騒音
ある日の丑三つ時、3ヶ月前の校内模試で全科目赤点を記録した高校三年生の俺『紅陽馬』は、四半期後に迫る大学受験に絶望しつつ一人ゲームをやっていた。
「はぁ、このモードも慣れたしもうやることねぇな」
そう言いつつ家出前の出来事を思い出す。
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「陽馬!!この点数は何なの!?」
母の金切り声で家中の窓ガラスが割れそうだ。
父は、またかぁという表情で騒ぎの中心である俺たちを見ている。
「うるせぇな!100点は取るって約束だっただろ!?」
「全科目合わせて100点なんていくらなんでも酷いわよ!」
「はぁ?意味わかんねぇよ!?とりあえず約束は約束だからな!?」
「あーもういいわ!あんたもう出ていきなさい!」
「ちょっ、母さん...」
「言ったな!?今のちゃんと録音したからな!」
「いつの間に...ってなんでしてるのよ!!」
「こういう時は毎回してんだよお...ば...さ...ん」
「こら陽馬!そういう言い方はないだろう!母さんもちょっと落ち...母さん?」
「っ!...出てけえぇ!!!」
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そうした喧嘩の後、俺は家を出て行った。両親への挨拶もおざなりに済ませてしまった。引越しに伴って色々面倒な手続きがあり、その事で謝ろうと思ったが、母に負けた感じがして言えなかった。
最後に母から
「月一でいいから連絡はしなさい」
と言われたが、何も言うことなくあとを去った。
そして現在に至る。家事と勉強の二刀流はなかなか厳しく、俺の夢のキャンパスライフへの道は消えかけている。母への連絡も近況報告を一文程度で済ませてしまっている。生活費は一応入ってくるのでありがたい。そこは感謝している。
高校で所属していた陸上部も引退し、もう受験一色の日々も飽きたので、勉強が一区切りついた今、昔やっていたゲームを久しぶりにやっている。
「空から女の子でも降ってこねえかなー」
叶いもしなさそうな願いを呟く。もし叶っても女の子が潰れたトマトになるのを見ることになるのでやっぱり降ってほしくない。
なんて事を考えてるうちにずっと物音がしている事に気づいた。真上の部屋からだ。
「ドンッドンッドンッ」と規則正しい音だ。
足踏みなのかジャンプなのかはたまた神聖な行為の音か。
うるさいので耳を塞いで寝た。
朝、目を覚まして時計を見ると正午を過ぎていた。あの音は聞こえてこない。
半日近く無駄にしたなぁと思いつつ昼飯を食べている途中、あの音の事を思い出す。
(そういえば昨日音がした部屋空き部屋だったよな...っ!!)
気づいた途端に飯の味がなくなった気がした。
(徹夜したから幻聴が聞こえたのか?でもはっきり聞こえたぞ...)
今から上の部屋でも行こうかと考えたが思い違いと考えそのまま夜を迎えた。
風呂から上がって寝ようと思った時、あの音が再び聞こえてきた。昨日よりうるさい。
ドドンッ!ドドンッ!ドドンッ!
人が寝ようとしている時にリズミカルに刻みやがる。
俺は上の部屋に行くことを決めた。爆速で階段を上り問題の部屋のドア前に到着。勢いのままインターホンを猛プッシュした。
ピポピポピポピポン
住人は出てこない。が、音は続いている。
「舐めやがって...!」
今度は三三七拍子を刻むように押した。
ピポピポピポン ピポピポピポン ピポピポピポピポピポピポピポン
「うるさいわね!!」
ドアの向こうからキンと甲高い声が聞こえた。
(あれ?子供なのか?)
そう思っているとまた同じ声で
「こんな時間に人様の部屋の前でうるさくするなんて頭おかしいんじゃないの!?!?」
と聞こえた。あまりに激しいので気圧されそうになる。かと言って子供相手に負ける訳にはいかない。
「それはこっちの台詞なんだよ!!大体、周りの部屋の人にも迷惑だしやめろよ!てか親御さんはだんまりなのか?」
と矢継ぎ早に言い返したら音が止んだ。
「おっ親はここにはいないわ、ていうか音が聞こえていたの...?」
(いや思いっきり聞こえてるんですけど。てか、え?子供だけ?)
その場に立ち尽くしていると玄関のドアが乱暴に開いた。
出てきたのは血を凝縮したかと思うほど真紅の瞳と清流のように透き通ったように見える銀の髪を持つ少女だった。
「先に自己紹介するわ。『サターニャ=フェイン』吸血鬼よ!」
そう少女は名乗った。
仕事の合間の暇つぶしで投稿しました。
ヴァンパイアとルビ振るのはこの話でしか使いません(時間あれば編集でつけます)