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第I話「終わりの始まり」

プロローグの最後以外の雰囲気が好きだった人に先に謝っておきます。今回から異世界要素バリバリ入れます。すみませんm(_ _)m

「―――ま…陽馬ってば!」


 ――――うるさい、もうちょい寝させてくれ。


 バチーン!!


 突然頬に鋭い痛みが走った。俺は「わああ!」と情けない声を上げて目を開けた。天井は俺の部屋じゃない。起きようとしたが背中とお腹が痛い。頭上を見るとそこにはサターニャがいた。



「お前なぁ!人を起こすならせめて優しく叩け…」



 サターニャに説教をかまそうとしたが、サターニャが涙目な事に気づくとその気が失せてしまった。



「―ここは一体どこだ?エリノームとあのゲートは?」



 周囲を見渡したがあのゲートのような裂け目は見当たらないし、エリノームらしき姿も見当たらない。



「ここはアタシが元々いた世界よ。具体的な場所は分からないけど、なんかの遺跡みたいね。エリノームはまだアンタの世界で無様に倒れてるはずよ。ゲートはその…消えたわ」



 ああそうか、ゲートを通ればサターニャの世界に繋がるんだったっけ。やはりゲートは消えてしまったか。だが幸いというべきかエリノームからは逃げられたらしい。



「とりあえずアイツは当分追ってこなさそうだな。ところでアイツ、あっちの世界で魔術が使えないとか言ってたけどここでは使えるのか?」


「ええ、私も使えるわよ。ほら、『蝙蝠分身(クロンバット )』」



 そう言うと彼女は一瞬で無数の蝙蝠に覆われて消滅した。蝙蝠たちは俺の体の上を飛んだ後、俺の足の前で飛び散った。そこにまたサターニャが現れた。



「今のは一体何だ?」


「ちょっとした移動用の魔術よ。狭いところを通ったりするのに使えるわ」


「便利なもんだな。それって俺も使えるのか?」


「無理よ。これは『固有魔術(オリジーナ)』、言い換えれば特定の種族にしか使えない能力みたいなものよ。アンタの世界の生き物で例えるならホタルの発光がちょうどいい例ね」


「俺みたいな人間用の魔術もあるのか?」


「あるけど手先が器用になったりとかその程度のものしかないわ。」



 なんとも文明を発達させてきた人間らしい魔術だ。ただ、サターニャの言い方から固有魔術(オリジーナ)の中では下位に位置するものだろう。



固有魔術(オリジーナ)じゃないやつは使えるのか?」


「『 紋章魔術(エンブレット)』っていう紋章を刻んでもらえれば誰でも魔術は使えるようになるわ。ただ、一度刻めば何でも使えるとは思わないでね。刻んだ紋章によって使える魔術が決められてるし、自分の身の丈に合わない魔術は使えないの。それと紋章は普通は一つだけしか刻むことができないの。もし複数刻んでしまえば最悪死ぬわ」


「違う魔術を使いたい時は一回消してからまた別の紋章を刻むのか?」


「いいえ、一度刻んだ紋章は死ぬまで消えないの。だから普通は相手に手の内が知られないように固有魔術(オリジーナ)で戦ったりするの」



 なるほど。基本一つしか紋章を入れられないから、手の内を晒せば相手に対策されやすくなるって事か。そう考えるとあまり便利なものではないな。

 という事を考えているとサターニャが何か言いたそうな顔をしているのに気づいた。



「どうしたんだ?何か気になる事でもあるのか?」


「んえっ!?……いやその…ごめんなさい、アタシのせいでこんな事になって。下手したら二度と戻ってこられないかもしれないのに…」



 サターニャはらしくもなく落ち込んでいた。無理もない。彼女目線から見た俺は、日常をめちゃくちゃにされた可哀想な人間に見えているだろう。

 俺は痛みを我慢して上半身を起こし、彼女の前に座った。



「気にすんなよ、大体、あのゲートが消えたのは多分俺のせいだ。あの心臓を割ったのが原因かもな」


「でも!受験や家族の事は……。ひっく……」



 言いながらサターニャは泣いて黙ってしまった。どうやら本当に参っているらしい。



「泣くなよ。受験は何度でも挑戦できるさ。家族とも俺が諦めなければいつか会える。お前、自分で言ってただろ?「黙ってれば何でも解決すると思ってるの?」って。俺は思ってないぞ。だから何でもいいからグズグズしないで行動しよう。ほら、俺が動いたおかげでお前、助かったじゃないか。黙ってないで行動すればどんな物事でもいつかは何かしら動いてくれるさ。」



 サターニャは涙で潤んだ目を指で擦って俺を真っ直ぐ見つめた。



「…そうね!いつまでも落ち込んじゃいられないわ!そうと決まれば早速ここから出るわよ!さっきは助けてくれてありがと!」


 調子を取り戻したみたいだ。俺も張り切らなければ。



「おう!…ってどこが出口に繋がるんだ?」



 しかし早速出鼻をくじかれることになった。なにせこの部屋、前後左右にそれぞれ一つずつ通路があるのだ。それが全て出口に繋がっているのか、いくつかは繋がってないのか、或いは全部行き止まりかは分からない。



「んー、分からないわね。とりあえず様子みるからここで待ちなさい、『蝙蝠分身』」



 そう唱えて彼女は四つの通路全てを回った。一時間ほど経った後、彼女は人型に戻った。彼女の表情は明るかった。どうやら出口が見つかったらしい。だが俺は一つ重大な事に気づいてしまった。



「右が一番安全ね。行くわよ」


「ありがとな。あと悪い知らせがあるんだけど言っていいか?」


「言ってみなさい。報連相は大事よ」



彼女は声の調子を落としてしまった。まずい、どうしよう。でも言わなければ。



「じ、実はさ…お前の服とか荷物入ったリュック、向こうに置いたままみたいだ…ごめん!!」



俺は床に額を擦りつけようとした。が、



「なーんだ、そんな事ね。とっくの前に気づいてたし別に気にしちゃいないわ。でも外に出たらお金稼ぎしないといけないわね」



 良かった、気にしてなかった。いや、俺が気にしすぎなだけかもしれない。行動しなければ解決しないと言ったのは誰だ。いつまでもクヨクヨしてられない。



「とりあえず今はここから脱出することだけ考えよう。悪いけどおぶってくれ」


「…まぁ今回はアタシを守ってくれたから特別よ。ほら、首に手を回しなさい」



 そう言ってサターニャはおんぶする姿勢になった。俺がサターニャの細い首に手を回すと



「言っとくけど変なことしたら振り落とすわよ!」



 と念を押すように言ってきた。



「相変わらずそういう事になると人を信じないヤツだな。ほら、行くぞ」


「…ええ。おぶられてるからって油断はしないでよ」



 だが、乗り心地とサターニャの匂いが良かったせいか俺はいつの間にか寝てしまった。



―――――――――――――――――――――――――――



 冷たい風で目が覚めた。目を凝らしてみると出口らしきものが見えた。 サターニャはそれを見てじっとしていた。



「あれが出口か?」


「起きたわね、ったく。油断するなって言ったのに」


「ごめんごめん。乗り心地よくってさ」


「っっもう!調子狂うわね!」



 サターニャの顔が紅潮しているのが背後からでも分かる。だが今はそれをイジってる場合じゃない。

 


「何で先に進まないんだ?」


「あの先にバロブロスがいるからよ」


「なんだそりゃ?」


「魔物の一種よ。アンタの世界で言うところの野生動物みたいなものかしら。ただかなり凶暴で強いわよ。アイツがいるって事はここは極夜界ね」


「極夜界って…ずっと太陽が昇らない真っ暗な世界なのか?」


「そうよ。アタシ達吸血鬼(ヴァンパイア)やバロブロスみたいな魔物はほとんど極夜界にいるの」


「もしかしたら白夜界もあるのか?」


「ええ。あと神界と魔界もあるわね。ただ、極夜界以外は知らない事が多いの」



 どうやら国みたいなものが四つに分かれているらしい。白夜界とか吸血鬼(ヴァンパイア)は絶対に住めないだろう。



「来たわね」



 サターニャの目線の先、首が二つに分かれた熊のような生き物がこちらの方に一歩ずつ真っ直ぐ前進しているのが見えた。サターニャもそれを見て一歩ずつ進む。

 互いの距離が十メートルくらいになったところで先にしかけたのはバロブロスの方だった。サターニャは咄嗟に耳を塞いだ。



「グオォワアアアアァァ!」



 とおぞましい声を上げたので俺は耳を塞ごうとした。しかし、手が動かせなかった。何故―。



「『 咬合魔術(バイターガン)』!」



 サターニャがそう唱えるとバロブロスの首が抉れ、大量の血が噴き出した。



「『吸血魔術(ブリドゾーブ)』!」



 間髪入れず、次の魔術を唱えた。瞬間、噴き出す血が物理法則を無視したありえない動きでサターニャの口目掛けて飛んできた。遠目から見れば血のアーチに見える。サターニャはそれを全て口にいれた。バロブロスは痩せこけた犬のようになりそのまま力尽きた。



「あ〜ご馳走様でした。今のも全部固有魔術(オリジーナ)よ?もちろんあのバロブロスが使ってきた「『 脅迫魔術(スレトパライズ)』」もね」



 あの鳴き声がそうなのか。全く対応出来なかった。



「何も知らない状態でアイツに遭遇すればほとんど全員あの魔術にかかって喰い殺されちゃうし、はじめから鳴き声を警戒して挑めば別の魔術を使ってくるの。最善の対処法は私みたいに何も知らないフリをすることね」


「知能が高いんだな。魔物ってのはこんなヤツばかりなのか?」


「バロブロス並の強さはそうそういないわよ。でも油断すれば私でも殺されると思うわ」



 恐ろしい世界である。早く俺も魔術を使えるようになりたい。せめて自己防衛くらいはしたい。



「さぁ、出口よ!魔物だらけの世界に出る覚悟はできてるわね?」


「おっおう!」



 俺たちは遺跡から外の世界へ一歩踏み出した。



―――――――――――――――――――――――――――



 陽馬達が遺跡を出た頃、その遺跡から遙か遠くの城の玉座の間に一人の男が息を切らせて入ってきた。男の先には三メートル近い身長の大男が暗闇の中鎮座していた。



「アメレグド様!報告いたします!『エリノーム=リース』が重傷の状態で発見されました!それともう一人、名前のない神界の聖人が心臓を全て抜き取られた状態で死亡しているのを発見しました!」


「…エリノームがやられたか。恐らく私の娘の仕業だろうな。私の娘がこの世界にもう一人の人間と入っていくのを感じた。聖人は放っておけ。どうせ関わればろくな事にならん。娘は見つけ次第殺せ。いいな?」


 大男『アメレグド=フェイン』は、好青年のような爽やかで、しかしおどろおどろしいという矛盾を発生させた声で男にそう命じた。



「はっ…はいっ!」



 男はそのまま逃げるように城を後にした。



「ふん。サターニャの奴め、どうやってこの世界に来れたのか知らんが必ず殺してやる」



 そしてアメレグドは眠りについた。


本編と関係ないですが、リアルでの仕事のストレスがヤバいので現実逃避するために遅くても二日に一回ペースで更新することにしました。

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