じこと。もとより向こうが吹っ掛けてきた喧嘩だ。勝手返り討ちは面白くない。」
俺が話す周囲で、部下たちの得物を持つ手に力が入っていくのが分かる。こう見ると、意外と父は信頼されていたのだな、と改めて感心する。実の父に、感心するも何もないのだが。
「ここで終わらせる。皆殺しまではしなくてもいい。あくまでも撃退だ。だが、俺たちの城を燃やした報いは、ちゃんと払わせろ。目標は呪骨家別動隊の撃退。全体、構えろ。」
俺がそう声をかけると、朱色の甲冑に身を包んだ焔の侍たちが、一糸乱れぬ動きで突撃の体制を作る。
「全体、かかれ!」
「「「「「応!」」」」」
「…お前が、うちの大将討った畜生か。」
仲間たちが城に救う呪骨家の別動隊めがけ駆け出して行った後。
後ろから追っていた俺と二人の後ろから、不意に声をかけられた。
その声が含むさっきから、俺たちは振り返ると同時に、自分たちの武器に手をかける。
そこには、「呪」「憎」「怨」とそれぞれ書かれた甲冑を身にまとう、三人の武士がたっていた。