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女王の条件  作者: ライム
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いつも通り仕事を終え,疲弊しきったまま気力のみで帰路についた。

誰にでもできる仕事をただひたすらにこなしていく日々。

生きるために仕事をするのか,仕事をするために生きているのか…。


とにかく疲れ切っていた。


ずん,と落ち込む気持ちを何とか切り替えようと帰り道の途中にある雑貨屋に寄ることにした。

もう夜も遅いのに,この店はいつも開いている。

普段は,店から漏れる光を横目で眺めつつ通り過ぎていたけれど…。

今日,初めて入ってみよう、そう考えた。


少しばかり緊張しながら暖かなオレンジ色の光に包まれる店内に足を運べば,

おしゃれで一風変わった小物やアクセサリーが狭い店内に品よく飾られていた。


こんなにおしゃれな店だったなら,もっと早くに来れば良かったと思いながら

木彫りのテーブルの上に視線を移せば,赤いルビーのようなものがはめこまれた指輪を見つけた。

シンプルで上品で可愛らしい。

まさか本物のルビーではないのだろうが,本物とそう大差がないように思われた。


よし,これを買って,ルビーの指輪を買ったということにしよう。

これをつければ,また辛い仕事も頑張れる…ような気がするし。


私は,このルビーもどきの指輪,いや,これはルビーだ。そういうことにしよう。

このルビーの指輪をお手頃価格で購入し,家路についた。


家につくと早速,シンプルな茶色の紙袋に入れられた指輪を取り出し,左の中指にはめてみた。

少し動かしながらはめた指輪をじっくり観察すれば,時折きらりと輝き美しい。


これはいい買い物だったかもと機嫌がよくなりながら,その日私は,指輪をはめたままベッドで眠りについた。




どれくらい眠っていたのだろうか…。なんとなく違和感を感じて目が覚めた。

身じろぎすれば,手触りのよい上質なシーツの感触。

その滑らかな感触の気持ちよさに身体をめいっぱいに伸ばすが,腕や足がベッドからはみ出ることはない。

どうやらここは,私の家にあるベッドではなさそうである。

寝ぼけて回転の悪い頭の中でも徐々に不安と緊張が膨れ上がってきた。

耳を澄ましてみても何の気配もないことを確認し,そろりと瞼を持ち上げれば,見たこともない部屋に置かれたベッドで寝ていたことに気づいた。


なるべく音を出さないように恐る恐る身体を起こせば,人が二人も三人も余裕で眠れそうな大きなベッドに自分が横たわっていたことが分かる。

部屋の中にさっと目を通せば,アンティーク調で明らかに高級だと分かる家具がおかれている。

大きな窓には分厚いカーテンが引かれており,外は見えない。

中でも目を引くのが大理石のようなものでできたテーブルに置かれた深紅の薔薇であった。

大きな花瓶に,これでもかというほど大量の薔薇が飾られていた。


これだけの薔薇…いったい幾らするんだろう…。


大量な薔薇の迫力と豪快さにしばし圧倒されつつ,少しでも状況を把握しようと,できるだけ音を出さないように静かにベッドから抜け出すと,大きな分厚いカーテンの前に立った。

暗くてはっきりとは分からないが,このカーテンもかなり上質そうである。


私はそっとカーテンをめくり,窓越しに外を確認することにした。


窓の外は,どうやら庭園が広がっているようである。夜のようで,赤く染まった月が空に浮かんでいる。

かなり不気味だ…。

もう一度庭園に目を移す。

ところどころに外灯があり,庭園の様子がよく見える。

どこもかしこも深紅の薔薇が咲き乱れている。

完全に整備されている,というよりかは自由奔放といった感じで,野性味を感じる薔薇たちである。

目の前の光景に現実味がなく,おとぎ話にでも入り込んでしまったかのような感覚に陥り,しばらくの間何を考えるでもなく,ただ唖然と窓越しに夜の庭園を眺めていれば人影が庭園に向かっていくのが見えた。

私は,息を潜めて人影を目で追った。

人影が外灯の明かりに近づいていくにつれ,その容貌が明らかとなっていく。

漆黒の髪に騎士服のような深い緑色の衣服に身を包んでいる。

私がいる部屋は庭園からは思ったより高い位置にあるらしく,男の顔は良く見えない。

それでも,男の顔がゆっくりとこちらを見上げるのが分かった。


私はぎょっとして慌てて窓から遠ざかった。

この部屋は明かりもないし,向こうからは見えてない…よね?

バクバクとなる胸と冷や汗をぬぐいながら,ベッドに腰かけた。


お,落ち着こう,私。

大丈夫。これは夢。

最近,疲れてたし…そのせいで妙にリアルな夢をみてるだけ。

こういうときは,夢の中で眠れば起きれる…というのが定石だったはず…。


私は2,3度深呼吸して何とか気持ちを落ち着けると,再び上質なベッドへと身体を預けた。

高級なベッドは,さすがというべきか動揺しきっていた私をきちんと眠りへと誘ってくれた。


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