二人の少女
こんにちは。おかかのみやつこと申します。これからご迷惑おかけすると思いますが、どうかよろしくお願いします。
骨が散らばっている。血の匂いがする。誰かが呼んでいる。誰かはわからない。
でも何か、ほんのり温かいもので包まれたような、そんな気がした…。
「ン…夢か。」
起きたばかりだからか、まだ少し頭がぼぅっとしている。先ほどの夢の内容の事を考えていると、横から不意に声をかけられた。
「どうされました。輝さま。」
「いや…少しぼぅっとしてただけだ。」
俺は焔雲 輝。訳あって江戸に城を築いている、焔雲家の跡取りだ。
「お前が俺の起きた時からいるってことは、また面倒な頼みを持って来たんだな。」
「またそのようなことをいくらなんでも傷つきます…ま、おっしゃる通りなのですけれども。」
こいつは、俺の御付きの家臣の鎖。
俺をからかうのが好きで自頭がいい、色々憎めない奴。
「今度はどんな話だ。」
「簡単なものですよ。二人組の女が夜な夜ないろんな町の家に忍び込み、金目のものを盗み去っていく、というものです。」
その話なら、このごろ街中でもよく聞く。町の住民がよく話している噂の種だ。
「そいつらを捕まえて来いと。」
「はい。流石にこれ以上事態が悪化して、治安が悪くなるのは嫌だということで。」
「なるほど。それはいつ調査すればいいんだ?」
「いつ現れる川わかりませんし、今夜から見ていた方がよいでしょう。」
「…許可は?」
「…逃げ上手なようで。万が一の場合には、と。」
焔雲家には、代々、炎の獣に変身する能力があり、代によって姿も違う。ちなみに俺は、狼の姿になることができる。
が、目立つと面倒なのでなかなか使うことはせず、少なくとも今は、父の許可がないと使えないことになっている。
その父から、使っていいと許可が出たということは、今回は、かなり大変になるだろう。
ーその夜ー
俺は、いつもにぎわっている江戸の屋根の上を走っていた。腰には刀は長い刀を一つだけ。
俺たち焔雲家が江戸の町を警護している理由は、江戸の将軍様から、江戸の警護を担うことを認めてもらっているためというのと、古くからの家臣で、この能力を持っているからだ。
警備や今日のような任務のためとはいえ、こうして屋根の上から江戸の夜景を眺めるのが俺の日課であり、お気に入りだ。
そうして眺めていると、突然二つ向かいの長屋から陶器のようなものが割れたような音が聞こえてきた。
いざ着いてみると、その家の男が長屋から走って出てくるところだった。
この辺りは俺の顔見知りが多い。そいつも俺に気づくや否や、何かにすがるように話しかけてきた。
「なあなあ聞いてくれひかちゃん。」
「なれなれしく呼ぶなって。家臣に聞かれてたらどうする。で、どうした?何か陶器の割れるような音が聞こえた気するが…。」
「ああ、今日新しい茶器を買ったんだ。とってもきれいでな。それを眺めてたら、なんか黒い服を着た二人が入り込んできてよぉ。家の中荒らし始めたから、あわてて逃げてきたんだ。せっかく買った茶器も割れちまうし…。」
「そうか…。お前の好きな茶器を新しく買うよう部下に言っとく。好きに選ぶといい。せめてもの謝罪だ。入らせてもらうぞ。」
「気をつけろよ、明かりも消えてるし。」
「ああ。」
幸い能力が炎を扱うものなので、明かりには困らない。何ならまぶしいぐらいだ。俺が注意して部屋に入ると、部屋の奥で、例の二人組が話しているようだった。その内容も気になるが、俺にはもう一つ気になるものがあった。
光る眼…。
それは、能力者にしか現れない。
能力を使っている際、または暗いところを見たり警戒していたりするとき、能力者は目が光る。
焔雲家以外にも何人か能力を使える者はいるらしいが、俺が焔雲以外の能力者を見たのは初めてだった。
噂の二人だと分かったのは、色が違う光が、二つずつ並んでいたからだ。一つは、鬱陶しいような甘さをたたえた、濃く明るい桃色(今でいうショッキングピンク)、もう一つは、それと正反対で、まるで氷のような冷たさをたたえた、少し薄めの蒼色(今でいうセリリアンブルー)。
どうやら二人はやってきた俺に気づいたらしく、俺に向かってしゃべり始めた。
「あれぇ…。珍しいなぁ…お巡りさんに入られるのは。ねぇ。影?」
「…うん。これが初めて…かな。」
「そっか。…フフッ…おもしろそ。」
先に話し始めた、妙に間延びしたしゃべり方をするのが桃色の方、そのあとの静かな声が蒼色の方だ。
「あ?何笑ってやがる。」
「関係ないでしょ。ね、影。手始めに…頼める?」
そういわれると、影と呼ばれた蒼い目のほうは、腰からクナイを出して襲い掛かってきた。
とっさによけたつもりだったが、頬の皮が切れ、鮮血が飛ぶ。
「ッつ!」
俺が向き直ると、蒼の目の方も向きなおる。
「…珍しい。」
「ほんとうにねぇ。大体は、どんなにでかい男でも一撃で仕留めてるのに。」
「うるさい。それよりも…陰。」
「なんで私のだけそんな無視するかなぁ。」
そういうと、陰と呼ばれた桃色の目のほうもクナイを出して襲い掛かってきた。無論、こちらも刀を抜いて応戦する。
「あまりこれは使いたくはないんだが。」
俺は、能力である炎の狼を応用し、刀にまとわせた。
「へぇ」
二人はもう一度目を光らせ、クナイに陰はおそらく蜜のような濃い桃色の液体を、影は冷気をそれぞれまとわせた。両方とも、やる気は満々のようだ。
(本気でやらないとやられるな。)
先に仕掛けてきたのは陰だった。クナイの先を胸に突き立てようとするのを、俺は刀で素早くいなす。が、いなした途端、俺は急に眠気に襲われた。
(麻酔薬か何かか。ぬかった!)
どうやら、あの纏わせていた毛井も色の液体。あれは睡眠薬や、その類いのものなのだろう。まあ、今更知ったところで後の祭り、できる限り応戦するしかない。どうせここで逃げても、二人を取り逃がすばかりか、途中で寝てしまって二人に捕まるだけだろう。
断言できる。最初から殺すつもりなら、持っていると思われる能力を使うのが一番早い。
そんな中でわざわざ睡眠薬をまとわせたのはおそらく俺をとらえるためだ。
影も、クナイと一緒に、何やら縄のようなものを持っている。
「あれぇ。眠たくないのぉ?」
陰のほうが、まるでからかうように狂気的な笑みを浮かべる。
「ああ。あいにく俺の仕事は街の警備。今までにも、チンピラやらなんやらからさんざん睡眠薬盛られまくってる質なんだよ。」
「そらぁ面倒なこと。」
「笑うなら笑え…それでいいんだよ、十分慣れた!」
そう吐き捨てると同時に、俺は陰の腹に峰打ちを叩き込んだ…はずだった。
鈍い音が響く。
まだ残響音が残る部屋で、見事な姿勢で俺の刀を受け止めた影が、俺の刀をはじき返す。
影のクナイは、纏わせた冷気が炎で蒸発しかけているのか、白い蒸気を上げている。
「…。」
その目は、今まで見た―といってもここ三分程度だが―影の瞳で、一番暗い色を放っていた。
そうこうしている間にも、俺は、少しずつ眠たくなっていく。足元がふらつき、視界が揺れる。
「そろそろかな。ねえ、影。大体持った?」
陰がそう聞くと、影は小さく頷く。
「じゃ、もうやっていいよ。」
そういわれるや否や、影は俺の後ろに回り込み、目隠しをかけた。俺は刀を持とうとするが、指先に力がうまく入らなかった。おそらく影に顎のあたりを下から蹴り飛ばされたが最後、俺は意識を飛ばしたのだった。