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女王の条件  作者: ライム
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2


疲れていた身体は、泥沼のような眠りから覚醒するのに時間を要する。

しばらくベッドの中で現実逃避してから、ようやく決心をして、起きるか、とのろのろと覚醒を始める。

重力に無理やり逆らうようにして、何とか身体を動かせば…おかしな事態に気がついた。


手触りの良いシーツ。この大きなベッド。

昨夜の悪い夢がまだ続いているようである。


いつもの私の部屋なら、遮光性ゼロのペラペラのカーテンから容赦なく朝日が突き刺さってくるはずであるが…

どういうわけか重厚なカーテンが陽の光を完全に遮断しており、いまだに部屋は暗い。


寝ぼけていた頭が急速に回転し、冷や汗が背中をつたう。


ひょっとして、昨日の夜酔っ払って、知らない人の家にいる…とか?

私は強張る手足を何とか動かし、閉め切ったカーテンの前にいって,はらりとめくった。

カーテンの向こう側に広がるのは、真紅の薔薇が咲き誇る広大な庭である。


…日本にこんな広大な庭をもつお屋敷があっただろうか…??

窓越しに映る自分を見るが、昨夜のままのパジャマ姿の私である。

左手を見れば、昨日、雑貨屋で買ったルビーもどきの指輪が左手にはまっている。


つまり…どういう状況だろうか?


疲れすぎて幻覚でも見ているのか?

貧乏に嫌気がさしていたし、自分の狭い部屋が豪華なお屋敷に見えるような都合のいい幻覚でもみているのだろうか。


そう考えると、このルビーもどきの指輪をルビーだと自分に信じこませて買った時点で幻覚症状の兆候が出ていたのかも…?


いや、それはないでしょ。


昨日の夜に見た赤い月といい、昨日見かけた軍服姿の男の人といい、日本とは思えない。

全然別の次元の世界に来てしまったという方がしっくりくる。


なんというか…空気感が完全に日本じゃないんだよね。外国とか異世界って感じ。

ま、外国も異世界も行ったことないけど。



よし、大丈夫。落ち着いてきた。

この調子で冷静に対応していこう。


そう自分を勇気付けながら、焦りと恐怖からうるさいくらいに鳴り響いていた鼓動をなんとか落ち付けようと深呼吸を繰り返した。


何はともあれ、この家の主人に会うべきだろう。


まずは、この情けないパジャマ姿から何かに着替えたいが…

衣装ダンスのようなものもあるが、勝手にあけるのは気がひける。何かないかと部屋を見渡せば、ベッドの隣に紺色の綺麗な長いワンピースが畳んで置かれていた。。

…上等すぎで着づらい。

しかし、起きたらきてくださいと言わんばかりにベッドの横に置いてある。


恐らく…着てよさそうだ。

部屋の状況的に。


私は,さっと長めのワンピースに着替えた。

服と一緒に革製の靴も置いてあったので,履かせてもらうことにする。


少し大きな紺色のシンプルなワンピースの裾は足首を隠すほど長い。

しかし,なめらかで肌触りも良く,歩けばひらりと裾がはためいた。

革靴のようなものも,非常に柔らかい素材で履きやすい。

明らかに上等な衣服に気後れしつつも恐る恐る部屋の扉を押し開くことにした。


分厚い木製の扉は,もとの木の色なのか,染めているのか,真っ黒で,複雑な草木の文様が彫刻されている。思わずしげしげと眺めてしまいたくなるほど立派な扉である。

しかしながら,扉のどこを探してもドアノブらしきものが見当たらない。

私は,仕方なく身体ごと重厚な扉に向かって体重をかけて押し開くことにした。


しかしながら,分厚い扉は思いのほか重たい。

つるつるに磨かれた床に足が滑りそうになりながら,全体重をかけて扉を押し続ければゆっくりと動いてくれた。


なんとか空いた隙間に身体を滑り込ませると,ばたんと重い音をさせて扉が閉まっていった。

ようやく部屋から出ることができた。


そっと辺りを見渡せば長い廊下のようで,壁の高い位置にガラス窓のようなものがはめ込まれており,そこから差す陽の光のおかげで,教会のような神秘的な雰囲気が漂っている。

しかしながら長い廊下は,しんと静まり返っており人の影もない。


私は,わくわくとした気持ちが湧き上がってくるのを感じた。

気分は観光客である。

もちろん,そんな能天気なことを言える状況ではないので気を引き締めていかなければならないのだけども…。


私は,長い廊下をスタスタと歩いていくことにした。

もちろん勝手に歩き回るべきではないと思ったのだが,最早,部屋に戻れそうになかったのである。


なんと,部屋から出るときは扉を押せばよかったが,入る際は扉を引かなければならないようなのだ。

ドアノブのない扉をどうやって引くというのか…。

全く謎原理な扉である。

数十分の間,扉と格闘したが,部屋には入れないし,廊下には相変わらず人の気配がないので,とりあえず進むことにしたわけである。



長い廊下は全て大理石のような硬い素材でできているようであった。

どこも完璧に磨かれていて汚れ一つない。

しばらくまっすぐに進めば,天井はなくなり,屋外の渡り廊下のような場所に出た。

空は快晴で爽やかな風が心地良い。

空に見たこともないような生物が羽ばたいているが,今は深く考えないでおこう…。


とにかく今いる場所を知ろうと,いままで通ってきた建物を振り返れば,正に大きな城そのものであった。

現在,私が立っているこの渡り廊下は塔と塔を結ぶもののようで,この場所以外にも塔と塔を結ぶ渡り廊下のようなものが遠くに見える。

渡り廊下から下を見下ろせば,あの広大な庭園がみえた。

小さな人影が動いているのも見える。

やはりここは地上からはかなり高いところらしく,みえる人影は小さすぎて詳細はつかめない。

とりあえず,ここから降りて人に会うしかなさそうである。


人影が見えたことに安心した私は,下に下りることを目標に渡り廊下を進むことにした。



そうして,どれくらい進んだのか。

私は完全に迷子になった。

下に行く階段を探しているのに,同じところをぐるぐる回ってしまっているようなのである…。

仕方がないので,下に行くことは諦めて,一番見晴らしのよさそうな高い塔の頂上を目指すことにした。





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