第二幕 第四話 【居候という名のお泊り】
第四話です イチャイチャしやがって…
結局俺は昼を食い損ね午後の授業中空腹にむしばまれることになった。俺を質問攻めにしたクラスメイトもさすがに漆川を質問する勇気はなかったらしく、午後の授業は何か気まずい空気の中午前中とは真逆の空気の授業が進められていた。ちなみに気まずさの故か漆川に声をかける生徒は一人もいず、微妙な空気に先生の顔が引きつっていた。これでやっと帰ることができると非日常な生活に疲れを感じながらも教科書をしまいながら伸びをする。——早く帰って寝よ
小走りになりながら校門を出るところで肩に手が置かれた。一樹かと思って
「おう!なんだ?」
明るい声を出してそちらを振り向くとそこには白髪の美女がいた
「突然フレンドリーになったわね。」
「いや、一樹と勘違いした」
慌てたような声を出すと
「そんなに私の手っておとこみたいかしら」
なぜか落ち込んでいた。
——落ち込む要素あるか?
「いやわざわざ手の形意識しないだろ。で、何の用だ?」
一応慰めるとともに用件を聞く。
——流石にこれ以上疲れることは起きてほしくない。ただでさえ体が視線によって変にこわばっているのに。
「あなた、私を家に泊めて」
光の速さで断る。
「いやだ、ただでさえ今日は視線を浴びていてストレスで疲れているんだよ。家にお前みたいな絶世の美女を連れてきたらまたストレスが溜まる。家族のことを考えてみろ。」
その瞬間またもや彼女の頬が真っ赤になる。
——褒められるのに弱すぎないか?というか実際に頬を見たのは初めてだな、さっきはそっぽ向いてたから。
「政府組織に泊まれよ。」
すると、
「あなたを監視しなきゃならないのよ。泊まらないと家の中を監視できないじゃない」
——なるほど、まあ、なら仕方ないか。
「わかったよ。で、どういう言い訳をするんだ?」
「家出。この格好ならいいところのお嬢さんで家でいろいろ制限されていやになって、逃げだしてきたけどちょうど転校してきたばかりでたまたまバイトで一緒になった人がいたからその人の家に泊まることにしたっていう感じでいいんじゃないかしら」
しっかり考えているあたりもともとこうする予定だったのだろう。しかし、聞き捨てならないことが一つあった。
「漆川、なんでそのバイトの話を知っている?」
すると、さも当然のことのようにえげつないことを言った。
「それは盗聴器をつけているからに決まってるじゃない。」
それに対してツッコむ。
「ならどうして家に来る必要がある?監視ならそれで充分だろ。」
「いう前に止めたいのよ。基本的に意素は遺伝性のものだからもし家族のほかの人が意素を持っていたら記憶が消せないのよ。」
すらすらと理由が述べられる。
——なるほど、自分が考えることくらい検討していてそれが無理なことを知っているのか。
「わかった。行くぞ。でもその前に、ホイッ!」
パーカーを投げる。どういう意味か分かっていなさそうな漆川に、
「お前は顔のせいで目立つんだよ。さっきから何人の下校する生徒が俺らのことをチラ見していると思ってる。」
距離のせいで会話は聞こえていないようだが、勘違いは生みそうである。これ以上誤解を解こうとしてあだ名は増やされたくない。それが将来に影響したら生きていくうえで困る。
そこからは無言で駅まで歩いていく。そこから無言で電車に揺られること10分。そこから家に向かうところで、漆川が口を開く。
「ねえ、あなたって一人っ子?」
突然の質問に少し詰まりながらも答える。
「今は一人っ子だ。昔は姉がいたが今は交通事故で死んでいる」
そのセリフに一瞬いつもの無表情がこわばったのに俺は気づかなかった。
「ごめんなさい。いやなことをきいたわね」
「いや、もう気にしてない、結構前のことだし、もう記憶は消えかけている。」
こんなところでも無表情を崩さない漆川に昨日した質問が蘇る。
——感情がないわけではないことは今日の赤面などからわかるが、なぜそこまで感情を殺すのだろうか。
その疑問を頭の中から追い出しながら歩き続ける。
「ねえ、あとその胸につけている彼岸花のネックレスは何?」
「これは姉がつけていたものだ。なぜか手放せなくてな。」
胸の上で揺れるガラス細工の彼岸花。それを手で持ち上げてしばらくもてあそぶ。
「漆川の家族はどんな感じなんだ?」
「私は父さんが……事故で亡くなっていて、妹がいるわ。」
すこし、顔を陰らせて言う。しかしその表情には悲しみ以外の感情が浮かんでいた。しかし、このようなことは詮索しないほうがいいと思ったのでただ相槌を打つ。
「そうか。」
そんなことをしていると家に着いたので、
「ついたぞ。ここだ。」
と漆川に伝え、家の鍵を開ける。うちは一軒家であるため、友達との遊び場にうちを使うことはあるが、女子を呼んだことはないので相当驚くだろう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
母さん、七瀬葵の落ち着いた声が奥からする。うちの家庭感のある挨拶。そこに、鈴のようなきれいな非日常の音が響く。
「こんにちは」
声がしたとたん大きな物音がした。
——何かが落ちたのか?
そう思った瞬間こんどは明らかにしてはいけないガラスの割れるような音がする。台所に行くと母さんがガラスのコップを落としている光景が映った。
「事情があってうちに泊まる。あと彼女にあのことは伝えないでくれ。」
女子がうちに泊まることに慌てた様子から母さんの表情がこわばる。
「……わかったわ。でも彼女さんなら言ったほうがいいんじゃないかしら?」
母さんが誤解をしているようなので、
「彼女じゃない。でも、まず俺に彼女を作るのは無理だろ。」
それに対して母さんは反応に困ったようで苦笑いしながら言う。
「確かにそうね。ごめんね。」
「わざわざ家族に謝るようなことない。」
「不思議ねえ。こうして話していると全くそのような感じはしないのに。」
不思議そうにする母さん。しかし次の瞬間にはニコニコとした顔になって、
「というわけで彼女のところに連れて行って。待たせるのも悪いし。」
「人称だよな?まあいいこっちだ。」
というわけで母さんを連れて漆川のところに行く。
「初めまして。漆川凪白です。事情は彼から聞いていると思いますがお世話になります。」
相変わらずの無表情に、銀鈴の声で自己紹介をする。その美貌に気おされたのか挨拶をするのは慣れているはずなのに慌てたように
「な、七瀬葵です。よろしくお願いしますぅ。」
語尾までしりすぼみになっている。挨拶をとりなすように、
「玄関で突っ立って話してるのもなんだしあがるか。俺の部屋でいい?」
「いいわ。」
という会話を聞いた瞬間ニマァと笑った人がいた。母さんだ。
「あらあらぁ。もしかしてエッチなことする気かしらぁ?してもいいけど、声は控えめにねぇ?」
さっきの慌てぶりはどこにいったのか今度は声が間延びしたようになった。その発言に
「そんなことは絶対にない。」
「そうですね。互いに恋愛感情はありませんし。」
その後、俺の部屋にて今後のことを話し合う。
「とりあえずこれから泊まるとして今は使われてないから隣の部屋を使ってくれ。空いてるから。…………遺品はもう別の場所に動かしているから今は客が来たり泊まったりするときに使ってもらっているから普通の部屋だぞ。」
空いている部屋と聞いてさっきの話から姉の部屋だと気づいたのか漆川が無表情を崩してためらう様子を示したので情報を補足するが、
「みんな断らないの?姉の部屋と聞いて。」
それでも漆川はためらう。
「みんなは姉の事情を知らないし姉がいたことをもともと知らないからな。いつもは話さないんだがこれからは長い付き合いになりそうだったからいずれ気づかれるより先に言っておいたほうが気まずいからさっきは伝えたほうがいいと判断した。」
それを聞いて断る理由を考えるように視線をさまよわす漆川。そして思い出したように言いだそうとするが何故か言葉に詰まりもじもじしだす。心なしか頬も薄く色づいている。そして自暴自棄になったように、何か唱えてから叫ぶ。
「ああもう!組織に同じ部屋に泊まれって言われているのよ!既成事——じゃなくて、組織に入ってもらうようゆうわ——じゃなくて、夜もぼろを出さないように見張るために!」
——組織がしたいことダダ洩れなんだが……。まあ、夜眠い時に判断力が落ちてたらぼろを出しかねないからな。だが一応確認しておくか。
「俺だって健全な男子だ。もしかしたら過ちが起こるかもしれない。女子のそれは大事なものだと聞いている。本当にいいのか?好きでもない男子にそれをささげ……グハッ!」
平手打ちをされるがそれはそんな生易しいものではなかった。頬に来る衝撃で俺は吹っ飛び壁に体をしたたか打ち付ける。
——最近俺壁にぶつかりすぎな気がする。それより……
「音、あと声が大きい!母さんが気付いたらどうする?」
それに対して漆川は無表情に戻りあっけらかんと言う。
「念のために結界を張ったから大丈夫よ。ほら叫ぶ前に何か唱えてたのは聞こえてたでしょ?」
と言った瞬間、
「シッ!足音が聞こえるこの結界は人を止める力はないからとりあえず適当な話をして。私は突然声が聞こえるという変な現象が起きないように結界を解くわ。」
早口で言ってきたので、適当な話題を振る。
「ところでもう学校には慣れてきたか?」
「ええ、最初は知り合いがいなくて焦ったけどあなたがいてくれたから助かったわ。未だに視線には慣れな……」
とここまで話したところでコンコンという軽いノックの音が鳴る。
「入っていいよ」
声をかけると扉を開けるが、その瞬間顔が、あらあらあらという風になる。
「よくないわよ、相手が許可していないのに襲うのは。」
「そんなことはしていない」
すぐに否定するが、
「頬に派手な手のひらマークをつけながらよくそんなことが言えるわねえ。」
——そういえばそうだ。殴―じゃなくはたかれていたのをもう忘れていた。
「…………」
どういうべきかわからず黙る。
「とりあえずお菓子とジュース」
と言って手に持っていたお盆に乗ったカステラとジュースを置く。
「それではごゆっくり~」
そういって母さんは去っていった。
「とりあえず食べるか」
「そうね」
そしてお菓子を食べたりジュースを飲んだりしながら雑談を興じる。
穏やかな空間が広がる……
「って今後のことを話すんじゃないの!!」
「耳が痛い。そんなに大きな声を上げなくても聞こえる」
耳がキーンとなる。
——いつもの無表情はどうした。
そう思っていたら無表情でいることを思い出したのか表情が戻り俺に尋ねる。
「で、さっきどこまで話したんだっけ。」
「お前が捧げる話だ。」
今回は少し頬を色づかせるだけで終わった。
「あの話はもういいわ、それでしばらくはここで居候させてもらうわね。あなたが話さないという信用が得られるまで」
「わかった。」
——そんなところか。
「じゃあしばらくは自由にしてくれ。今日は疲れたから少し寝る。6時半くらいに起こしてくれ。」
「わかったわ。」
俺は彼女がうなずいたのを見届けてベッドに横になり意識を手放した。
「うらやま……けしからん!!」
「焦ってるのかわいい」
「続きまだ!?」
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