2人の朝
HONOと言います。デビュー作です。ラブコメになります。
短めのエピソードになっていますのでご了承下さい。
囀る小鳥。早朝のキッチンから包丁でトントンと野菜を切る音とグツグツと沸騰する鍋の音が聞こえてきた。キッチンを覗くとハル君が手際良く朝食の準備をしていた。
「ハル君、おはよう。今日も朝早いね」
「おはよう、芽亜里」
早起きしてキッチンに立って調理をしているハル君の後ろ姿。ボサボサの髪をゴムで束ね、ラウンド型眼鏡を掛け、エプロンを着用している爽やかな姿。早朝からエモすぎなハル君の姿に自然と視線が行ってしまう。
壁のエプロン掛けから私用のエプロンを取り、着用してキッチンに入る。既にテーブルには輪切りにしたゆで卵とプチトマトを盛り合わせにしたサラダが用意されていた。ハル君お手製のドレッシングも。
ハル君は野菜スープを調理中で、野菜を切っていた。鍋から鶏ガラスープのいい香りが漂う。
「……朝食の準備、私も手伝うよ。何をすれば良いかな?」
「お、サンキュー。俺は目玉焼きとベーコンを焼くから、その野菜を切ってくれるか? 切り終わった野菜は鍋に入れてくれ」
「了解」
ハル君からの頼みごとを引き受けて舞い上がる私。なるべく感情が顔に出ないように平常心と何度も心掛けていたけど、ニヤニヤした笑みを浮かべてしまう。表情に表れないようにするのはほぼ不可能だ。
「ん? 何ニヤニヤしてるんだ? 顔が赤いぞ? 熱があるんじゃないか?」
ハル君がそっと私のおでこに自分のおでこを合わせる。私に熱があるのではと心配してくれての対応のようだ。
でも、ハル君の顔が近すぎる……!
「熱は無さそうだな。最近、風邪が流行ってるみたいだから気をつけろよ」
「う、うん……」
反則級のさり気ない行動に心臓が飛び出るかと思った。言葉が詰まりながらも返答し、作業の続きを行う。
先程の事に意識が向いてしまい、集中力が散漫し、包丁を握っている手がぶるぶると震えてしまう。
「おいおい、そんなに手が震えていると指を切っちまうぞ! 危なっかしいな……」
いつの間にか横にいたはずのハル君がしれっと私の背後にまわった。背後からそっとバックハグをするかのように。私の背中とハル君の身体が密着。さり気ないボディタッチ。心臓の音が津波のように押し寄せて高まっていく。
「これなら手の震えが止まるだろ?」
震える私の手を優しく支え、一緒に野菜を切っていく。確かに震える手は止まったけど、胸の音が高まる一方。
「あ、ありがとう……」
顔がやかんのように沸騰しそうだ。背中からハル君の胸の音と温もりがはっきりと伝わってくる。心臓が保たず、今にも破裂しそうだ。
「死ぬ……」と、小声で呟く。私の声が聞きづらかったのがすっと近寄り、怪訝そうな表情で私の顔を数cmの近距離で見つめる。
「芽亜里、何か言ったか?」
「何も言ってない!」と顔を真っ赤にし、あたふたと首を横に振る。素でこの行動。色んな意味で危険で破壊力抜群だ。