恨みつらみ/戦う理由
ごめんなさい。もう少し早めに投稿しようとしたのですが結果八時になってしまいました。
今回、前回に比べ結構本編が長いので、集中力続きにくい人は文と文の間が開いているところがあるので、そこで休憩してもいいかもです。
分の量、ばらつきが多くてすみません‼
やつに負けたのは、ちょうど三十年前のことだった。
自分が一番強いと思っていたわけではない。
なおさら、あいつが自分より弱いとなど、考えてもいなかった。
「想像を裏切る」ほどに、己が…弱かったのだ。
敵ながらも同じ時を過ごし、自分よりあいつが…閃光が強いというのは、自他共に共通の見解だった。
実際、それをネタに笑い話にしたことも多々あった。
だが、その力量差が、あそこまで圧倒的だとは、あの手合わせの時まで気づいてもいなかった。
いや、認めたくなかっただけで、本当は気付いていたのかもしれない。
もしそうだったとしても、その事実を受け入れるのは、苦労して登った山が、実はその麓にも満たなかったと知ったときのような、体全体が絶望という名の痛みに軋むような感覚に、一切の予兆無く突き落とされるのと同義だった。
それからは、まさに地獄の日々だった。
その弱さから、家族や家臣から見放され、ひとたび外に出れば、ほかの家の者や城下に住むものたちから、絶え間なく罵倒の声が浴びせられた。
無論、何もしなかったわけではない。
やつとの手合わせに負けたあとは、ほぼ丸一日稽古に励む生活を毎日続けた。
跡継ぎ争いの時は、心を殺して、たとえ親類であろうとも、仇なすものは徹底的に突き落とした。
当主になったあとも、鍛錬を怠ることはなかった。
そういう意味では、やつに負けたことも、意味のあるものだったのかもしれない。
だとしても、あの地獄の日々の痛みが癒えることはないのだが。
そんな最悪な時間を過ごし、とうとう訪れた、復習の時。
幕府が関係していようがこの際は関係ない。
ただ、待ち続けた復讐を果たすだけだ。
そうやって、あの閃光をとうとう討ち、報復を果たしたというのに…
なぜ…なぜ…!
「なぜ貴様らは、俺を阻もうとする!超えようとする!焔雲の輩は!!」
閃光の怒号に、一瞬、目が冷めたような気がした。
なぜ俺達は、呪骨家を倒そうとしているのだろうか。
悪事をはたらいたから?
古くからの敵だから?
幕府の敵だから?
理由になりそうなことを見つけようとすれば、それはいくらでも出てくる。
だがそれは、自己肯定のためのいいわけではないのか?
俺が鮮血の叫んだ問いに答えられず、体を動かさずにいると、また鮮血が話し出す。
「無理に答えずともよい。どうせ答えなどわかりきっておる。それより、こいつらの処理もまだ残っていたな。閃光を殺して満足したまま忘れておったわ。」
そう答えると、鮮血は顎で地面を示す。
それを見れば、地面に横たわる双子の姿があった。
踏まれたりかまれたりしたせいで、その腕部や腹部からは血が流れている。
「やつとは違い、こいつには特に興味はない。痛みを感じぬよう、一撃で踏みつぶしてくれるわ。」
その声を聞いた瞬間、赫冥王の体毛の間から出ていた炎が一瞬揺らぐ。まるで、「忘れるな」とでもいうように…。
『ああ…そうだったな。』
なんのために戦う?確かに、最初は関係も、理由もなかったかもしれない。
実際父が始めたことだし、俺自身には、深い理由など、十年考え続けても、思いつくことはないだろう。
だが、今は違う。
戦場に立っている、それ以外に理由があるとするならば、だ。そんなもの、それこそ考え続けても、一切変わることはない。
『戦う理由なんか…』
双子に今振り下ろさんとする鮮血の足に目を向け、自分の足をバネのように縮める。
息一つ、集中。
のち、突撃。
「仲間守るために、決まってんだろが‼」
体の質量に持って余る赫冥王の力をすべて込め、赤黒い炎を纏った二の腕を太い骨の足に打ち付ける。
腕についた鋭い爪がその白い柱に刺さったのを確認すると、その亀裂に炎を流し込む。
「さっさと…折れろ!」
大木が折れた時のような音を立て、目の前で振り下ろされようとしていた足が白い欠片とともにに爆発四散する。
頭上で響く唸り声を気にも留めず、鮮血が痛みをこらえている間に、双子を足元から、家臣のいる安全なところへと避難させ、もう一度、龍の方に向き直る。
「輝…」
「無理…しないでよねぇ。」
移動中の揺れで目を覚ました二人が、俺を心配してか声をかける。
「大丈夫、安心しろ。全部済ませてくる。」
俺は一瞬だけ顔をもとに戻し、二人に笑みを向けると、素早く部下たちに指示を飛ばす。
「治療班はけが人の一刻も早い応急処置。槍隊は鮮血の周りの周りの敵を頼む。できるだけ近づけさせるな。騎馬隊は槍隊の前。風穴を開けたら撤退しろ。馬はなるべく死なせるな。盾隊、弓隊は後方支援に。なるべく前衛に被害が出ないようにしろ。」
それから、焔雲の家臣団の中でも有力な武将たちの方に向き直る。当主である父が死んだ今、俺以外に指示を飛ばせる人間はいないのだ。
「お前たちは、それぞれ部隊の指揮についてくれ。俺は前線で、あいつとケリをつけてくる。」
「わかりました。互いの被害を最小限にするためにも、なるべく早く終わらせましょうや。」
「ああ。無論、そのつもりだ。」
そして最後に、俺の後ろに控えていた鎖に目を向ける。
鎖は、あまり目立つことはないが、事実、焔雲の中で最も強い軍師である。
「さっきも言ったとおり、俺は前線に出るから、ここで指示を飛ばすことができない。」
「わかっております。みなまで言わなくとも、それはここにいる全員が分かっていることですよ。」
「そうか…頼んだぞ、鎖。皆も聞け。今から、この焔雲家の指示権を、軍師である鎖に移譲する。いかなる理由があろうと、この命令に背くことは許さん。」
「「「「「は!」」」」」
家臣たちの応答の声とかぶせるように、背中側から龍の咆哮が聞こえた。
さっきまでが第一回線とするならば、今からは第二回戦だ。
「怖気づいたか?焔雲のせがれよ。」
「笑えるうちに笑ってろ。うちのに手出ししたこと、地獄の果てでも公開させてやる。」
さて、皆さんは誰目線の話が出るか分かりましたか?正解は呪骨家の当主、呪骨 鮮血でした。
まあ今回は割とわかりやすかったかな?
ちなみに物語の中で鮮血の龍の足が折れる描写がありますが、本当に折れているわけではありません。本来の身体の部分ではなく、巨大化に伴って生成された部位なので、実際の身体には影響はありません。(ですが体の一部であるのは変わりがないので、普通に痛覚は存在します。)
ちなみに体が小さい輝や陰、影は足がおられたら真面目に折れるので、普段から動きを練習しているそうです。
何か物語に関する質問があれば、どんなものでも受け付けます。
これからも投稿頑張ります!